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〔欧州週間経済動向〕EU、経済再建後は増税ラッシュ?=「皮算用」に不透明感

2020年06月01日 10時17分

欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン委員長(ベルギー・ブリュッセル)/AFP時事
欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン委員長(ベルギー・ブリュッセル)/AFP時事

 【ブリュッセル時事】欧州連合(EU)欧州委員会が5月27日、7500億ユーロ(約89兆円)に上る、新型コロナウイルス危機からの経済再建策を提案した。前例のない規模の資金を市場から借り入れて加盟国支援に充てるもので、将来的な償還財源も今後の焦点となる。欧州委はさまざまな新税導入を想定しており、再建後は「増税ラッシュ」となる様相だが、調整難航は必至。「皮算用」通りに進むかは不透明だ。

 ◇詳細話せず

 「次世代のために力強い道を開く」。フォンデアライエン欧州委員長は気候変動対策やデジタル化政策など成長分野への重点投資で、将来のEUの礎を築く考えを強調。巨額借り入れの正当性を訴える。

 再建策では7500億ユーロをEUの次期中期予算(2021~27年)を通じて加盟国に配分。うち2500億ユーロは融資、残りの5000億ユーロは返済の必要がない補助金として交付する。

 一方、借り入れた資金の償還は28年以降に最大30年かけ長期で行う計画。それまでに新たなEUの収入源を確保し償還財源に充てる方針で、①排出量取引の対象拡大(年100億ユーロ)②「国境炭素税」(年50億~140億ユーロ)③巨大IT企業へのデジタル課税(年最大13億ユーロ)④EUの単一市場から恩恵を受ける大企業への課税(年100億ユーロ)―の四項目を具体例として示した。

 このうち①~③はフォンデアライエン氏が掲げる重点政策を推進するものだが、唐突な印象を与えたのが④の大企業課税だ。

 ドムブロフスキス上級副委員長は記者会見で内容を問われ、「今は詳細を話せない」と回答。議論が生煮え状態であることを印象付けた。

 この大企業課税について域内市場担当のブルトン欧州委員は、EU政策の専門メディアEURACTIVに「経験からすれば、非常に慎重だ」と発言。「想像力は無限だ」とも語るなど、欧州委内からも懐疑的な見方が出ている。EUの税制改正には、加盟国の全会一致が必要なだけに、導入に向けて前途は多難だ。

 ◇時間はまだある?

 大企業課税以外の選択肢も、実現へのハードルは決して低くない。

 中でもデジタル課税は、EU全体での導入を目指してきたが一部の反対でまとまらず、フランスが見切り発車で先行導入した経緯がある。そのフランスに対してはトランプ米政権が米企業狙い撃ちだと反発。仏産品への追加関税をちらつかせて対立が深まったことは記憶に新しい。

 その後は仏側が20年中の徴税を延期。現在は経済協力開発機構(OECD)でのデジタル課税の国際ルール取りまとめを待つことで停戦状態となっている。しかし、欧州委は今回、年内にOECDで合意に至らなかった場合は「行動する用意がある」と独自導入に踏み切る構えで、再び米欧対立の火種となる可能性がある。

 また、欧州委が21年に具体案を示す予定の「国境炭素税」も難航は必至だ。環境規制が緩やかな第三国から流入する低価格の輸入品に課税し欧州企業の競争力を保つ仕組みだが、「保護主義」との批判を招く懸念がつきまとう。欧州委は「世界貿易機関(WTO)ルールに完全準拠する」と主張するが、各国の理解を得るのは容易ではない。

 このほか次期予算での導入を目指す使い捨てプラスチック課税も償還財源に期待されるが、実現は保証されていない。

 ハーン欧州委員(予算担当)は欧州メディアに対し、「重要なことは28年から返済し始められるよう、少なくとも27年末までに具体的な収入を当てにできるようになることだ」と語り、まだ時間的余裕はあるとの認識を示した。ただ、今後議論がまとまらず、EUが返済の当てなく借金を重ねる前例となれば、フォンデアライエン氏の言葉とは裏腹に次世代にツケを回すことにもつながりかねない。(了)

〔欧州週間経済動向〕について
ヨーロッパ諸国やロシアに駐在する時事通信特派員による各国の経済をテーマにした深掘り記事です。毎週月曜日に配信しています。

 

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