〔金利レーダー〕日銀、金融機関へにじむ配慮=コロナ禍で当座預金に付利

2020年05月21日 14時03分

インターネットを通じて内外情勢調査会で講演する黒田東彦日銀総裁=14日
インターネットを通じて内外情勢調査会で講演する黒田東彦日銀総裁=14日

 日銀は新型コロナウイルス感染拡大に伴う未曽有の経済悪化に対応するため、2会合連続で追加金融緩和に踏み切った。4月の緩和策では、企業の資金繰りを助ける金融支援制度を拡充。同制度の利用実績に応じ、金融機関が日銀に預け入れる当座預金に0.1%のプラス金利を適用することなどを決めた。特に地方銀行では長引く低金利で収益が悪化する中、コロナ禍の直撃により、先行き不良債権処理の負担増などから経営環境が厳しさを増すのが必至な状況。日銀による当座預金への付利は、苦境に立たされた金融機関に対する配慮が色濃くにじんだ決断と言えそうだ。

 ◇コロナ禍、リーマン・ショックよりも打撃

 「資金繰りだけで言えば、リーマン・ショック時よりも厳しい面がある」。黒田東彦日銀総裁は追加緩和を決めた4月27日の金融政策決定会合後の記者会見で、企業の資金繰りの円滑化と金融市場の安定に万全を期す考えを強調した。

 同会合では、国債買い入れの上限を撤廃したほか、社債やコマーシャルペーパー(CP)の買い入れを増額。さらに3月に新たに導入した企業金融支援制度を拡充し、新型コロナで売り上げが減少し苦境に陥る企業の資金繰りをサポートする追加緩和策を打ち出した。

 同制度は社債やCPなど民間企業債務を担保に差し入れた金融機関に対し、0%で資金を供給するとともに、利用実績に応じて日銀に預け入れた当座預金にマイナス金利が適用されにくくなる利点がある。

 4月に決めた拡充策では、担保範囲を企業債務だけでなく、住宅ローン関連など家計債務にも拡大。利用対象先を中小企業融資が多い信用組合などにも広げた。さらに、利用残高に相応する当座預金に対し日銀がプラス0.1%の金利を支払う優遇措置を盛り込んだ。

 ◇実質的な日銀の「マイナス金利供給」

 この付利が企業支援制度の「肝」になる。銀行は同制度を通じて日銀から資金を借りると、金利を払うのではなく、逆に受け取ることができる。実質的に日銀による「マイナス金利の資金供給」と同じ効果を持つ。

 日銀内では以前から、金融機関へのマイナス金利での資金供給には消極論が根強い。銀行がマイナス金利で日銀から資金を調達すれば、融資先の企業から貸出金利を引き下げるよう求められる可能性があり、「金融機関サイドが望んでいない」(複数の日銀幹部)ことが背景にある。

 このため、日銀は今回、マイナス金利の資金供給は回避し、それと同じ効果を持つ当座預金への付利を選択。新型コロナで経済の「血流」ともいえる企業金融に目詰まりが生じないよう金融機関に一種の「奨励金」を出して企業向け貸し出しを促すとともに、直接的な金利低下圧力が強まらないように配慮した格好だ。

 実際、こうした優遇措置が好感され、金融機関の利用は拡大基調にある。5月半ば時点で、利用先は80機関、利用残高は12兆6000億円に達した。

 ◇臨時会合で新たな資金繰り支援策

 日銀は4月の会合で、これとは別に中小企業の資金繰りを支援する新たな資金供給手段を検討する方針を表明した。政府の緊急経済対策に基づき、実質無利子・無担保融資を行う金融機関の当座預金に、4月に決めた企業金融支援策と同様に日銀が0.1%の金利を支払うもので、5月22日の臨時会合で決定。「大恐慌の再来を避けるべく、果断に対応しなければならない」(政策委員)との危機感から、日銀による異例の対応が続く。

 一方で、日銀は当座預金の一部にマイナス0.1%の金利を適用する「マイナス金利政策」を維持している。金融機関からは副作用を懸念する声が強いが、黒田総裁は追加緩和手段として、利下げも排除しない考えを繰り返してきた。ただ、今回、日銀が当座預金の一部に逆にプラス0.1%の付利を行ったことで、市場関係者からは「当面、マイナス金利の拡大の可能性は弱まった」との見方が広がっている。(経済部・宇山謙一郎)