〔財金レーダー〕コロナ禍、過剰債務に懸念=官民ファンド資金拡充、再編主導も
2020年11月12日 14時01分
「やられたらやり返す、倍返しだ!」。この決めぜりふで人気の銀行ドラマ「半沢直樹」が今年の夏、7年ぶりに放映された。シーズン2の主題は経営難に陥った「帝国航空」の再建。半沢は「東京中央銀行」に迫られた債権放棄を拒み、抜本的なリストラや事業縮小を柱とした再建案を示し、舞台を回していった。
しかし、半沢の活躍は「銀行員のファンタジー」(投資銀行幹部)にすぎない。新型コロナウイルス感染症による経済危機がこれから本格化する中、帝国航空のモデルとなった日本航空のように「ハードランディング」に至る再生案件は確実に増えそうだ。
政府は経営が悪化した企業の資本増強にファンドを使い、新産業創出や地域経済の下支えにつなげたい考え。危機対応の一翼を担う産業革新投資機構(JIC)などの官民ファンドも、投資態勢の拡大・強化に向かい始めた。一方で、安易な公的救済により「ゾンビ企業」が増えれば、経済成長を損なうとの懸念もある。
◇膨らむ債務、重荷に
政府は6月、新型コロナで危機に陥った企業を支援するため、JICと地域経済活性化支援機構(REVIC)への保証枠を拡大した。投資能力はJICが約3兆円(従来1.5兆円)、REVICが民間金融機関との共同出資ファンド分を含めて約2.5兆円(同1兆円)にそれぞれ増強され、陣容の拡充に動いている。
JICは今夏にベンチャー投資ファンド(1200億円規模)、中堅・大企業投資ファンド(最大4000億円)を設置し、コロナ危機に対応するデジタルトランスフォーメーションや事業再編の進展を促す投資に乗り出す構えだ。前身組織「企業再生支援機構」で2010~11年の日航の会社更生手続きを主導したREVICも地域企業支援だけではなく、債権放棄を伴う中大型の再生案件の機会を探っているとされる。
コロナ禍の外出・移動制限から観光や外食、航空産業を中心にサービス業は長期の収益低迷に直面している。政府は、日本政策投資銀行などの政府系金融機関による資金繰り支援策を強化しており、大企業では日産自動車に政投銀が政府保証付き融資を実施。政府主導での銀行貸し出しは既に40兆円を超えた。この融資が危機に陥った企業の資金繰りをつないでいるが、事業者にとっては膨らみ続ける債務が将来的に新規投資や構造改革の重荷となっていく。
◇劣後ローン「過剰債務に対応できず」
政府は、企業の返済負担急増を避けるため、政投銀などを使って「借り入れ」と「普通株式」の間の性質を持つ劣後ローンや優先株も供給し、時間を稼ぐ構えだ。これに対し、事業再生の専門家らは「危機が来年後半まで長引けば、劣後ローンや優先株だけでは過剰債務に対応できない事例が増える」と断言する。米投資ファンド幹部は、企業がコロナ後をにらんだ変革を進めるには、外部資本を調達しつつ、法的・私的整理による債権放棄を進めることが不可欠になると指摘。来年以降の再編では「官民ファンドも有力なスポンサーになる」と予測する。
しかし、公的資金を使う官民ファンドは政策実現と国民負担回避が常に問われる。REVICの前身組織は再生した日航の再上場で約3000億円の売却益を確保したが、JICの前身による「日の丸」半導体構想や液晶再編は事実上失敗した。
00年代に活動した旧産業再生機構でダイエー再生などを手掛けた松岡真宏氏(フロンティア・マネジメント代表取締役)は、コロナ危機での再編についても「民間が同水準で支援できるのであれば民間に任せるべきだ。常に民間資金を呼び込む姿勢が大事だ」と警鐘を鳴らす。JICの横尾敬介社長は「(ゾンビ企業の)救済的な投資はしない」として、改革できる企業を支援すると表明した。来年本格化する再編投資で官民ファンドはその真価を問われることになる。(経済部・江田覚)(了)