ウォール・ストリート・ジャーナル
コモディティコンテンツ

マーケットニュース

〔銀行レーダー〕SBIは地銀の救世主か?=改革の旗手に名乗り

2019年11月21日 14時00分

 インターネット金融大手SBIホールディングス<8473>が、地方銀行改革の旗手に名乗りを上げた。9月に島根銀行<7150>、11月に福島銀行<8562>への出資を矢継ぎ早に決定。今後、地銀を結集した連合体をつくり、ITや資金運用を一体的に支援する方針も打ち出している。構想内容は地銀の関心を集めているが、枠組みの設計には課題がある。苦境に立つ地銀の救世主となれるかは見通せない。

 ◇システムの共同化に期待

 島根銀や福島銀への支援では、第三者割当増資を引き受けて筆頭株主になり、役員を派遣。共同店舗運営やIT活用などで、収益力強化に向けたてこ入れを行う。大手行や有力地銀などとの共同出資で来年上半期中に持ち株会社も設立。持ち株会社からも複数の地銀に出資し、システムや資金運用を共同化する。

 SBIの北尾吉孝社長は、この二つの枠組みを地銀連合構想「第4のメガバンク」と総称。国が掲げる地方創生への貢献を掲げ、参加を呼びかけている。

 この構想で関心を集めているのは、システムの共同利用だ。「装置産業」と呼ばれるほど、銀行のシステム経費は膨大。多くの地銀が「ノウハウが乏しい」(金融庁関係者)ため、システム提供事業者に任せきりになっている。ネット証券としてIT人材を豊富に持つSBIが地銀側の先頭に立ち交渉することで、システム経費を抑制できるのではないかとの期待がある。

 また、資金運用の共同化も魅力のようだ。日銀の超低金利政策により、地銀の主な運用先だった国債の利回りは大きく低下。リスクの低い金融商品もつられて利回りが低下し、収益を挙げにくくなっている。細る収益を補うため高リスクな商品に資金を投じ、評価額下落で含み損の処理を迫られる地銀も出るなど、苦しい状況だ。共同化で分散投資を行えれば、安定的なリターンを生みやすくなる可能性がある。

 ◇持ち株設立が課題

 SBIが掲げた取り組み内容は、地銀の経営課題を捉えている。これまでに地銀と金融商品の仲介や業務効率化支援などの業務提携を広げており、「細かくフォローしてきた」(SBI関係者)ことで、信頼感も生まれ始めているのは確かだ。北尾氏は「最低でも10行と資本関係を結ぶ」と息巻く。

 ただ、島根銀、福島銀に講じたのと同様、中心的な支援手段が増資となる場合には参加が続かない可能性がある。増資は、既存株主の保有株式を希薄化することになるため、「健全性に懸念がない限り踏み切れない」(地銀関係者)。増資を受け入れれば、健全性への疑義につながるのではないかとの不安の声が二の足を踏ませる。

 また、共同持ち株会社の具体的な枠組みにも課題がある。出資者として有力地銀が名を連ねる枠組みに対し、第二地銀幹部は「競合から出資を受けることになる」と懸念を示す。同一地域内の地銀にとっては支援を願い出にくくなる可能性がある。参加行が少なければ、システムや資金運用の共同化のメリットは薄れてしまう恐れがある。

 あまたの地銀を束ね、大連合をつくる構想に課題はなお多い。SBIが地銀に不足するITや資金運用のノウハウを投入し、長引く超低金利と人口減少を背景とした収益悪化を食い止められるか、手腕が試されている。(経済部・石田恵吾)

関連記事一覧

地銀連合構想

人口減少や超低金利の長期化で経営環境が悪化する地域金融機関。SBIを核とした地銀連合構想は、参加する銀行の経営基盤強化を進めると同時に、金融 …

〔銀行レーダー〕について
金融業界を担当する記者が執筆する深掘り記事です。銀行のフィンテック対応や保険業界の経営課題などさまざまな重要テーマを解説します。

 

ウォール・ストリート・ジャーナル
オペレーションF[フォース]