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〔欧州週間経済動向〕中銀デジタル通貨、研究進む=コロナでデジタル化加速

2020年09月23日 07時29分

 【フランクフルト時事】欧州中央銀行(ECB)は近く、中央銀行によるデジタル通貨(CBDC)の発行に関する調査結果を公表する方針だ。主要先進国の中銀でデジタル通貨の導入を決めた事例はないが、米フェイスブックによる法定通貨や国債を裏付け資産とするステーブルコイン「リブラ」の発行計画が衝撃を与え、中国などでは「デジタル人民元」の実証試験も行われる中、各国で研究が進められている。

◇コロナで消費者の嗜好変化進む

 ラガルド総裁はドイツ連邦銀行が今月10日に開催したイベントで、ECBは「デジタルユーロ」を導入するかまだ決めていないと説明した。ただ、各国の中銀と同様に利点やリスク、運用上の課題を調査しており、近くその結果を公表し、その後は一般から意見聴取する方針だ。新型コロナウイルス流行で電子商取引が増えるなどデジタル化が加速し、消費者の嗜好(しこう)の変化が見られることや、世界規模での決済システムの覇権争いを踏まえ、総裁は欧州の決済システムの強化に向けて積極的に行動すると強調した。一方で、デジタルユーロがリテール決済で利用される場合は「補完的なもので、現金に代わるものにはならないだろう」と予測した。

 デジタル通貨導入のメリットとしては、既存の国際決済システムを介さず、独自のネットワークを通じて安価かつ迅速な決済が可能になり、銀行口座を持たない人々が支払い手段を確保することなどが期待されている。ただ、デジタル通貨が通貨・金融秩序を揺るがし、金融政策の効果を弱める恐れがあるとの懸念が根強い。

 ラガルド総裁も、相当な規模の銀行預金がデジタルユーロに移行すれば、経済活動での資金供給における銀行セクターが果たす役割が、根本的に変わる可能性があると指摘。「ECBの金融政策の実施方法や、金融安定化への支援に影響を及ぼす」と分析し、導入される場合には、こうしたリスクが抑制されるよう設計される必要があると述べた。また、ドイツやフランスなど欧州5カ国の財務相は11日、欧州連合(EU)欧州委員会に対して、消費者と金融政策における主権を保護するため、デジタル通貨に対する厳格な規制を求める共同声明を発表した。

 一方でECBは、他国とのデジタル通貨の研究にも積極的だ。日銀とは2016年から、ブロックチェーン(分散型台帳)を使った決済システムに関する共同調査を実施。さらに今年1月には、日銀とイングランド銀行、カナダ銀行、スイス国立銀行、スウェーデン中銀のリクスバンクを含む5中銀と国際決済銀行(BIS)と共に、CBDCの活用可能性を評価するためのグループも立ち上げた。

◇米FRBは独自に研究

 一方で、米連邦準備制度理事会(FRB)は共同研究グループには参加しておらず、「デジタルドル」の研究を進めるものの、実現性について一段と慎重な姿勢を示している。ブレイナード理事は先月の講演で、中国で導入に向け最終段階に入っているデジタル人民元を念頭に「一国で発行された欠陥のあるデジタル通貨は、金融安定の問題を他国にもたらす恐れがある」と指摘。デジタル通貨の利点を認めるが、マネーロンダリング(資金洗浄)や個人情報保護の漏えい、サイバー攻撃に対するリスクといった課題が解消されていないと警鐘を鳴らした。(了)

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〔欧州週間経済動向〕について
ヨーロッパ諸国やロシアに駐在する時事通信特派員による各国の経済をテーマにした深掘り記事です。毎週月曜日に配信しています。

 

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