〔ロンドン金融観測〕トルコ、通貨危機再燃も=政府・中銀、防衛に苦慮
2020年05月12日 13時13分
トルコで通貨危機が再燃する恐れが強まっている。外国為替市場では、通貨リラの対ドル相場が7日に1ドル=7.27リラ前後に下落し、2018年8月の通貨危機時を超える史上最安値を付けた。その後は若干買い戻されたが、政府・中央銀行は苦しい防衛戦を迫られている。
◇リラ売りに神経とがらす
「外資系金融機関を使ってわれわれの経済を崩壊させ、追い詰めようとする連中を失望させる」。エルドアン大統領は11日、投資家に敵意をむき出しにし、通貨防衛の姿勢を鮮明にした。
政府は米金融大手シティグループや仏BNPパリバなど欧米3金融機関をリラの国際取引から締め出すなど、外国人投資家のリラ売りに神経をとがらせている。
リラ売りの背景には、トルコ経済が2年前の通貨危機以降、低迷を続けてきたことに加え、大統領の度重なる利下げ要求や人事介入で「通貨の番人」たる中銀の信認も低下していたことがある。そこに新型コロナウイルスの流行が重なり、リラ急落を招いた。
◇マスク外交、奏功せず
トルコでは11日時点では新型コロナに約14万人が感染し、4000人近くが死亡。感染者数は中東で最多だ。
その上、リラ買い介入の原資となる外貨準備残高も底を突き始めた。一方で外貨建て債務の返済や経常収支の赤字などで外貨調達も必要とあって、政府・中銀は米連邦準備制度理事会(FRB)との通貨スワップ協定の締結に望みをつないでいる。
しかし、米国に医療物資を提供するなどして秋波を送ったものの、ロシア製ミサイル導入などをめぐってこじれた関係の修復は進まず、FRBの反応も「既に相互信頼関係にある国々とは通貨協定を結んでいる」(高官)と冷ややか。欧州主要国にも同様に「マスク外交」を展開したものの、「英国の安全基準を満たしていなかった」(英メディア)などと非難されている。
◇IMF支援要請は否定も
市場ではトルコが国際通貨基金(IMF)への金融支援要請に追い込まれるとの見方もくすぶっている。大統領の最大の政敵と目される野党「民主主義進歩党」のババジャン党首も地元メディアに「新型コロナによる経済危機に対応するため、政府はIMFなどから低金利融資を得ることも検討すべきだ」と語っている。
しかし、トルコは2000年代初頭に金融危機に陥り、IMFから金融支援を受けた経緯がある。エルドアン氏はそれをきっかけに政権を掌握したことから、政変につながりかねないIMFへの支援要請をかたくなに否定している。
18年8月の通貨危機は中銀が大統領の要求を振り切って大幅な利上げに踏み切ったことで、ひとまず沈静化した。しかし、それがきっかけで中銀総裁は解任されており、英調査会社キャピタル・エコノミクスは「中銀が適切に行動することに深刻な疑念を抱いている」として、1ドル=8~9リラに一段と下落する可能性も指摘している。(ロンドン支局・樋口悠、5月11日)