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〔市場展望〕米株安や人民元高にらみ、ドル安進行=三井住友銀・鈴木氏

2020年10月23日 11時32分

AFP時事
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 鈴木浩史・三井住友銀行エコノミスト=今週の為替市場では、合意には至っていないものの米追加景気対策の協議が連日行われたこと、堅調な中国経済指標を確認して人民元高が進行したこと、英国とEUの通商交渉再開を受けてGBPUSDが上昇したことなどを背景に、米ドル安となった。USDJPYについては、米ドル安を主因に1円近く円高が進行した。

 米財政協議は一進一退が続いている。ペロシ下院議長はいったん10月20日を追加刺激策の協議期限としたものの、「相違点が依然残っているが、合意を楽観している」とコメントし、その後もムニューシン財務長官との協議を続けている。追加景気対策案について、ホワイトハウス1.88兆ドル、民主党2.2~2.4兆ドルと規模に違いがある中、新型コロナウイルス対策については一部で合意に至ったと報じられている。しかしながら、地方政府支援や雇用主免責条項などについて、ホワイトハウスと民主党の間で相違点は残っているもよう。また、上院共和党に関連して、マコネル上院院内総務は大統領選前の追加景気対策法案の採決に後ろ向きなスタンスであるものの、シェルビー上院歳出委員長は「内容次第で1.9兆ドルの支援策にオープン」とするなどややスタンスの変化も見られた。

 中国で19日に発表された主要経済指標は、実質GDP成長率こそ市場予想を下回ったが、9月の生産、消費、投資は市場予想を上回る堅調な結果だった。また、失業率の低下や所得の改善も確認でき、中国経済の回復ペースが加速していることを確認する内容であった。

 2020年7~9月期実質GDPは前年比+4.9%(市場予想:同+5.5%、4~6月期:同+3.2%)と、市場予想を下回った。これを受けて、1~9月期の実質GDP成長率は前年同期比+0.7%(市場予想:同+0.7%、1~6月期:同▲1.6%)とプラスに転じており、景気の復調が確認される。内訳では、投資の寄与が大きいことに加え、堅調な輸出を背景に純輸出がプラス寄与となっており、内需だけでなく外需も中国景気にとっての支援材料となっている。

 9月の小売売上高は、前年比+3.3%(市場予想:同+1.6%、前月:同+0.5%)と、市場予想を大きく上回った。通信機器の販売額が前年比マイナスに転じたものの、自動車関連や日用品などが引き続き堅調な伸びとなった。また、食料品や医薬品についても加速しており、当局の推進策を背景とした消費回復が確認できる。出遅れている音響機器や衣料品などについては、11月11日のインターネット販売業者のセールなどを機に、今後の改善が期待される。

 人民元は上昇基調が続いた。USDCNHは16日に6.70台を下抜けて6.68台半ばまで下げ幅を拡大。週明け19日にも米ドル安基調の中、6.67割れ。20日にかけては6.65台半ばまで直近安値を連日で更新。21日にかけてはGBPUSD高やEURUSD高などを背景に米ドル安が進み、USDCNHは6.62台後半まで安値を更新後、NY時間は6.64台半ばまでやや値を戻す展開となった。

 英国とEUの間での貿易協定は、予想されていた通り、合意が見られない中で協議が継続している。16日に、ジョンソン首相が「オーストラリア型の合意を準備すべきだ」だと発言し、GBPUSDは1.2960から1.2860へ急落。しかしながら週明け19日に、EUが通商協定の法的文書を初めて提案したことを受けて、GBPUSDは一時1.3024まで反発。さらに21日には、バルニエEU首席交渉官が「英国との通商合意は手の届くところにある」と前向きな姿勢を示したことに加え、「11月半ばまでの合意を目指して通商交渉が再開の見通し」と報じられたことで、GBPUSDは1.31台を上抜けると1.3170越えまで大きく続伸した。

 来週、日本では28日から29日にかけて日銀金融政策決定会合が開催される。また、30日には9月失業率および9月鉱工業生産が発表となる。米国では27日に9月耐久財受注、29日に第3Q GDP、30日に9月個人所得・支出およびPCEデフレータが発表予定。欧州では、29日にECB理事会が開催され、30日にユーロ圏第1Q GDPが発表される。

 日銀金融政策決定会合後に、経済・物価情勢の展望(展望リポート)が公表される。20日に報じられたところによれば、20年度の成長率と物価の見通しについて小幅に下方修正される公算が大きいという。夏場のサービス消費が弱かったことや、Go Toトラベルによる宿泊料などの値下げなどが主な理由とされる。

 ECB理事会については、金融政策は据え置かれる見込み。前回会合時と同様、為替EURUSDは米ドル安を背景に足元で上昇しつつある。ラガルド総裁からの通貨高へのけん制発言や金融市場の反応には注意が必要となろう。なお、一部市場参加者の間では、12月の理事会でPEPPの拡充による追加金融緩和が決定されるとの見方が出ている。

為替はドル安の継続性が焦点だ。EURUSDは19日に1.1720から1.1760へ上昇し、1.1794まで上げ幅を拡大。20日にかけても1.1810から1.1841まで続伸し、21日にはGBPUSD上昇をにらみ1.1880まで高値を更新している。一方、USDJPYは20日に105.75から105.50割れまで小幅に下落し、21日にかけては元高をにらみ104.35まで大きく安値を更新した。米追加景気対策をめぐる協議をにらみ米ドルは上下しており、来週にかけては各国中銀動向と併せて、為替市場のボラティリティが高まるかもしれない。
【来週のドル円予想レンジ】102円90銭~106円90銭

〔市場展望〕について
三井住友銀行のエコノミストによる外為市場の見通し記事です。各国中央銀行の金融政策や世界経済の状況などを詳しく解説しています。毎週末に配信します。

 

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