〔商品ウオッチ〕WTI、来月の限月交代時もマイナス価格?=貯蔵余力が焦点
2020年04月22日 09時06分
20日のニューヨーク原油(WTI)先物相場で、期近5月きりが市場で初めてマイナス価格に落ち込み、市場に衝撃を与えた。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた、各国の経済活動や移動制限などの影響による原油需要の減少が背景にある。限月交代を控え、現物引き受けを避けたかった投資家らの投げ売りが殺到。貯蔵施設の空きが少なくなっていることから、実需の買いも入らなかった。このような特殊事情で起こった異常事態ではあるが、状況が変わらなければ、来月も繰り返す可能性が指摘されている。
国際エネルギー機関(IEA)は、2020年の世界の石油需要が前年比で日量930万バレル、4月は前年同月比で2900万バレル、それぞれ減少すると予想している。石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国によるOPECプラスは5~6月、日量970万バレル減産することで合意したが、それでも1000万バレル超の供給過剰になることが想定される。
このような中、原油在庫は積み上がっている。米エネルギー情報局(EIA)の統計によると、米国の10日時点の実質的な貯蔵余力は、全米で約1億5000万バレル、WTI先物の受け渡し拠点であるオクラホマ州クッシングで約2100万バレルとなっている。3月下旬以降、米原油在庫は毎週1000万バレルを超えるペースで増加しており、このままでは遠くない時期に満杯になる。
野村証券の大越龍文シニアエコノミストは、今後の原油先物相場について、「先行きの需要回復が期待される中、期先は落ち着いた推移になるが、貯蔵能力の限界を考慮すると、期近には強い下押し圧力がかかり続けるだろう」とみている。
足元のWTIはおおむね、期先の限月になるほど価格が高くなる順ざや(コンタンゴ)になっている。このため大越氏は、期近の限月交代により、いったん価格は回復する可能性はあるが、すぐに新しい期近が売られることもあり得ると指摘。「世界の原油需要の回復が確実に見通せるようにならない限り、限月交代が近づくと期近の価格が再びマイナスに落ち込むことも想定される」と話す。
SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは、各国の新型コロナ感染対策により需要が減少し、OPECプラスによる協調減産の開始前だった4月や直後の5月は、「需給バランスが最も緩む局面として意識された」と分析。年末に向けては、需給の改善を見込んでいる。 ただ、丸山氏も「需要と供給の間のクッションとして作用する貯蔵設備の限界に対する懸念が、米国を中心に強まっている」との見方だ。この問題を解決するためには、供給抑制に向けた動きを、生産側だけでなく、一定の貯蔵設備を持つ消費国も巻き込んで、国際的に進める必要があると考えている。丸山氏は、「この取り組みが遅れれば、WTIのマイナス価格という異常事態が繰り返される可能性が否定できない」と語る。
原油先物相場は、需要を左右する新型コロナの動向と、産油国の生産量に加え、貯蔵余力という新たなポイントが注目されることになった。(小代田・4月22日)