アセットマネジメントOne、「暗号資産関連株式ファンド」を新規設定=暗号資産関連市場にフォーカスしたファンドは国内初
2025年08月04日 07時00分

アセットマネジメントOneは7月31日、国内外の株式に投資する「暗号資産関連株式ファンド 愛称:シークレット・コード」を新規設定した。ボトムアップ・リサーチにより世界の上場株式の中から、暗号資産に関連するビジネスを行う企業に投資する。暗号資産関連市場にフォーカスしたファンドは国内で初めて。設定の狙いや運用方針などを、担当者に聞いた。
◆世の中を変革する一大テーマ
-新ファンド設定の背景は
岸浦裕介氏(リテール&ウェルス・ソリューション本部副本部長兼リテール営業部長) 暗号資産の登場は、100年に1度と言えるような、世の中を変革する一大テーマだと認識している。世界経済や人々の価値観・行動様式を変え得るものだと思う。
暗号資産が2009年に登場してから、約16年が経過する。この間、暗号資産の不正流出やハッキングが起こったり、暗号資産取引所が倒産したりするなど、さまざまなことがあった。全体的には規制強化の方向にあって、暗号資産はなかなか普及してこなかった。また、暗号資産関連企業も資金調達が難しく、大きく羽ばたくことができなかった。
しかし、そうした状況が大きく変化しつつある。米国では、トランプ政権の登場により規制緩和に向かっている。日本でも、暗号資産について金融審議会の作業部会で議論が始まった。暗号資産関連ビジネスが拡大する可能性が出てきたと見ている。
世の中を変革するような大きなイノベーションの始まりは、一般的に「何の役に立つか」など、なかなか理解されにくいものだ。しかし、いつの間にか社会の共通インフラになり、当たり前になるのが、過去の歴史であった。暗号資産も、約16年間の歳月を経て、理解が進んできたのではないか。
例えば、暗号資産についてこれまでは、漠然と「安く、早く送金できるもの」といった程度の理解だったものが、最近では「ビットコイン」や「イーサリアム」などさまざまな種類の暗号資産が認識されるようになり、それぞれの特徴や役割も整理されてきた。暗号資産は今後、本格的に社会に浸透し、実装される段階に入るのではないか。
このファンドは、暗号資産に直接投資するのではなく、関連ビジネスを行う企業の株式に投資する。いずれ近い将来、暗号資産が社会の共通インフラになり、世界を変えるイノベーションを引き起こすという仮定のもと、関連するビジネスが拡大するだろうと考え、それらの企業の株式を投資するファンドを設定した。
◆ハイテク分野に強みを持つ運用チーム
-ファンドの運用方針は
田中康浩氏(商品本部商品開発部シニアマネジャー) このファンドは、ボトムアップ・リサーチにより世界中の金融商品取引所に上場する企業の中から、暗号資産に関連するビジネスを行う企業を発掘する。暗号資産にテーマを絞った株式ファンドは、日本で初めてだ。
実質的な運用は、ハイテク分野に強みを持った運用会社ヴォヤ・インベストメント・マネジメント・カンパニー・エルエルシーが行う。サンフランシスコに本社があり、ハイテク企業が集積するシリコンバレーに近い。2025年3月末現在の運用資産残高は、全世界で約51.1兆円に上る。日本の公募投信でも、人工知能(AI)やサイバー技術などのテーマ型運用で約1.4兆円の資金を運用している。
鈴木佐弥氏(戦略運用本部マルチマネジャー株式部ファンドマネジャー) この戦略は、ポートフォリオマネジャー3人とアナリスト2人で運用している。ヴォヤ社にはこのほか、テクノロジーやヘルスケア、AIなどの運用チームがあり、相互に意見交換して世界的なトレンドを追っている。
運用者が住んでいる地域には、ハイテク企業の創業者や従業員が暮らしていて、さまざまなコンタクトポイントがある。テクノロジー関連のイベントも開催される。ヴォヤ社は、既に多くのハイテク企業に資金を投じているので、投資家として定期的にこうした企業の幹部に会うことができることは、大きな強みだ。
◆暗号技術を利用して発行されるデジタル資産
-暗号資産とは何か
田中氏 暗号資産とは、取引履歴を管理するブロックチェーンなどの暗号技術を利用して発行されるデジタル資産だ。インターネット上でやりとりできる財産的価値で、海外送金などに使われている。代表的なものにビットコインやイーサリアムがある。
特定の国家に依存しない無国籍資産であることが、その希少性も相まって注目されている。地政学的理由や財政悪化懸念などで法定通貨が下落すると、特定の国家の信用不安を受けにくい暗号資産が注目される傾向がある。
まずプラス材料だが、米国で7月に、ドルなどの法定通貨と価値が連動するように設計された暗号資産「ステーブルコイン」の規制整備に関する法律「ジーニアス法」が成立した。ステーブルコインの発行者に、現金や米国債といった安全資産で100%裏付けることを求めた。
二つ目は、2024年に米国で暗号資産の上場投信(ETF)が解禁されたことだ。投資家の裾野が拡大し、機関投資家がポートフォリオの一部に組み入れやすくなった。
三つ目は、2024年4月にビットコインが「半減期」を迎えたことだ。暗号資産は、4年に1度、取引データを検証する「マイニング」によって得られる報酬(コイン)が半分に減少するように設計されている。これによって暗号資産は、希少性を維持している。
このほか、各国政府による規制緩和や投資家保護の対応がプラス材料になるだろう。
一方、マイナス材料だが、暗号資産は、価格変動(ボラティリティ)が非常に大きいことだ。過去最高値を更新したかと思うと、利益確定売りが出て、大幅に値下がりする場合もある。こうした点は、事前に理解しておくことが重要だろう。
また、暗号資産が送金手段などに使われるようになると、マネーロンダリング対策やテロ資金対策などのコストが求められるだろう。このほか、暗号資産の不正流出やハッキングなどが顕在化するリスクも考えられる。
岸浦氏 暗号資産の特徴は、中央集権的ではない(decentralized)ことだ。通貨であっても、株式であっても、政府や取引所などの中央集権的な組織によって支えられている。これに対して、暗号資産には、予め決められたルールによって発行されており、恣意性が働きにくい。例えば、ビットコインの上限は2100万枚と決まっている。
鈴木氏 このファンドは、暗号資産関連株式に投資するファンドなので、暗号資産の値動きをトラックするものではない。ただ、株価が、暗号資産価格の影響を受けることはあるだろう。
一般的に株式であれば、企業のファンダメンタルズやマクロ経済環境の影響を受ける。一方、暗号資産の価格は、投資家の心理を反映したモメンタムやセンチメントの影響を受けやすいことについて、留意してほしい。
ただ、暗号資産市場に参加する投資家が増加すれば、暗号資産の価格は安定する方向に向かっていくだろう。
◆交換所、マイニング、受託業務
-暗号資産関連ビジネスは
田中氏 暗号資産関連ビジネスには、暗号資産を売買し法定通貨と交換ができる「交換所」、暗号資産の取引データを検証し新しい暗号資産を生成する「マイニング」、暗号資産を安全に保管・管理する「受託業務」、「証券取引所」、「資産運用会社」、「決済・送金」などがある。
このファンドの運用プロセスを見ると、世界の上場株式(2500~3000銘柄程度)から、暗号資産ビジネスの発展によって恩恵を受ける200社程度を投資ユニバースに特定する。次に、組入候補銘柄を75~100社程度に絞り込み、最終的に30~60銘柄程度でポートフォリオを構築する。
海外では今後、暗号資産関連企業が次々と株式公開することが見込まれている。これからさらに暗号資産関連市場の拡大が期待される。
鈴木氏 このファンドで投資するビジネスは、大きく分けると「マイニング周辺ビジネス」と「暗号資産に関する金融サービス」に分類できる。
マイニング市場は、2030年にかけて年率7~8%で成長することが見込まれている。マイニングは、高性能なコンピュータを駆使し、大量の電力を消費するのだが、この電力をAIデータセンターに貸し出すなど、事業の多角化を進める動きが見られる。
暗号資産関連の金融サービスは、2032年までに年率25%以上のペースで成長することが見込まれている。米国で「ジーニアス法」が成立した。今後、拡大が見込まれるステーブルコインの関連企業については、ディスクロージャーなどの対応を見極めながら、厳選投資していく。
◆余裕資金で長期投資を
-投資家の心構えは
田中氏 暗号資産関連株は、基準価額のボラティリティが大きくなることが予想される。価格が下落する局面もあると思われるので、投資家の皆さまには、それぞれのリスク許容度に応じて、余裕資金を使って、ポートフォリオの一部に組み入れるような投資スタンスで臨むことが望ましいだろう。
このファンドの値動きの興味深い点は、ほかの主要資産との値動きの相関性が低いことだ。保有資産の一部に組み入れることで、ポートフォリオのリスク・リターンを改善させる効果が期待される。分散投資の手段の一つになるだろう。
石河和也氏(リテール&ウェルス・ソリューション本部リテール営業部チーム長) 値動きの大きなファンドであり、これから始まる100年に1度と言えるような、大きな変化を捉えるテーマなので、超長期の投資スタンスでじっくり保有することが望ましいだろう。
ボラティリティの大きなファンドなので、金融機関の販売窓口でも超長期の保有をお勧めしている。少額投資非課税制度(NISA)は運用益が非課税になる制度なので、こうした制度を利用して投資するお客さまも多いようだ。