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金融当局ネットワーク、脱炭素社会へ気候シナリオを公表=インフレ率や金利上昇のケースも-日本総研金融リサーチセンター・大嶋氏

2021年07月20日 15時00分

日本総研金融リサーチセンター・大嶋氏

 金融庁や日銀が参加する「気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)」は、脱炭素社会の実現に向けて、気候シナリオを公表した。各国の取り組みや技術革新などに応じて六つのシナリオを提示して、災害などの「物理的リスク」と、脱炭素社会への移行に伴う経済への悪影響などの「移行リスク」を計測するとともに、さまざまなマクロ経済指標を算出した。NGFSは、2017年のパリ気候変動サミットの際に、有志の金融当局により設立された。

 日本総研 調査部 金融リサーチセンター 副主任研究員の大嶋秀雄氏が、公開されたデータをもとに、世界経済への影響をまとめた。それによると「炭素税導入に伴い、2020年代半ばには世界的にインフレ率が大幅に上昇し、投資需要の増加も相まって、長期金利も持続的に上昇する見通し。2050年の日本の長期金利が5%に達する」ケースもある。

 大嶋氏は、この気候シナリオについて「金融当局や中央銀行だけでなく、民間企業も活用して、秩序ある脱炭素移行の実現に向けて、シナリオ分析を蓄積することが重要だ」と指摘する。また、来年4月の東証市場再編で誕生する、最上位の「プライム市場」では、「TCFD(※)またはそれと同等の枠組みに基づく開示」を求められるため、シナリオ分析等の気候関連の開示を強化する必要がある。

 (※)TCFDとは、先進20カ国(G20)の財務相中央銀行総裁会議の要請で、2015年に設置された「気候変動財務情報開示タスクフォース」のこと。

◆六つのシナリオ

(図表1)6つのシナリオの特徴

 気候シナリオの公表は、昨年に続いて2回目。「(産業革命以前から今世紀末までの)気温上昇の程度」や「技術革新のスピード」などの観点から、六つのシナリオを設定している。このうち、「シナリオ①秩序ある脱炭素ケース(気温上昇が1.5度にとどまり、気候変動対策が早期かつ円滑に導入され、経済への影響が中程度になる)」と、「シナリオ②無秩序な脱炭素ケース(気温上昇が1.5度にとどまるものの、気候変動対策に産業間格差が存在し、経済への悪影響が大きい)」について、マクロ経済・金融指標を分析する。

◆経済への影響

(図表10)シナリオ別の主要国の経済影響(実質GDPのベースシナリオからの乖離)

 シナリオ①・②は、ともに2050年の脱炭素を実現するものの、気候変動対策に係る産業界の調整不備や、炭素税により増加する歳入の活用方法などの違いにより、経済への影響は大きく相違する。シナリオ①では、日欧がプラス圏で推移する一方、インドや米国は大幅に下振れている。シナリオ②では、いずれの国もマイナスになるが、インドへの影響が深刻だ。

◆主要国のインフレ率

(図表12)シナリオ別の主要国のインフレ率

 インフレ率は、炭素税の導入にともない、2020年代は、中国や米国を中心に各国で急上昇し、2020年代後半以降、低下に向かうと想定されている。シナリオ②では、経済減速のため、2020年代のインフレ率の上昇は相対的に抑えられる。

◆主要国の長期金利

(図表13)シナリオ別の主要国の長期金利

 NGFSは、炭素価格によるインフレ率上昇や、移行に向けた投資需要の増加が長期金利を押し上げると説明している。シナリオ②では、金利上昇のペースが早く、とりわけ日本の長期金利は欧米を上回り、2050年に5%に達すると想定されている。こうした大幅な金利上昇は、資金調達コストの増加や資産価格の下落を通じて、経済に大きな混乱をもたらすとみられる。

■NGFSの気候シナリオが示す「2050 年脱炭素」の世界~民間企業で行うリスク分析に向けて求められること~(日本総研)
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=39241

■NGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)による気候シナリオの公表について(令和3年6月8日金融庁)
https://www.fsa.go.jp/inter/etc/20210608/20210608.html

■NGFS(Network for Greening the Financial System)による気候シナリオの公表について(2021年6月8日日本銀行)
https://www.boj.or.jp/announcements/release_2021/rel210608a.htm/

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