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〔マーケット〕中間選挙の勝利に向けて政策調整へ=トランプ大統領の相互関税-日興アセット・神山氏

2025年04月18日 13時00分

神山直樹チーフ・ストラテジスト

 日興アセットマネジメントの神山直樹チーフ・ストラテジストに、マーケット見通しを聞いた。

神山氏は、トランプ米大統領が発表した相互関税について「来年の中間選挙での勝利に向けて政策調整を進める局面に入る。国民が不安や不信を高めない程度に折り合いをつけていくだろう」と分析。その上で「米国議会では減税の議論が進んでおり、来年に向けてマーケットは回復していくと見ている」と指摘した。主なポイントは、以下の通り。

◆マーケット見通しの大枠は変わらず

 トランプ大統領が、輸入品に対する関税を初めは高めに設定し、交渉の中でそれを緩めることは分かっていたことだ。4月2日に米国が相互関税を発表したことでマーケットは急落したが、現在でも当社のマーケット見通しの大枠は変わっていない。

 来年3月末までの見通しだが、米連邦準備制度理事会(FRB)は利下げを 行い、FFレートは4%に低下するだろう。一方、日銀は、政策金利を0.75%まで引き上げると予想している。円相場は1ドル=140~142円と見ている。トランプ政権が関税の引き上げを90日先送りしたことで、利下げのタイミング等は後ろにずれるが、方向性は変わっていない。

 来年3月末の日経平均株価は3万6000円~3万8000円に戻ると考えている。NYダウ工業株30種平均は4万5000ドルと見ている。

◆2期目のトランプ政権、「中間層を救う」

 トランプ政権の政策は、8年前の1期目と大きく違う点がある。「中間層を救う」という明確な目的を強く打ち出して、その方法として「米国への製造業の回帰」を進めようとしている。

 米国企業はこれまで、資本の論理でより人件費の安い海外に製造業を移転した。米国内では、産業のサービス化が猛烈な勢いで進んだ。トランプ大統領がこれをやめることは、かなり革命的な変化だと思う。これによって米国の成長見通しが大きく悪くなるという話ではないが、「圧倒的な大国」である米国は「普通の国になりたい」と言っている。

 これは第二次世界大戦後の世界の在り方を変えることになるだろう。米国は「圧倒的な軍事力」を持っているが、トランプ政権は各国に対して「米国の負担を分担する」か、「軍備を拡張して兵器を購入する」ことを求めている。また、米国は「圧倒的な輸入超過」を抱えているが、関税の引き上げによって回収しようとしている。

 こうした視点で見ると、大統領の政策は目的に対して一貫しており、予想を裏切ることはやっていない。その点では分かりやすい政権だと感じている。不確実性は、トランプ大統領の発言の順番や、対応のやり方などにあると言えるだろう。

◆来年11月の中間選挙の勝利をめざす

 もう一つのカギは、来年11月に予定されている中間選挙だ。ここでトランプ大統領が負ければ、何の政策も実現できない。今年秋から始まる1年間の選挙戦の間に、消費者がトランプ政権の政策に納得しなければ、勝利はない。こう考えると、悪い材料を早めに出してしまい、トランプ大統領の力で経済が「V字回復」する様子を国民に見せることが必要になる。

 関税については、日本や欧州、カナダ、メキシコなどと交渉を進めることで、米国民が政権に不安や不信を高めない程度に折り合いをつけていくと見ている。

 減税については、上院共和党が12月にタイムリミットを迎える所得税減税の継続を検討している。下院共和党は、中間層への追加減税の可能性を議論している。議会は7月下旬に夏休みに入るため、その前に方向性をまとめるのではないか。秋以降は民主党と調整を進め、米国民が「良かった」と思う結果を出すだろうと見ている。

 米国経済は、こうした政策調整により、ある程度GDPや企業成長率が改善することをイメージして、見通しを立てることが適当ではないか。

◆日本経済、消費回復、設備投資は年後半から

 今回の経済見通しの作成に当たって、米国のGDP成長率を1.6~1.7%、日本は0.7%と予想した。

 設備投資は、混乱が続いている間は先送りされがちなので、少しゆっくりになる可能性がある。ただ、混乱が落ち着きを取り戻すことで、年後半から再加速するだろう。設備投資が後ろにずれることでGDPの予想を引き下げた。

 賃金上昇の勢いは、簡単には収まらないと見ている。このため個人消費については、実質所得がプラスになる中、インフレが次第に落ち着くことで、改善するだろう。ただ、漠然とした不安感の広がりと貯蓄率の上昇はリスク要因だ。

 

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