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労働生産性の上昇が重要に=賃金とインフレの好循環で-ナティクシス証券の岩原氏

2025年10月30日 07時00分

岩原宏平氏

 ナティクシスCIBはこのほど、グローバル経済の見通しをテーマに記者会見を開いた。この中で、ナティクシス証券 調査部 エコノミスト ディレクターの岩原宏平氏は、日本経済について「賃金とインフレの好循環を実現するため、労働生産性を高め、潜在成長率を押し上げる成長戦略が大切になる」と指摘した。

◆労働生産性を上回る賃上げ

 春闘に対する政府の働きかけも奏功し、所定内給与の増加率は、30年ぶりの高水準で推移している。日本経済のデフレ脱却に向けて前向きの動きだ。

 しかし、賃金の上昇率が労働生産性の伸びを上回っているため、単位労働コストが2%以上、上昇している。飲・食料品の値上げラッシュの要因として、円安や原料費の上昇に加えて、人件費の重要性が高まっており、インフレを左右する一因になっている。

◆信用創造は限定的

 実質GDPは5四半期連続で増加する中、銀行貸出は急増し、預貸率も持ち直している。

 しかし、インフレの影響を加味した名目GDPが急速に拡大しているため、実質ベースの銀行貸出は頭打ちの状況だ。預貸率の上昇の要因についても、名目GDPの拡大を加味した実施ベースの預金は低下しており、信用創造の拡大は限定的だと考えている。

◆財政の安定性は「改善」

 名目GDPの成長率が、長期国債の利回りを大きく上回っており、財政の安定性は改善している。また、名目GDPが上昇することで、税収が増加しており、プライマリーバランス(基礎的財政収支)の赤字は縮小し、GDP比の政府債務は低下している。

 日銀はYCC(イールドカーブ・コントロール)を2024年3月に撤廃したが、金融システムの安定性を目配りし、長期国債買入により長期金利の急騰は抑制されている。

◆成長戦略が重要に

 円安が進み輸入物価が急上昇することを抑制するため、日銀は12月に0.25%の利上げに踏み切ると予想している。政府は、物価高対策の一環として日銀の利上げを容認するだろう。

 名目GDPの増加は、日本の財政を安定させるために重要だ。そのためには、中長期的に日本の労働生産性を高め、潜在成長率を押し上げる成長戦略が大切になる。これを実現することで、名目賃金だけでなく、実質賃金が増加し、賃金とインフレの好循環が実現すると考えられる。

 

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