リスクを抑え、米国株式を上回るリターンをめざす=「ティー・ロウ・プライス キャピタル・アプリシエーション・ファンド」を設定
2025年10月27日 08時30分

ティー・ロウ・プライス・ジャパンは、米国の株式・債券に投資する「ティー・ロウ・プライス キャピタル・アプリシエーション・ファンド」を設定する。株式の成長力を中核に据えつつ、短期的な価格変動や資産毀損(きそん)リスクの抑制に配慮するユニークな戦略で、「米国株式を下回るリスクで、同等または上回るリターン」を追求する。
このファンドが採用する運用戦略を用いて運用されている米国籍のファンドは、米国に確定拠出年金(DC)制度が浸透する中で、「長期にわたる経済成長の果実は享受したいが、元本割れは避けたい」とする投資家のニーズに応えてきた。運用本部株式運用戦略部長の永井基志ポートフォリオ・スペシャリストに、このファンドの運用方針や投資家へのアドバイスを聞いた。
◆17年間連続で平均を上回るリターン
―このファンドの概要と評価は
永井氏 この戦略は、米国で1986年に設定された。米国の株式に約6割、米国の債券・キャッシュに約4割を投資する設計のファンドだ。
この戦略の設定来のパフォーマンス(分配金再投資、費用控除後、ドルベース、2025年6月時点)を見ると、年率リターンは11.3%と、S&P500(10.9%)を上回った。一方、年率のリスクは10.0%と、S&P500(15.3%)を下回った。
設定来の39年間について、このファンドを5年継続保有したと仮定した「ローリングリターン」を月次ベースで試算すると、米国株式は409回中49回マイナスを記録したのに対して、この戦略はマイナス回数が1回だけだった。株式市場の下落局面において資産価値を維持できれば、その後の市場回復における資産成長の可能性を広げることにつながる。
このファンドは、過去100年間において唯一、17年間連続でモーニングスターにおける同一カテゴリーの平均を上回るリターンを上げている。同一の運用者により運用されるファンドとしては、これまで70年以上破られなかった記録を塗り替えたことになる。モーニングスターのデータをもとにティー・ロウ・プライスが分析した。
◆株式は「GARP」銘柄に注目
-運用戦略は
永井氏 こうしたパフォーマンスを残してきた運用には、二つの特徴がある。1点目は、投資に際して、あらかじめ有望な分野に投資の的を絞り込んでいることだ。「Fishing in the right pond(正しい池で釣りをする)」と言っているのだが、長期的に優れたパフォーマンスが期待される銘柄群から選別して投資することが大切だ。
例えば、株式は「GARP(Growth at Reasonable Price、ガープ)」と呼ばれる、成長力の割に株価が割安な銘柄群に注目している。「利益成長性とバリュエーションのバランスがよく、適切な資本配分が可能な企業の株式」だ。
グロース(成長株)投資家は、ハイテクなど高い成長性を持つ企業に目を奪われがちだ。バリュー(割安株)投資家は、バリュエーションの低い株に注目してしまう。「GARP」銘柄は、こうした投資家から見過ごされやすく、魅力的な投資機会が存在することが多い。
◆債券は質の高いハイイールド債
債券は「ハイイールド債(利回りの高い社債)」に重点的に投資している。ハイ・クオリティーの「BB」格は、リスクに対するリターン効率が高いことから、こうした質の高いハイイールド債を多く保有している。景気の影響を受けにくい業種を選別し、企業の収益力を見極めた上で、満期まで保有している。
◆逆張りの発想で、株価急落の時のみ配分変更
株式の配分比率は、主に株式市場が大きく下落した局面で、株式の比率を大きく増やしている。逆張りの発想で、株価が割安なタイミングでより多く、優良な株式を取得するためだ。例えば、2008年の世界金融危機では、リーマン・ショックで株価が大きく下落したが、このファンドは株式の比率を一時的に約9割まで高めた。2020年のコロナショックの時にも、7割程度まで引き上げた。
長期的視点で見ると、世界経済は成長し、企業業績は拡大し、株価は上昇していく。経済やマーケットの回復局面をしっかり捉えるには、他の投資家がパニック売りしている時にこそ、株式の比率を高めるアプローチを取ることが重要だ。
2点目は、株式の投資チームが全ての投資判断を行っていることだ。このチームが株式だけでなく、債券の銘柄選択も行う。資産配分の意思決定も彼らが行う。一つのチームが、同じ発想で首尾一貫した投資判断を行うことで、投資成果を上げてきた。
◆米国株式を下回るリスクで、同等または上回るリターンを追求
-運用目標は
永井氏 目標は、短期・中期・長期で、三つ設定している。
約1年の短期目標は「高い『リスク調整後リターン』の獲得」だ。約3年間の中期目標は「資産毀損リスクの抑制」を掲げている。そして、約5年以上の長期目標として「米国株式市場を下回るリスクで、同等または上回るリターンの追求」をめざしている。
◆徹底した企業調査で銘柄選択
-運用チームは
永井氏 運用責任者のデイビッド・ジルー氏を中心に3人の共同ポートフォリオ・マネジャーとアナリスト等計8人のチームが、合議制で運用している。株式については、S&P500指数構成銘柄から、徹底した企業調査に基づくボトム・アップ・アプローチで、約50~80銘柄に投資している。
多くの時間を企業分析に費やしており、経営者からアドバイスを求められることも多い。長期のホライズンで銘柄を分析しており、株式の分析では5年先の業績予想を立てている。今なら「2030年の世の中がどうなっているか」という長期の視点に立って、業界やそれぞれの企業の立ち位置を考え、売上高や利益を予想している。
この戦略の運用資産残高は、米国を中心に約14兆円(2025年6月末時点)に拡大している。投資効率を維持するために、10年以上にわたって新たな投資の受付を停止している。今回、日本やアジア地域において限定的に提供する。
◆資産形成層から退職後の取り崩し層まで幅広く
-どのような投資家を想定しているか、
永井氏 「S&P500に興味があるが、株価の下落が怖い」と感じるビギナーの方から、「長期的に株価指数を上回るリターンを上げたい」と考えている投資に慣れた人まで、幅広い投資家の皆さまに活用してもらえるファンドだと考えている。
テーマ型ではないので、はやり廃りがなく、長い時間軸で、資産のコア部分を投資してもらえるだろう。退職資金や教育資金など中長期の資産形成の新たな選択肢になりうると考えている。
誰にとっても基準価額がマイナスになるのは、つらいことだ。このファンドは、中期的に投資資産の毀損リスクを抑制することを目指しているので、長期投資を途中でギブアップすることなく、実践してもらえると思う。



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