米国株に割高感、分散投資が重要に=欧州株や日本株に魅力-アムンディのグラビン氏
2025年10月20日 11時00分

欧州の運用会社アムンディの株式運用部門CIO、バリー・グラビン氏が来日し、日本およびグローバル株式市場の動向を語った。この中で、米国市場について「一部の銘柄に投資が集中し、バリュエーションが高くなっている。投資先の分散が重要性を増している」と指摘した。その上で、緩やかな経済成長が続く欧州株や、ガバナンス改革やデフレ脱却が進む日本株の注目点を説明した。主なポイントは以下の通り。
◆米国株式=割高なバリュエーション、利益の持続性に注目
人工知能(AI)関連企業を中心に米国株が大きく上昇している。1999年から2000年にかけてインターネット関連企業を中心に株価が上昇したITバブルとの大きな違いは、AI関連企業が利益を生み出していることだ。投資家は今後も「IT企業の収益力とその持続性」を注意深く見守ることが重要だろう。
米国市場では、マグニフィセント・セブンにブロードコムを加えた「BATMMAAN(バットマン)」の8銘柄に投資が集中している。
大規模なデータセンターを保有するハイパースケーラー(hyperscaler)は、巨額の設備投資を行っている。優れたビジネスモデルの企業群だが、現在の株価が織り込んでいる期待利益水準は非常に高く、投資家はそのことを意識しておくことが大切だ。
◆欧州株式=経済政策、金融政策ともに追い風
米国株に比べて欧州株はかなり割安な水準にあり、魅力的な分散先候補になりえる。
米国の関税政策は、米国企業にとってサプライ(製品供給)サイドに影響を与える。また、移民政策で労働力の確保が難しくなることも供給を圧迫する要因となる。一方、欧州企業にとって、追加関税はデマンド(製品需要)に影響を与えるが、規模としては十分に吸収可能な水準に収まると考えている。欧州企業全体の収益のうち、米国の関税の対象になるのは、わずか5~6%と見られる。
欧州企業は大規模な経済政策および緩和的金融政策の恩恵を受けるだろう。実際にローンや消費が増え、不動産価格も上昇している。欧州はエネルギーを輸入しているので、エネルギー価格の下落も業績には追い風となっている。
欧州で特に注目しているのは、中小型株だ。財務は健全で、業績の成長見通しは高い。一方で、バリュエーションは歴史的にみても割安な水準にある。さらに、内需売上比率が高いため、為替や米国の関税の影響を受けにくい。
◆日本株式=インフレ経済に転換、ガバナンス改革を推進
日本株については、バリュエーションが何より魅力的だ。同時に、企業業績も堅調で、株価の上昇余地があると見ている。2つの構造的変化が日本株の中長期的魅力を高めている。
日本経済は、デフレから脱却、金融政策は正常化の過程にある。金利のある世界への移行は、短期的には混乱や課題に直面することもあるが、中長期的に重要な転換点にあると考えている。
もう一つが、コーポレートガバナンス改革だ。日本の経営者は、バランスシートを最適化し、株主資本を有効活用することを求められている。日本企業の自己資本利益率(ROE)は他の地域に比べ低いが、それは分母の株主資本が大きいためだ。持合株の解消、事業活動に不要な不動産の売却などを通じてバランスシートを縮小することで、ROEは上昇する。
実際に日本株は上昇し始めているが、日本企業の改革はまだ始まりに過ぎない。日本の企業改革は、全体の20%程度を達成したところで、まだまだアップサイドの余地があると考えている。
日本は、ユニークな市場だ。グローバル投資家にとって、日本株は分散投資の対象として非常に魅力的だ。
日本でも中小型株に注目している。バリュエーションが相対的に魅力的で、為替や米国の関税に左右されにくい。また、コーポレートガバナンス改革は、大企業が先行してきたので、中小型株の企業はこれから大きな変化が期待される。
◆AI=大きな投資機会、慎重な見極めが重要に
AIを利用したサービスや商品は、爆発的に拡大すると見ている。一方で、ディープシークの例にあるように、より高速かつ稼働効率の高い製品が登場すれば、半導体の需要は影響を受けるだろう。
AIは、株式市場全体に、大きな投資機会を提供するものだ。さまざまな企業がAIの活用を通じて、生産性や効率性の恩恵を受けることができるだろう。例えば、ヘルスケア、金融、消費関連セクターでは活用が進んでいる。
私たちはAIについて、非常に前向きで、その成長見通しについてもポジティブにみている。ただ、AIによる社会変化やその影響について慎重に見ていくことが必要だろう。
インターネットは、事前予想を上回る大きな恩恵を、社会、企業にもたらした。AIも同様の成果が期待されるが、投資に見合ったリターンが得られるか、現状株価の水準は適切かどうか-などをしっかり見極めていくことが重要だ。