注目されるインフラ投資=インフレに強く、分散効果など期待-豪系運用会社IFMインベスターズの正田氏
2025年10月20日 10時00分

電力や通信などの生活基盤に投資するインフラストラクチャー投資に、機関投資家が注目している。インフレに強く、分散効果などが期待されるためだ。豪州に本社を有するグローバル運用会社IFMインベスターズ取締役で在日代表の正田雄二氏に話を聞いた。主なポイントは以下の通り。
◆働く人々の長期的な退職資金を投資・保護・成長させることを目的とするグローバルな運用会社
-IFMインベスターズとは
正田氏 IFMインベスターズは、豪州の産業別退職年金基金(インダストリースーパーアニュエーション)と英国の年金基金が共同で所有するグローバルな資産運用会社だ。当社は1990年代初頭に、複数の豪州の年金基金によって、スケールメリットを活かし強固な投資リターンを実現することを目的に機関投資家向けの運用会社として設立された。同国では、雇用者が従業員の収入の12%をスーパーアニュエーション口座に拠出することが義務付けられており、これが退職後の資金として運用されている。
現在は、800社を超える世界の機関投資家に運用ソシューションを提供しており、このうち、日本の機関投資家は、年金基金や生命保険会社、金融機関など約50社だ。
運用残高は22兆円程度で、このうちインフラストラクチャー投資が約12兆円を占めている。ストックベースでは、インフラ投資で世界の五指に入る規模だ。
◆インフラ投資、インフレに強い仕組みを内包
-プライベート投資の注意点は
正田氏 主なプライベート投資には、インフラのほか、プライベートエクィティ(非上場株式)、プライベートデッド(銀行以外による貸し出し)、不動産がある。
1点目は、いずれのアセットにおいても、運用成績の良いファンドと悪いファンドの差が大きいことだ。慎重にファンドを選定することが重要だ。
2点目は、多くのプライベート投資において、金利の上昇がマイナスの影響を与えることだ。
プライベート資産の現在価値は「株主に帰属するキャッシュフロー」を「ディスカウントレート」で割り引いて算出する。金利上昇によって、分母にあたるディスカウントレートが上昇する。同時に、分子にあたる「株主に帰属するキャッシュフロー」では将来の借入負担の増加によりキャッシュフローが減少するためだ。
ただ、インフラ投資は、例えば、消費者物価指数(CPI)やGDP成長に応じて収入が増加する仕組みを内包しているものが多いため、金利上昇のマイナス影響を相殺して、現在価値が安定的に推移する案件が多い。
◆プライベート投資、「不確実性の中で有効」
-機関投資家の関心は
正田氏 当社は、調査レポート「プライベート・マーケット700」を発表した。大手機関投資家700社を対象に、プライベート・アセットに関する投資状況や今後の予定などを聞いた。
この中で、インフラ投資に関連する項目を見ると、目的は「リターンの向上」に次いで「不確実性の高い環境で有効性が高い」とする回答が多かった。インフレに応じて増加する収入形態や金利上昇に強いことなどが評価されたようだ。このほか、「分散投資」や「エネルギー移行」を投資目的に挙げる機関投資家もいた。
また、インフラ投資に対する投資配分を、中期的に増やす意向を持っている機関投資家が多いことも分かった。
インフラ投資の注目テーマについては、病院・学校・スタジアム・低所得者住宅などの「社会環境インフラ」に対する関心が最も高かった。次いで、「環境問題」「AI(人工知能)関連」「デジタルインフラ」などだった。
◆日本では、まだ少ないインフラ投資
-日本の投資家の特徴は
正田氏 世界の機関投資家に比べて、日本の機関投資家はインフラ投資の割合が低い。その理由の一つとして、日本のインフラ投資の案件が少ないことがある。
日本では、空港が民営化されたものの、道路事業の民営化はまだまだ限られている。水道や再生エネルギーなどの案件を民営化するには、さまざまな課題が残っており、行政を含めて解決していくことが必要だ。
◆株式と逆相関、分散投資の効果も
-インフラ投資の必要性は
正田氏 これまでは債券と株式の値動きが逆相関の関係になっていた。株価の下落を、債券価格の上昇によってヘッジできた。2022年は、株式と債券がともに値下がりした。伝統資産だけでは、ポートフォリオの管理が難しくなっている。
私たちは機関投資家に対して、「プライベート・アセットを持ちませんか。中でも、インフラ投資は、不確実性に対して下値抵抗力がある」ということを申し上げている。