DC拡充の今こそ、行動変容の絶好のタイミング=AM-One 未来をはぐくむ研究所の伊藤所長-AM-OneのDCセミナー②・完
2025年02月20日 08時15分

アセットマネジメントOneが開催した「DCセミナー2025」(協賛:みずほ銀行、第一生命保険、ティー・ロウ・プライス・ジャパン)で、執行役員でアセットマネジメントOne 未来をはぐくむ研究所長の伊藤雅子氏が「DC加入者が求める金融経済教育と現状分析~日米DC加入者の比較~」をテーマに講演した。
同研究所は、公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構(東京都港区、高山憲之理事長)と外部有識者を交えた共同研究チームを立ち上げ、昨年8月、確定拠出年金(DC)加入者5000人を対象に、「職域における資産形成と金融経済教育」について調査した。さらに、米国の大手運営管理機関のティー・ロウ・プライス社が実施した米国調査を使って、日米比較を行った。
伊藤所長は、三つのステップで、企業や従業員の「意識」「知識」「手続き」の行動変容を促すことを提案。「DC制度の拡充が進む今こそ、絶好のタイミングだ」と指摘した。
◆米国のDC加入者、老後資金準備に自信
調査結果の初期分析からは、①リタイアメントプランニングに対する関心は低い ②若い世代は資産形成への関心が高く、会社に対する期待が高くなる傾向がある ③アメリカは老後資金準備に自信を持っている人が多く、会社もリタイアメントプランにコミットしている-などが分かった。
伊藤所長は、「リタイアメントプランニングの準備状況は日米でほぼ同じだが、米国ではDCの掛け金を『十分だ』と積極的に評価する人が4割を占めた。一方、日本は『十分でない』『わからない』が8割を占めた」と指摘。「米国の加入者は、DC制度をうまく活用することで、老後資金に自信を持っている姿がうかがえる」と分析した。
日米の制度の違いを見ると、日本の企業型DCは、会社の退職給付の一部と考えられており、自分で能動的に手続きをして加入する「オプト・イン型」が基本だ。マッチング拠出についても、会社の拠出が先で、従業員が任意で追加拠出する。
一方、米国のDCは、従業員の任意の資産形成制度だ。本人が拒否しないかぎり、自動加入・自動増額の「オプト・アウト型」になっている。マッチング拠出は、従業員の拠出が先で、会社はその一定割合を追加拠出して、退職後に向けた従業員の資産形成にインセンティブを与えている。
◆行動変容の「三つのステップ」
伊藤所長は、調査結果の分析から「行動変容に向けた三つのステップ」を提言した。具体的には、①会社の「意識」を変える ②従業員の「意識」を変える ③「知識」と「手続き」の仕組みづくり-だ。
一つ目の会社の意識改革は「『従業員の退職後のウェルビーイング実現』を会社の経営課題と捉える」ことだ。「米国ではトータルコンペンセーション(総報酬)が取り入れられ、『給与・賞与』『退職給付制度』『福利厚生制度』などを合わせて、長期的な視点で報酬を考えている」と紹介した。
二つ目の従業員の意識改革は「従業員に『制度改革』を自分ごと化してもらう」ことだ。伊藤所長は「現在審議中のDC制度の拡充を大きな『きっかけ』とするため、制度改正に関心を持ってもらい、最大限活用してもらうようにすることが大切だ」と話した。その際、「各社のDCプランを見直したり、継続教育を徹底したりすることで、自社制度の仕組みやメリットを従業員に訴求してほしい」と指摘した。
三つ目の知識と手続きの仕組みづくりは「『自分ごと化』と『初期設定』をキーワードに設計する」ことだ。関心の高い従業員には、それぞれの関心に合わせて個別化(パーソナライズ)した金融経済教育を提供することが有効だ。関心の低い従業員には、「必須となる金融リテラシー」と「初期設定」により、まずは仕組みで促して、長期戦で臨むことが大切だ。「それぞれに寄り添い、包摂する金融経済教育が重要になる」(伊藤所長)と述べた。
◆インフレ・円安、NISAなど追い風に
伊藤所長は、インフレと円安から資産価値を守ろうという気持ちが強まっていることや、雇用・経営環境が大きく変化していること、新NISA(少額投資非課税制度)がブームになっていることなどを挙げ、「今こそ、行動変容に向けて絶好のタイミングだ。DC制度の拡充を従業員にしっかり伝えることが大切だ」と強調した。