企業が迫られるGX経営戦略=拡大する「責任と貢献」-ME-Lab Japanの坂内社長に聞く
2024年05月28日 08時00分
環境課題に対応した事業活動に転換するGX(グリーン・トランスフォーメーション)の実現に向けて、企業が取り組みを迫られている。東証プライム上場のエル・ティー・エス(本社東京、樺島弘明社長)の全額出資子会社で、GXコンサルティングを行うME-Lab Japanの坂内匠社長は「企業は、拡大する環境関連の『責任』と『貢献』に対処するため、変革を求められている」と話している。
◆気候変動、最も大きなリスクの一つに
-気候変動に対する経済界の動向は。
坂内氏 気候変動は最も大きな経営リスクの一つに認識され、グローバルな共通課題に浮上している。今後は、企業に求められる「責任」と「貢献」の範囲が大幅に拡大すると考えている。
◆「責任」としての「非財務情報の開示」
-「責任」の内容は。
坂内氏 非財務情報の開示義務化の流れだ。東証プライム上場企業は、気候変動に関するリスクと機会の分析等について、2026年から開示が任意適用され、27年または28年から義務化される方向だ。少し先の話のように思われるかもしれないが、上場企業だけでなく、中堅企業でも準備を進めており、制度の変更に合わせて、それぞれ適合していくと見られる。
◆「貢献」として「業績成長と環境貢献の両立」
-「貢献」の内容は。
坂内氏 環境課題が、新規事業の主要な観点の一つになる。「炭素排出量の測定と管理」や、海の植物に炭素ガスを吸収させる「ブルーカーボン」、排出権売買に関連する「炭素クレジット」、「気候リスク分析」などに、日本企業も続々と参入している。
◆対応しないと経営リスクになりうる懸念
-企業が対応を急ぐ理由は。
坂内氏 気候変動に対応しないと、経営リスクになりうる懸念があるためだ。具体的には、信用格付け会社が気候変動の影響を重視し始めた。対応が不十分であれば、資金調達コストが増加する懸念がある。また、洪水等の気候災害が激甚化しており、資産損失のリスクが拡大している。さらに、気候変動の訴訟が過去10年で2倍超に増加している。
一方、気候変動対策をしっかり行い企業ブランドを高めることで、若年世代の採用や取引先の開拓に、ポジティブな影響が期待される。
◆企業全体を変革、自走をセットで整備
-企業の対応のポイントは。
坂内氏 企業は、拡大する「責任」と「貢献」に対応するため変革を求められている。市場の期待値は高まっており、単に会計制度等の変更に対応するだけでなく、一歩進んだ行動が評価される。一方で、利益の創出や事業成長といった以前からの基準も当然重視されており、企業は二つの基準で評価されるようになってきた。
GXを実現するには、経営戦略、事業戦略、業務変革という企業全体で変革を推進することが重要だ。さらに、変革を一時的なものに終わらせないために、企業自身でGXを自走していけるように、変革を推進する人材の育成やIT基盤の導入・定着などをセットで考えていくことが必要だ。
◆10年かけ参入準備
-GXコンサルティングに参入の経緯は。
坂内氏 エル・ティー・エスは、GXコンサルティングの参入に向けて2014年から準備を進め、今年3月、当社を設立した。
具体的には、14年に東京大学生産技術研究所と共同研究をスタート、19年には人工衛星データを使ったサービスを開始した。さらに、韓国科学技術学院と業務提携して仮想空間で地球をモデル化した「デジタルツイン」でシミュレーションを行ったり、シンガポール企業と業務提携して新たな気候リスク評価指標を開発したりして、気候リスクの評価からコンサルティングまで一気通貫で支援する体制を整えている。