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「金利のある世界」に転換する日本経済=住宅ローン対策や財政再建が重要に-日本総研の石川調査部長

2024年05月24日 08時30分

石川智久調査部長

 日本総合研究所のチーフエコノミストの石川智久調査部長は「金利のある世界」をテーマに記者勉強会を開き、日銀のマイナス金利解除が企業・家計・財政に与える影響について分析した。この中で、石川氏は、住宅ローン対策や財政再建の重要性を強調した。主なポイントは以下の通り。

◆日銀、マイナス金利を解除

-金融政策の現状は。

石川氏 日銀は3月19日の金融政策決定会合で、金融機関が日銀に預けている当座預金の超過準備への付利金利をプラス0.1%に引き上げ、マイナス金利を解除した。また、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)について、長期金利で1%というメドを廃止した。ただ、市場金利が急激に上昇する場合は、機動的なオペを実施する。

-今後の金利の見通しは。

石川氏 金利の見通しだが、日銀は物価目標の2%前後に向けて緩やかに政策金利を引き上げていくという見方が、多くのエコノミストの共通見解だ。引き上げのペースは、エコノミストによって見解が分かれている。日本総研は、半年に0.25%のペースと予想している。

-日本経済への影響は。

石川氏 当面、日本経済への金利上昇の影響は小さいだろう。金融政策の顕在化には2~3年かかる上、物価上昇を勘案した「実質金利」は依然としてマイナス水準にあるためだ。さらに、家計と企業は、金利耐久力が向上している。

 ただ、財政については、巨額の国債を発行しているので、金利耐久力が低い。国債の利払いが本格化するまでの間に、財政再建に向けた道筋を考え、それを政策にすることが重要だ。

◆企業部門=中堅・中小企業や巨大プロジェクトの支援を

-企業部門の見通しは。

石川氏 企業部門は、大企業を中心に金利耐久力が向上しており、過度な悲観は不要だと考える。設備投資は、大企業を中心に堅調に推移するだろう。DX(デジタル・トランスフォーメーション)や人手不足への対策が必要なためだ。

 ただ、中堅・中小企業は、人手不足で賃金の引き上げが急務なため、設備投資が伸び悩む可能性があり、支援する仕組みが必要になるだろう。また、大企業においても巨大プロジェクトは実施が困難化することが懸念されるため、経済安保やイノベーション(技術革新)、インフラ整備など産業政策に関わる案件については、政府支援が重要になるだろう。

 このほか、事業継承や再編、人手不足に向けた政策対応が必要になるだろう。

◆家計部門=子育て世代の住宅ローンなど支援を

-家計部門の見通しは。

石川氏 家計部門は、全体でみると負債よりも資産が大きい。高齢層が多くの資産を保有しているためだ。金利上昇は利息収入の増加につながり、プラスに働く。

 ただ、年齢・資産別に見ると、若年・中堅層は住宅ローンや教育ローンを抱えており、資産より負債の方が大きい。住宅ローンについては、変動金利型の人が多いことから、金利上昇が個人消費にマイナスの影響を与えることも懸念される。

 住宅費や教育費の高騰は、少子化の背景になる可能性がある。子育て世代への住宅ローンや奨学金、教育ローンを支援する仕組みを、金利上昇に合わせて、作っていくことが必要だろう。

 このほか、現役世代だけでなく高齢者も含めて社会保障制度を支える「全世代型社会保障」の仕組みを考えることも必要になるだろう。その際、資産課税も論点になるが、金融市場への悪影響がないように設計することが大切だろう。

 「金利のある世界」では、資産運用や借り入れの知識が重要になる。金融教育の在り方を考えることも必要だ。

◆財政部門=巨大な補正予算の見直しを

-財政部門の見通しは。

石川氏 今後、インフレによる税収の増加により一時的に財政が好転する可能性がある。しかし、本格的に国債の利払い費が増加する4~5年後に向けて、財政健全に向けた政策を考えることが重要だ。

 現在の財政悪化の主因は、巨大な補正予算であると考える。補正予算を、義務的な経費と、真に予見できなかった突然の経済危機や大規模災害の経費だけに抑制することで、補正予算に伴う国債の新規発行を最小限に抑えるとともに、税収の上振れ分は、政府債務の償還に充てることが重要だ。

 このほか、コロナ対応の問題点を検証して緊急時に真に必要な人に給付が届く仕組みを構築することや、税負担の引き上げを含めて国民負担のあり方の見直しも必要だろう。

一方で、イノベーションの創出により日本経済の成長を高め、税収を増やすことも重要になろう。

 金利は「時間の価格」であり、「金利のある世界」では、構造改革のスピードアップが求められる。

 

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