〔マーケット見通し〕債券が復活、インフレ防衛に役立つ資産に=PIMCOの正直氏
2023年02月03日 09時00分
債券アクティブ運用で世界最大級の運用会社グループのピムコジャパンリミテッドは、「緊迫した市場、復活する債券」をテーマに、最新の短期経済展望と投資戦略について記者勉強会を開催した。
日本における代表者 兼 アジア太平洋共同運用統括責任者の正直知哉氏は、債券の状況について、「昨年は、各国中央銀行の急速な利上げで債券価格が値下がりした。しかし、こうした調整局面を経て、今年は高格付けの債券がインフレからの防衛に役立つ資産に復活した」と指摘した。主な発言は以下の通り。
◆政策金利は高い水準で維持
-債券市場の状況は
正直氏 昨年は世界中でインフレ率が急上昇し、各国中央銀行は相次いで大幅な利上げを実施した。これを受けて金利は上昇し、債券と株式が同時に値下がりするという、たいへんに厳しい投資環境だった。ただ、こうした状況は少しずつ変化しつつある。特に債券は、価格調整が進んだことで、価値が高まり、アウトルック(見通し)が良好になってきた。
-今年の経済見通しのベースケース(基本シナリオ)は
正直氏 2023年のマクロ経済のベースケース(基本シナリオ)について、ポイントを三つにまとめた。①インフレ圧力はグローバルなトレンドとして緩和していく ②中央銀行は既に大幅な利上げを実施しており、今後は政策金利を景気抑制的な水準で維持する ③利上げの効果はタイムラグを経て実態経済に影響を与え、浅いものではあるがリセッション(景気後退)がある-だ。
◆インフレ圧力は緩和
-インフレの見通しは。
正直氏 急速に上昇したインフレの一部は、急速に減速するだろう。例えば米国の消費者物価指数(CPI)は、ピーク時に前年比9%まで上昇したが、今後、4%程度までは比較的急速に減衰していくだろう。ただ、そこから、米連邦準備制度理事会(FRB)がターゲットとする2%程度に低下するには、時間を要するだろう。家賃や賃金など「粘着性の高い項目」のインフレ基調が継続すると思われるためだ。
-中央銀行の対応は
正直氏 各国中央銀行の利上げは終盤に近づいている。FRBは、政策金利をさらに1~2回引き上げ、5%近辺で打ち止めにし、それを当面維持するだろう。欧州中央銀行(ECB)の政策金利は、欧州圏の中立金利が米国よりも低いことから、3.0~3.5%がターミナルレート(最終着地点)になるが、マーケットはその水準をだいぶ織り込んでいる。
◆リセッションは浅い
-先進国経済の見通しは
正直氏 中央銀行の利上げを受けて、タイムラグを経て、各国の実体経済は調整局面に入るだろう。どの程度の景気後退になるかが注目点だが、軽度なリセッションにとどまると見ている。その理由の一つは、先進国の家計や企業のバランスシートが良好であることだ。加えて、中国経済の再開が追い風になるだろう。
-日本経済の見通しは
正直氏 今年の日本経済は、潜在成長率を越える成長になるだろう。インフレは強まっており、まだ上昇が始まったところだ。日本の物価は、大半の商品で価格の粘着性が高く、まったく動いてこなかった。それが動き始めたことが、重要だ。
日銀は昨年12月、大規模な金融緩和策を一部修正し、長期金利の上昇を認める上限を0.5%に引き上げた。今後についても、さらに調整があると考えている。
◆リスクシナリオに備える
-投資で大切なことは
正直氏 経済見通しのベースケース(基本シナリオ)に加えて、リスクシナリオをどのように分析し、判断するか、が重要だ。さらに、現在の価格水準(バリュエーション)を元にして、リスク調整後のリターンがより高いと思われるポートフォリオを構築することが、大切だ。
リスクシナリオとしては、ベースケース(基本シナリオ)に対して「ソフト・ランディング」するケースも、「ハード・ランディング」するケースもあるだろう。あるいは景気が「オーバー・ヒーティング」したり、「スタグフレーション」になったりするシナリオも考えながら、運用している。
◆債券復活
-投資家へのメッセージは
正直氏 一つ目は、債券の価値が高まっていることを伝えたい。「債券復活(Bond are back)」だ。金利の上昇により、債券利回りは投資妙味がある水準になっている。
二つ目は、いろいろな不確実性が存在する中で、レジリエンス(回復力・しなやかさ)の高いポートフォリオを構築することが重要であり、その面においても債券の価値が上がっている。ベースケース(基本シナリオ)よりもリセッションが深くなった場合でも、金利低下によって債券価格が上昇し、キャピタルゲインの獲得が期待される。株式と債券を組み入れたバランス型ポートフォリオにおいて、ダウンサイドリスクの備えになる。
三つ目は、単に債券を持つのではなく、アクティブ運用を選択することで、投資機会の出現に対して即応することが可能になることだ。さまざまな債券の中から、より魅力的な債券を選択することで、リスク調整後の期待リターンを高めることができるだろう。
債券投資は、「キャピタルリターンやインカムリターンを得て、資産をより大きくすること」に加えて、「インフレに対して資産価値を防衛し、購買力を維持すること」に貢献するだろう。
◆高格付け債券でインフレ防衛
-債券復活の状況は
正直氏 米国のインフレ連動国債5年債利回りを見ると、2008年のリーマンショック以降、大半の時期においてゼロからマイナスだった。しかし、現在は1%を超えるプラス水準に戻っている。あくまでもドルベースの話だが、国債のような高格付けの債券でもプラスの利回りを確保できる状況になってきた。
社債をみても、債券格付けが「AAA格」の証券化商品や投資適格債の利回りが上昇している。高格付けの短中期債は、過去10年ほどで最も魅力的なスプレッド水準(国債との利回りの差)に近づいている。
投資家はここ数年、「高格付けの短中期債では十分な利回りを得られない」として、より大きなクレジット(信用力)リスクを取ることを強いられてきた。しかし、その世界がまったく変わり、ドルベースではあるが、高格付けの短中期債に投資することでリターンが期待できる水準になってきた。
今後については、インフレが下渋るなどのリスクシナリオも相応に考えておくことが必要だろう。脱グローバル化や地政学リスクの高まり等により、過去10~20年と比較して、インフレ圧力が強まっているためだ。インフレが高騰するテールリスク(想定外の事態)に備えるために、例えば、米国の物価連動債などをポートフォリオに加えることも考えられるだろう。
◆債券と株式の「逆相関」も復活か
-債券価格と株価の動きはどうなるか。
正直氏 昨年は、債券と株式が同時に値下がりする、厳しい投資局面になった。教科書的には「債券価格が下がると株価が上昇する」という逆相関の動きになるはずだが、そうならなかった。今後はどうだろうか。
1960年代にさかのぼって調べると、70~80年代は、債券価格と株価が同じ方向に動いていた。債券価格と株価が逆の方向に動き始めたのは90年代半ばからだった。
なぜ、90年代半ば以降に変わったのだろうか。仮説の域を出ないのだが、「中央銀行の信認」と大きく関係しているのではないか。90年代に入って、各国中央銀行はインフレを抑制することでマーケットからの信認を確立してきた。この間も、インフレ率が上昇し、金利を引き上げる局面では、債券と株式が同時に値下がりしている。
現在は、「中央銀行の信認は高い」と見て良いだろう。インフレ連動債のマーケットでも長期の期待インフレ率は落ち着いている。実際のインフレの沈静化とともに、債券価格と株価の動きは「逆相関」に戻っていくと考えていいのではないか。