〔マーケット見通し〕「避、脱」を経て「放」へ-フィデリティ重見氏
2021年12月02日 09時00分
フィデリティ投信は、「2022年市場展望」をテーマにメディア・ブリーフィングを開催した。重見吉徳フィデリティ・インスティテュート首席研究員マクロストラテジストは、グローバル経済について「新型コロナウイルスを『避』けるから、『脱』パンデミックを経て、来年は自由な活動へと『放』たれる状況になるだろう」と分析した。
◆世界経済、米国中心に拡大か
-グローバル経済の見通しは。
重見氏 来年(22年)も、世界経済は米国を中心に良い状況が続くと見ている。インフレは長引くが、企業業績は悪くないだろう。経験則から見ると、セクターではバリュー(割安株)が、サイズでは小型株が、地域では米国以外の先進国が、それぞれ相対的に良いだろう。
インフレ環境下なので、実物資産やREIT(不動産投信)は強気に見ている。ハイイールド債券は、インフレが高い(実質金利が低い)局面なので、投資先企業のデフォルト(倒産)は少ないだろう。全体観としては「貨幣からの逃避」が続いており、多くのアセットが良い状況を維持するだろう。
◆「避」
-「貨幣からの逃避」とは。
重見氏 私は昨年(20年)のメディア・ブリーフィングで、20年を象徴する漢字として「避」を挙げた。「ウイルスを避ける」「人を避ける」、そして「貨幣からの逃避」-だ。
「貨幣からの逃避」は長期のテーマだ。国土交通省の不動産価格指数を見ると、マンションや戸建て住宅の価格は本年(21年)も大きく上昇している。「日銀がいくらお金を刷ってもインフレにはならない」というが、資産インフレは起きている。「国家の歴史はインフレの歴史である」ことに気づいた人が、貨幣を何らかの資産に換えていると見ることもできる。
―インフレはいつ起こるのか。
重見氏 政府の徴税能力に疑問が生じるときではないか。政府は巨額の財政支出を行っているが、それに見合う収入(税収)を得ていない。こうした中でも、国民が国債を購入するのは「政府がインフレとしてではなく、将来の税収によって債務を返済してくれる」と考えているからだ。このストーリーが崩れるのは「政府は債務を返済するのに十分な増税を行えない(それほどまでに債務の残高が高水準になる)」と人々が考えるときだ。国債は「貨幣を将来受け取る権利証」であるが、「ただの紙切れ」に過ぎない貨幣を信頼して他人から受け取るのと同様、人々の期待や思惑に関する事柄なので、いつ起こるかは分からない。ただ、期待が崩れるときは一瞬であることは確かだろう。
◆「脱」
-今年(21年)を象徴する漢字は。
重見氏 「脱」ではないか。「脱コロナ」「脱パンデミック(世界的流行)」が進み、「脱炭素」「脱資本主義」が注目された。
具体的には、各国政府は脱コロナを掲げて巨額の財政出動を行った。ワクチンや治療薬によりパンデミックはエンデミック(感染者の数が比較的安定した継続的な流行)に姿を変えていきつつある。現在懸念されている「オミクロン株」もその一部と捉えている。一方、地球温暖化防止を目指し、脱炭素に向けて、各国政府の目標設定が加速した。また、持続可能な社会の実現に向けて、脱資本主義という言葉が流行した。
◆「放」
-来年(22年)を象徴する漢字は。
重見氏 「放」ではないか。人々はこれまで、新型コロナウイルスの大流行で、生活や経済活動を束縛されてきた。来年は、自由を求めて、人々が自らを解き放つ年になるのではないか。
米国経済は、財政出動から放たれて、自由な経済活動を取り戻していくだろう。米国の金融当局は、量的緩和から自らを解き放ち、テーパリング(量的緩和の縮小)の後に、利上げを行うだろう。米国経済は、世界経済を押し上げるのに十分なエネルギーを持っており、米国を中心に世界経済は良い状況が続くだろう。
◆米中間選挙、米利上げ
-来年の注目イベントは
重見氏 11月に米中間選挙が実施される。世界の大きな潮流はリベラル化だが、バイデン民主党政権が推し進めてきた、格差是正・インフラ投資・気候変動対策などのリベラルな政策にはいったん見直しが入るかもしれない。なぜなら、米国の有権者は新型コロナウイルスによって私権の制限を受け、いわば束縛され続けてきたためである。リベラルな政策もまた、経済や社会を束縛するものである。そして、今年を通じ、米国の有権者は民主党が一枚岩ではないことを見せつけられてきた。彼らは建国以来の自由を求め、行動するのではないかと考えている。米国利上げの時期については、中間選挙後の12月を予想している。マーケットには、テーパリング(量的緩和の縮小)が完了した直後の7月に利上げを予想する向きもあることから、利上げの時期を巡る思惑によって、米国金利のボラティリティ(変動率)は高まるだろう。