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〔マーケット見通し〕強力な財政・金融政策が世界経済を支える-三井住友DSアセット・吉川氏

2020年11月12日 11時10分

三井住友DSアセット・吉川氏

 世界と経済が目まぐるしく動いている。米大統領選で野党民主党のバイデン前副大統領が勝利宣言し、米大手製薬会社ファイザーの新型コロナウイルス用ワクチンが年内にも米国で投与される見通しになった。米国の代表的株価指数であるダウ工業株30種平均は3万ドルにあと一歩に迫り、日経平均株価は約29年ぶりに2万5000円台を回復した。三井住友DSアセットマネジメント運用部マクロ調査グループヘッドの吉川雅幸(きちかわ・まさゆき)チーフマクロストラテジストに、世界経済と金融環境の現状と見通しを聞いた。

◆今年はマイナス成長、来年はプラスに
 世界経済は現在、新型コロナウイルスに対して「感染と経済活動のバランスを取りつつ、ワクチンや治療薬の開発を進める『第2フェーズ』」にある。ワクチン等の開発の進ちょくにより多少の前倒しはあるとしても、開発されても、普及するのにある程度の時間が必要になることから、「ワクチンや治療薬が開発され、感染の危機がインフルエンザ程度に低下する『第3フェーズ』」になるのは再来年(2022年)からで、来年(21年)は第2フェーズが残ることをメインシナリオに見通しを立てている。

各地域の成長率の推移と予想

各地域の成長率の推移と予想(寄与度を積み上げ)

 世界経済の成長率の見通しだが、今年(20年)はマイナス4.1%、21年はプラス5.6%と予想している。世界経済が去年(19年)のGDP(国内総生産)の水準を取り戻すのは、来年(21年)末ぐらいになると見ている。

 コロナウイルスは、製造業よりも、対面型のサービスを中心に非製造業に強く影響している。国によって、感染状況も製造業と非製造業の割合も異なるため、影響度合いも大きなバラツキがある。具体的には、中国のGDPは既に昨年(19年)の状況を上回ってきたが、米国は来年(21年)半ば、ユーロ圏が来年末ぐらい、日本は再来年(22年)半ばぐらいに、それぞれ昨年のレベルを取り戻すと予想している。

 足元の状況を見ると、欧州で再びロックダウン(都市封鎖)が行われており、9-12月の欧州経済はマイナス成長に戻るだろう。ただ、中国経済が拡大している。さらに、米国は、感染が再び拡大しており成長が減速するものの、マイナスにはならないと予想しており、世界経済は腰折れしないだろう。

◆リフレ政策が経済を下支え
 各国政府と中央銀行は現在、コロナショックからの経済再生に向けて、大規模な財政出動と金融緩和を組み合わせた、強力なリフレ政策(世の中に出回るお金の量を増やし、人々の期待インフレ率を高める手法)を実施している。来年(21年)はリフレ政策が継続され、その縮小や修正が議論されるのは、早くても再来年(22年)以降だと思っている。

主要国のM1の水準

主要国のM1の水準

 この結果、各国でマネーサプライ(M1、家計や企業が保有する現金や流動性預金の残高)が急増している。これは、中央銀行が長期金利の上昇を抑制する中で、政府が国債を発行してそのお金を補助金や家計給付などで大規模に支給したものが、使い切らずに積み上がっているものだ。ここにたまったお金が、少しずつ消費に回ったり、株式投資に向かったりすることで、世界経済や金融市場を強力に支えている。

 各国政府は、来年1-3月にも財政を使った景気刺激策を再び実施すると見ており、M1が補充される。今後も、コロナウイルスの感染拡大などで、一時的にマーケットが揺れ動くことがあっても、強力な財政・金融政策によって、押し戻されるという状態が続くと見ている。

◆市場はバイデン大統領を歓迎
 米国では野党民主党のバイデン氏が、次期大統領に就任する見通しになった。民主党は「大きな政府」を目指しており、大企業や高額所得者への増税により税収を増やし、公共事業や医療制度への歳出を拡大する政策を打ち出している。産業政策では、化石燃料を減らしクリーンエネルギーを増やしていく。また、環境や金融関係の規制強化、労働関連では最低賃金を引き上げるとしてきた。

外交政策については、国際協調的になり、世界保健機関(WHO)や、地球温暖化対策の国際的な枠組みを決めたパリ合意への復帰する方向性を打ち出している。対中政策では、ハイテク規制は厳しく行うものの、関税を引き上げることの効果を疑問視しており、場合によっては関税を徐々に元の水準に戻していく可能性が出ている。

 大統領選と同時に行われた議会選挙で、下院は民主党が過半数を維持した。上院は残り2議席が1月の決選投票に持ち越されているものの共和党が過半数を死守する可能性が高く、上下両院の多数党が異なる「ねじれ」状態での政権運営になる見通しだ。例えば税制改革法案などを成立させるには、上院で少なくとも過半数の賛成を得ることが必要になるため、バイデン政権は共和党が反対する増税を行うことが難しくなるだろう。

 この結果、バイデン政権が実施する財政支出の規模が小さくなる可能性はあるが、コロナショックからの経済立て直しが最優先課題となっている中で、景気が失速するような政策を取ることはないだろう。マーケットは、いい所取りの解釈をして、極端な増税や規制強化は行われず、規模は小さくなるものの一定規模の景気刺激策が実施されるだろうとして、バイデン氏の大統領就任を歓迎している。

◆マネーは米国から世界へ流れる
 グローバルでお金の流れを振り返ると、2月にコロナショックが起こったとき、世界中のマネーが米国の現金等に集まった。各国の企業は、売上高が急減する中で、金融機関からの借り入れが難しくなることを懸念し、貿易の決済通貨であるドルを確保しようとしたためだ。

現在は、これが段階的にほぐれていくプロセスにある。政府が大規模な財政支出を行う中で、中央銀行の金融緩和が浸透してきており、ドル建ての資産に集まっていたマネーが、ほかのマーケットに分散されやすい状況になっている。

 このため、ドルは、ほかの先進国通貨に対してドル安方向に振れやすいだろう。ただ、米国経済は日欧に比べて強いので、ドルが大きく下落することは考えにくい。バイデン氏は、国際協調路線を打ち出しており、新興国にもマネーが流れやすくなっている。

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