〔銀行レーダー〕新形態銀行、誕生20年=コロナ禍、高まる存在感
2020年09月10日 14時25分
インターネット専業や異業種から参入した「新しい形態の銀行」が誕生して10月で20年。ネットの普及を背景に、「20年前には予想できなかった」(ソニー銀行)勢いで社会に浸透した。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、商慣行や生活様式が変わりつつある中、関係者からは「今後、存在はより高まるだろう」との声が上がっている。
◇審査2年、提携で顧客拡大
ネット専業のジャパンネット銀行が開業したのは2000年10月12日。開業1時間で100件以上もの口座開設が申し込まれる好調なスタートを切ったが、それまでに「2年近くかかった」(小村充広元社長)という。銀行免許をめぐる金融当局とのやりとりに時間を要したためだ。
ネット専業にもかかわらず店舗の設置先を問われたり、預金通帳を取り扱ったりするよう求められた。「半分いじわる」(小村氏)に見えた当局の厳しい要求に対し、窓口に職員が常駐しない店舗を設けるなど辛抱強く対応した。
01年3月、オークションサイト「Yahoo!オークション」(現「ヤフオク!」)を運営するヤフーと提携。オークション参加者の決済手続きを行う公式銀行となったことで人気に火が付いた。03年からはボートレースなど公営競技と連携し、ネットを通じた即時払い戻しなども口コミで評判を呼んだ。
ジャパンネット銀の開業翌年から、異業種参入が本格化した。01年5月にイトーヨーカ堂グループ(現セブン&アイ・ホールディングス<3382>)のアイワイバンク銀行(IYバンク、現セブン銀行<8410>)、6月にはソニー<6758>傘下のソニー銀行が開業。流通や証券、ITなど「出自によって性格が違う」(小村氏)という多様性を帯びていく。
IYバンクが目指したのは現金自動預払機(ATM)専業銀行だ。「セブン―イレブンにATMがあったら」という顧客の要望を受けて設立され、ATMの利用件数に応じた手数料収入が収益の柱。視覚障害者向けの音声案内など「セブン―イレブンに来てくれる人はみな顧客」(セブン銀)との方針でサービスを拡大、600近い金融機関と提携してATMの代替運用を担うなど機能強化に努めている。
ネット専業で始めたソニー銀は「個人客のための金融サービス追求」を掲げる。01年9月、為替レートのリアルタイム表示を開始し、外貨預金が人気に。翌3月には来店不要で低金利、少額の繰り上げ返済もできる住宅ローンを販売。預貸利ざやで収益を上げる「銀行のオーソドックスモデル」(ソニー銀)を個人向け金融で築いた。
◇障害対応、法人向けが課題
店舗や人手をあまり介しない新形態銀行にとって、システムや機械の障害への対応は最重要課題の一つだ。ジャパンネット銀は、03年5月に20時間以上の大規模システム障害を経験した。大型連休の谷間に取引が集中したためだった。IYバンクは当初、停電時にATMで実行中の取引が中断する問題が発生。他社に先駆けて非常用電源を備えたATMを導入したことで、東日本大震災の計画停電時には「他社が『セブンに行ってくれ』と認めるようになった」(セブン銀)という。
個人向けサービスへの偏りも指摘されており、新形態銀行は近年、法人向けにもサービスを広げている。ジャパンネット銀は15年1月から、ヤフーが持つ仕入れや売り上げなどの商流データに基づく事業者向け融資を始めた。セブン銀は14年7月に、金融機関などの事務受託会社を設置、マネーロンダリング(資金洗浄)の監視などを請け負っている。
コロナ禍で非対面のニーズが増す中、「従来型の銀行が新銀行モデルにきたときにどうするか」(ジャパンネット銀)との危機感も強い。「金融サービスを空気のように身近にしたい」(同)との思いで、環境の変化に対応していく構えだ。(経済部・岩間康郎)(了)