〔インタビュー〕IEOやBtoB事業を強化=暗号資産コインチェック・井坂社長
2024年09月05日 12時12分
暗号資産(仮想通貨)交換業者コインチェック(東京)の井坂友之社長は4日、時事通信社の取材に応じ、主力の取引所ビジネスに加え、新たな事業領域を強化する考えを明らかにした。具体的には、暗号資産の発行によって資金調達を行うIEO(イニシャル・エクスチェンジ・オファリング)の推進や、ブロックチェーン(分散型台帳)の技術力を生かしたBtoB(企業間取引)支援事業などの取り組みを挙げた。
―コインチェック入社の経緯を。
前職のグリー(上級執行役員)ではゲームやアニメ、エンターテインメントなどの事業をプロデューサーの立場で統括していた。ゲーム業界は仮想現実(VR)や3D(3次元)など、常に最新技術に目を配る必要がある。その一環で暗号資産にも関心を持っていた。グリーの14年間では当初の50人規模から2000人規模まで成長させ、一区切り付いたとの思いから退社した。その後、知り合いからの誘いを受け、2022年11月に入社した。
当時は、暗号資産大手FTXトレーディングが経営破綻し、「暗号資産の冬」と呼ばれていた頃。厳しい事業環境の中、経営管理の高度化に取り組んだ。
コインチェックはまだ200人規模で、成長には経営の可視化と構造化が必要。具体的には、社内に指標や数値目標をインストールすることが必要だ。これまで経験や知見を生かし、大きくしていきたい。
―暗号資産のどこに関心を。
ゲームの世界では、開発者がいくら努力して作っても、利用者からはいわゆる「クソゲー」というネガティブな評価やバグ(不具合)発生時に批判を受けることがある。ゲームの継続性を保つ上で対応が課題となっている。
一方、10年代後半に登場したブロックチェーン技術を取り入れたゲームでは、ゲーム内で流通する通貨(トークン)などの「資産」を介して、利用者が開発者と一緒に共同体を形成し、積極的に応援して、ゲームの価値を高める傾向がある。有名なのは「クリプトキティーズ」や「アクシーインフィニティ」など。マーケティングの観点からとても面白いと思った。
トークンという金融的な要素と、ネット上のゲームという無形価値が結び付くことで、人々がポジティブに行動する。これはさまざまなビジネスに応用できると考えている。
◇IEOとは、「応援活動」
―トークン事業に関連し、コインチェックが注力する「IEO」とは。
「ホワイトペーパー」と呼ばれる事業企画書をもとに、スタートアップ企業などが独自トークンを発行、暗号資産取引所に上場する。そして、トークン販売で得た資金をもとに、目標達成を目指す仕組みだ。
投資家にとっては、企業のサポートを通じて得たトークンの価値向上が期待できる。イメージとしては、好きなミュージシャンなどを応援する、いわゆる「推し活」に近く、新たな投資家と発行主体の関係構築につながる可能性がある。
IEOの実施に当たっては、コインチェックに加え、自主規制機関の日本暗号資産取引業協会(JVCEA)による審査や金融庁のチェックを受けることで、信頼性を高めている。
―5月にはコロプラの子会社「ブリリアンクリプト」が、コインチェックを通じてゲーム内で使うトークンのIEOを実施した。
豊富なアプリ開発の実績を持つ上場企業が子会社を通じて行ったIEOとして、注目を集めた。このゲームの特長は、ビットコイン特有の経済メカニズムである「マイニング(採掘)」の要素を取り入れた点だ。ブラジルの暗号資産取引所での上場が決まり、トークンの価値も上がってきた。
―今後のIEO実施予定は。
現在は4件目の実施に向け準備中。年1件程度のペースで、質の高いプロジェクトのIEOを行い、発行主体の国際的な事業展開を支援していきたい。
IEOやNFT(非代替性トークン)、デジタルウォレット(財布)など、ブロックチェーン関連用語は一般の人々には難解で、世間に広く浸透してはいない。電子マネー等のポイントのような感じで、誰もが意識せずに活用できる時代になればいいと思っている。
◇対企業ビジネスも強化
―暗号資産交換業の今後は。
今後もBtoC(一般顧客向け)ビジネスの交換業が、事業の柱であることは間違いない。ただ、コインベースのような海外暗号資産大手の動きをみると、独自のブロックチェーン開発やカストディ(保護預かり)業務、ステーブルコインなどへ事業領域を拡大している。われわれも強みを生かせる分野で多様化を図る必要がある。その一つがBtoB事業だ。
暗号資産やNFTなどがブロックチェーン上でやりとりされる、分散型の次世代インターネット「Web3(ウェブスリー)」に、伝統的な大手企業が参入するケースが相次いでいる。そこで、当社はBtoB事業に参入する企業を支援する「コインチェック・フォー・ビジネス」を立ち上げた。
コンサルティングを専門とする業者は多いが、当社は口座数200万、預かり資産7500億円という顧客基盤と、これまでに培った実用例を蓄積していることが、他社との違いだ。専門性の高い技術やノウハウを提供することで、企業の円滑なWeb3参入を後押ししていきたい。(了)