NY原油、秋まで40~45ドルのボックス圏=経産研・藤氏
2020年07月20日 12時18分
ニューヨーク原油(WTI)先物相場は、3月に石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国によるOPECプラスが減産協議で決裂し、4月に史上初のマイナス価格を付けた。その後は協調減産の再開を受け、現行は1バレル=40ドル前後で推移する。経済産業研究所の藤和彦上席研究員は、需要回復などを背景にレンジを切り上げ、秋口まで40~45ドルのボックス圏で取引されると予測。その上で、米国の生産減少や米中対立、中東の地政学リスクにより、上振れする可能性を指摘する。
―今後のWTI先物相場の見通しは。
6月からこれまでは35~40ドルを中心としたレンジで推移してきたが、米国などで需要が回復してきたこともあり、秋口にかけては40~45ドルのボックス圏になるというのが標準シナリオだ。その後については、あまりにも不確定要素が多過ぎて、何とも言えない。
新型コロナウイルスの影響で、各国・地域の中央銀行が大量に資金を供給しており、株式とともに商品のマーケットに流入が続きそうなこともあり、相場はどちらかというと上がる方向に見える。
―OPECプラスの生産動向は。
15日の合同閣僚監視委員会(JMMC)では、8月以降の減産量を予定通り、日量960万バレルから770万バレルへ縮小することを決めた。ただ、サウジアラビアはこれによって過剰感が出ることを嫌っている。減産目標を順守できていないイラクやアンゴラなどに、これまでの未達成分を上乗せして減産させることにより、減産縮小幅を一定程度圧縮できると強調している。この決定後、マーケットはあまり反応しなかった。今後も、これを材料に大きく売られることはないだろう。
一方、内戦が続き、生産がほとんど止まっているリビアで再開されれば、相場の下げ要因になる。
―米国の産油量は。
WTIが40ドル前後まで戻ったことで、米国の生産は回復していくとの見方が広がっている。しかし、米エネルギー情報局(EIA)の週間石油在庫統計では、米原油生産の減少傾向にいったん歯止めがかかったが、10日までの週まで3週連続で日量1100万バレルにとどまっている。米石油サービス会社ベーカー・ヒューズの統計によると、生産の先行指数とされる石油掘削リグ稼働数は17日までの週に180基まで落ち込み、18週連続で減少している。生産量はまだまだ減るのではないか。
この水準の油価でも、債務の多い企業は、簡単には生産を再開できない。ウォール街ではシェール企業は魅力的な投資分野にはなっていないようだ。エクソンモービルやシェブロンといった米石油大手もシェールにかなり投資しているので、安定的な底支えはあるにしても、チェサピーク・エナジーにように、独立系で債務の多いシェール企業の経営破綻が相次ぐと、需給の逼迫(ひっぱく)感が出てくるだろう。新型コロナの感染拡大が生産再開の動きを邪魔している要素もある。
―主要国の需要は。
米国のガソリン需要はかなり回復してきた。同国では新型コロナの感染が拡大しても、あまり関係なく外出する傾向があるし、大統領選が本格化すれば、特に共和党陣営は活発に活動する可能性が高い。原油の需給はさらに逼迫することも想定される。
中国も、6月の原油輸入量が2カ月連続で過去最高を記録した。底値で購入し、洋上のタンカーにあった原油が徐々に陸揚げされているという特殊事情もあるようだが、相場の押し上げ要因にはなるだろう。
―米中の対立激化の影響は。
世界経済や原油需要に与える悪影響が懸念されて相場の下押し要因になるというコメントはよく目にするが、実際にどのような影響を与えるのかイメージしにくい。むしろ、南シナ海で偶発的に軍事衝突が起こり、原油の供給が途絶されるようなことがあれば、油価は高騰するかもしれない。中国とインドの対立にも注意が必要だ。
―中東について警戒すべきリスクは。
サウジ情勢の不安定化だ。油価が下がり、ムハンマド皇太子肝煎りの経済改革「ビジョン2030」がうまく進んでおらず、イエメンへの空爆で軍事予算が上がっている影響で、国民生活が悪化している。6月以降、公務員などを対象に支給する生活手当は廃止され、付加価値税の税率が5%から15%へ引き上げられた。ガソリン価格は上昇しており、同国民の実質所得が3分の1減ったとも伝えられている。国民の不満が爆発する可能性は否定できない。
米国のトランプ大統領は、武器を購入するサウジを支援する姿勢だが、アフガニスタンや中東からの「大部分の米軍部隊」の撤退や、サウジによるイエメン空爆の支援停止を掲げる民主党のバイデン氏が大統領になったら、危機的な状況に陥る恐れがある。
―新型コロナの影響はいつまで続くか。
病原性そのものよりも、社会がどう判断するかが重要だ。最近は、感染者数は増えているが、死者はそれほど出ていないとの見方もある。これまでは社会の恐怖感が強かったが、慣れれば平常化すると考えている。有効な治療薬が広く使われるようになれば、人々の行動は変わるのではないか。(了)