東証・青執行役員:企業と投資家の対話促す=上場先選択、コンセプト重視で
2021年05月06日 12時40分
東京証券取引所の市場再編まで1年を切った。東証の青克美執行役員(上場担当)はインタビューに応じ、新たな最上位市場となるプライムについて「国内外の機関投資家が参入してくる市場を念頭に置いており、価値を高めていく意欲を持つ企業に選んでもらいたい」と語り、企業と投資家の建設的対話を一層促していく考えを示した。企業が上場先を選択する場合は、流通時価総額などが基準に合致するか否かだけでなく、市場ごとのコンセプトを十分に理解することが大切だと訴えた。主なやりとりは以下の通り。
―6月末の状況を基に、上場企業に対し、市場再編後の移行先市場を伝達する。
厳密な移行先市場の判断はこれからだが、上場各社とも、自社が該当しそうな市場を大まかに把握しつつあると思う。今回は東証1部上場企業がプライムを希望する場合、経過措置もあり、過度に心配されることはないだろう。
大事なのは、上場企業自身にそもそもの市場コンセプトを十分に理解してもらうことだ。例えばプライムは「国内外の機関投資家が参入してくる市場」を念頭に置いている。投資家との建設的な対話を通じ、企業価値を高めていく意欲を強く持つ企業に選んでもらいたい。「流通時価総額100億円以上」といった基準だけを見て、「ここに行ける」「行けない」というのではなく、何よりもまず、市場とどう向き合いたいのかを考えて上場先を選択してほしい。
―これまで不十分だった点は。
企業は規模が一定以上に大きくなると、東証1部に行くのが当然のように理解されていた。「東証1部であれば他の市場とどう異なり、どのような企業統治の水準が求められるか」といった点があまり強く意識されてこなかった。
本来、重要なのは、企業が東証1部なりの市場に上場した後に、いかに投資家と対話をしながら持続的に価値を高めていくかだ。しかし、その意識は不十分だった。東証側もそれを明確に示す姿勢が足りていなかった。
―企業統治指針の改訂で、プライム企業に取締役の3分の1以上を独立社外取締役とすることなどを求める。候補人材の不足を訴える声もあるが。
企業には「指針に3分の1という数字が出てくるので、何とかして集めよう」という発想ではなく、「価値向上のためにどういう経営体制をつくるか」をまず考えてほしい。取締役候補者は個別企業の事業に詳しいことが必須の条件と思われがちだが、経営者として核となる見識を持つ人なら、個社の事情は事後的に説明を受けても理解できるだろう。また、候補者を社長や会長の経験者に限定するような見方も散見されるが、そのように狭く考える必要もない。企業が目的にかなった人材、能力に見合う人を見つけようとする姿勢であれば、母集団はそれなりに広い。社外取締役の選定は現実的に十分可能だと考える。
―再編で東証の国際競争力は高まるか。
特にプライムは国内外の機関投資家向けがコンセプトだ。企業統治や東証株価指数(TOPIX)の見直しなどを進め、海外投資家に注目され、潤沢な資金を得る市場になれるよう努めたい。
―新興市場グロースの運営面での課題は。
従来、マザーズから東証1部への移行では、新規上場の時価総額250億円以上より低く、同40億円以上で移行できたが、1部に移行した時点で成長が止まる例も少なくなかった。今回の基準見直しで、グロースからプライムへの移行は、(新規上場と同じ)流通時価総額100億円以上とした。新興企業には十分に価値を高めて成長していってほしい。まずは彼らがグロースからプライムに移行する流れが出てくるよう応援したい。(了)