EY Japan、企業年金・退職金でコンサルティング=新しい雇用モデルに適した制度設計・運営を支援
2025年08月22日 08時00分

EYの日本でのメンバーファームのEYストラテジー・アンド・コンサルティング(EYSC)は、企業年金・退職金制度の設計・運営を支援するコンサルティングを始めた。日本の働き方は急速に変化し、資本効率の向上を求める株主の要請も強まっている。
ピープル・コンサルティング アソシエートパートナーの北野信太郎氏は「株主に配慮しつつ、それぞれの企業の雇用モデルに適した企業年金・退職金制度へと、見直しが急務になっている」と話している。主な発言は以下の通り。
◆「ジョブ型」に変化、退職時期はさまざまに
-雇用をめぐる変化は
北野氏 日本の雇用モデルは、新卒一括採用や終身雇用を前提とした「メンバーシップ型」から、仕事を軸に人材を集める「ジョブ型」へと、コンセプトが大きく変わりつつある。
また、少子高齢化により社会保障制度へのプレッシャーが強まり、「公助・共助」から「自助」へのシフトが進んでいる。政府は、確定拠出年金(DC)や少額投資非課税制度(NISA)を拡充している。
さらに、少子高齢化で労働人口が減少しており、高齢人材の活用は欠かせない。これまでは60歳という定年を境にリタイアするのが当たり前だったが、最近では、高齢者雇用安定法の後押しや、人手不足の顕在化により、60歳を超えて働くことが一般的になっている。
一方で、資産形成を進めることで、50代でFIRE(Financial Independence, Retire Early)する人も出てきている。このように、リタイアする時期は、50代から70代まで柔軟に個人が選ぶ時代になっている。
◆グローバル化、資本効率の視点
-企業を取り巻く環境変化は
北野氏 企業活動がグローバル化する中で、グループの海外法人でも年金・退職金の問題が浮上している。企業によっては、退職給付債務の半分以上が海外という例もある。海外を含めたコンサルティングのニーズが、出てきている。
さらに、企業経営をめぐっては、コーポレートガバナンス(企業統治)が深化され、東証は資本効率を重視した経営を上場企業に要請している。こうした中で、将来の給付額を約束した「確定給付企業年金(DB)」を実施して本業以外のリスクを取ることが、企業価値向上につながるかどうか、再検討することが必要になっている。
◆「メンバーシップ型」、「ジョブ型」
-会社と従業員の関係性は
北野氏 従来からの「メンバーシップ型雇用」では、会社が主導して従業員の異動や配属、キャリア開発を行い、DB年金などで会社が老後の所得保障を提供してきた。死亡リスクや資産運用リスク等も会社がカバーしてきた。長期勤続がもたらす技術の習熟が、日本の物づくりの競争優位性の源泉になった。今でも、こうしたビジネスモデルを採用している企業では、メンバーシップ型の企業年金や退職金制度が有効だろう。
一方、新しい技術を次々に身に着け、改善していく分野では、ジョブ型の制度がないと、デジタル人材等の人材確保が難しい。「ジョブ型雇用」は、主体は個人であり、会社はファシリテーターだ。自律したキャリア形成を行う従業員に対しては、自ら掛金を運用するDCが適しているだろう。従業員が個人で資産運用を行い、死亡リスクやインフレリスク等に対峙する。
◆シンプルで予測可能、フィナンシャルウェルネス
-ジョブ型においてDBよりもDCが適しているという考える理由は
北野氏 ジョブ型に求められる企業年金・退職金制度の要素は、①ポータビリティ ②換金性 ③シンプリシティ ④予測可能性 ⑤フィナンシャルウェルネス ⑥整合性-だと考えている。
転職を前提にすると、資産を保全したまま持ち運びができるポータビリティが必要だ。また、企業年金を含むベネフィットの価値が現金報酬相当に換算できると、評価しやすい。さらに、シンプルで分かりやすい制度にすることや、将来の収支がシミュレーションできるような予測可能性が求められる。このほか、投資教育を含め、従業員が老後のフィナンシャルウェルネスを実現するための情報やサポートを提供することが望ましい。そして何よりも、会社と従業員の関係性が、企業年金の設計と整合していることが重要だろう。
◆退職給付債務
-DBの課題は
北野氏 DBの積立不足は、退職給付引当金として、母体企業のバランスシートに反映される。年金制度の運用リスクが、母体企業の財務の健全性に直結する会計ルールになっている。
企業がDBを運営する理由は、運用益を稼ぐことで、掛金の拠出を削減し、企業価値向上につながるという考え方だった。ただ、株主は、企業に対して、経営資源を本業のビジネスに投じて利益を上げることを期待しており、企業が運用益を稼ぐために資本市場でリスクテイクすることを望まないかもしれない。
今後、DBは、運用のプロを雇ったり、運用を外部に委託するOCIO(Outsourced Chief Investment Officer)を採用したりすることが検討課題になるだろう。あるいは、年金債務の将来分を退職一時金制度へ移行することや、DBをDCへ移換して、制度の最適化を図ることが必要になるかもしれない。
◆人事マネジメントの視点、グローバルのネットワーク
-EYSCの強みは
北野氏 当社は独立系アドバイザーなので、クライアントの視点に立って、DBの存否についても聖域のないアドバイスができる。
また、総合ファームなので、組織・人事マネジメントの視点から、人事戦略や報酬哲学との整合性を重視したコンサルティングを提供できる。
さらに、グローバルなネットワークを生かし、国内はもちろん、グループの海外法人の年金問題についても、シームレスにサポートできる。