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「フューチャー・クオリティ企業」に厳選投資=日興アセット ヨーロッパのジョニー・ラッセル氏に聞く

2025年04月15日 08時00分

ジョニー・ラッセル氏

 日興アセットマネジメント ヨーロッパ リミテッドのグローバル エクイティ インベストメント ディレクター、ジョニー・ラッセル氏が来日した。ラッセル氏のチームは、日興アセットマネジメントの世界株ファンド「グローバル株式トップフォーカス」を運用している。日本を含む世界の「フューチャー・クオリティ企業」に厳選投資する、このファンドの運用方針や特徴などを聞いた。

 マーケットの変動が高まっていることについて、ジョニー・ラッセル氏は「長い時間軸で見ると、マーケットは非効率で、時としてショートタームの見方に偏り、ボラティリティー(価格変動)が高まる」と指摘。「こうしたマーケットの変動に恐れを抱くのではなく、『投資の機会』としてとらえることが、アクティブ運用の醍醐味(だいごみ)であり、勝ちパターンなのだと考える」と述べた。

◆日本を含む世界の40~50銘柄

-「グローバル株式トップフォーカス」の概要は

ジョニー・ラッセル氏 このファンドは、日本や新興国を含む世界の株式を主な投資対象とし、グロースやバリューといった投資スタイルや、国・セクターにとらわれることなく、相対的に魅力があると判断される40~50銘柄に厳選投資している。われわれは「マーケットは非効率だ」と考えており、ベンチマークに対して3%程度の超過リターンを出していくことを目標としている。

 われわれの運用チームは、英国のエジンバラを拠点に活動している。8人のメンバーの平均業界経験年数は26年だ。それぞれの経験に基づいた多様な専門知識を最大限活用しながら、投資のアイデアを構築している。チームの運用資産残高(AUM)は約54億ドルに拡大してきた。

◆「事業」「経営」「財務」「バリュエーション」

-銘柄選定の考え方は

ジョニー・ラッセル氏 高い投下資本利益率(キャッシュフロー・リターン)を出している「フューチャー・クオリティ企業」に投資している。

 銘柄の選定に当たっては、2桁の高い投下資本利益率を出しているケース、5年という長期にわたって維持することが見込まれるケース、あるいは今後改善が見込まれるケースを想定し、それらに該当する銘柄を発掘している

 フューチャー・クオリティ企業の発掘に当たっては、「事業」「経営」「財務」「バリュエーション」という、4本の柱に着目している。

 一つ目の「事業」については、持続的な競争優位性や価格決定力を持つことで長期間にわたり良好なリターンを確かなものにすることができる。

 二つ目の「経営」だが、健全な経営戦略と適切な資産配分の判断は、高い成長機会を育む要素だ。われわれはエンゲージメントを重視しており、すべての会社の経営陣に会って経営戦略を把握し、必要な場合は是正措置を取ってもらうように働きかけている。

 三つ目の「財務」については、成長を支える適切な財務基盤によって、必要以上の債務や新株発行による調達が不要になる。

 四つ目のバリュエーションについては、クオリティの高い企業であっても、株価が割高な水準で購入した場合、投資がクオリティの低いものになりかねないことから、規律あるアプローチを重視している。

 このほか、規制によって価格決定が制限されているセクターや、コモディティーの市況に左右されて収益の持続可能性が低いセクターは投資しない傾向がある。

 フューチャー・クオリティ企業は、さまざまなセクターに存在しているが、特にヘルスケアやIT、消費財、金融などに注目している。ただ、投下資本利益率が平均的なセクターであっても、個々に銘柄を見ていくと、今後の改善が見込まれる、魅力ある企業を発掘するケースがあるので、幅広い銘柄を調査対象としている。

 例えば、ある日本の総合電機メーカーは、異なる業種や産業が一つの大きな企業グループを構成するコングロマリットだったが、経営陣が主導して非中核事業を売却し、高いリターンを上げる中核事業にフォーカスしていった。投下資本利益率が大きく改善したフューチャー・クオリティ企業の一例だ。

 ポートフォリオを構築する際、「分散」を意識している。「アルファ(超過収益)のドライバーは銘柄選定にある」と考えており、幅広い視野でフューチャー・クオリティ企業を探している。「分散」は一つのキーポイントだ。

◆ベンチマークを大幅に下回るGHG排出量を実現

-ESGの活用は

ジョニー・ラッセル氏 このファンドは、全ての組入銘柄の選定においてESGを主要な要素としている。

 われわれの運用チームは、投資先企業について「ステークホルダーのバリューをきちんと築き上げることができる企業」と決めている。なぜか言うと、リターンを持続的に上げていくには、継続的にすべてのステークホルダーにバリューを出していくことが求められるからだ。ESG要素は、この戦略にとってコア要素であり、必要不可欠だ。

 E(環境)については、「ポートフォリオの売上高当たり温室効果ガス(GHG)排出量を、主要な世界株指数の8割以下に抑えること」を目指している。2025年2月時点の当ファンドのGHGインテンシティ(CO2換算排出量/売上高)は44.7となっており、ベンチマークの114.8を大きく下回っている。GHGインテンシティが低いことは、このファンドの要(かなめ)だ。

 同時に「S(社会)」と「G(ガバナンス)」を重視しており、深刻な不祥事を引き起こした企業へのエクスポージャーはゼロだ。「国連グローバル・コンパクトに違反する企業」「従来な不祥事情報が報道されている企業」「たばこに関連する企業」「非人道兵器の製造に関連する企業」には投資していない。さらに、プライバシーの保護、平等な機会の提供、人権の擁護について、経営陣の取り組み注視している。

◆全員で決定、サステナブルな体制を構築

-チーム運営のポイントは

ジョニー・ラッセル氏 運用チームでは、8人のメンバーが、全ての情報を共有し、スピーディーに意見交換している。普段からオフィスで様々な会話をしているが、ポートフォリオの変更については定例会議で議論している。一人のスター・マネージャーがいるのではなく、チームで協力して決定することを重視している。そうすることで、レジリエント(柔軟)で強靭(きょうじん)なポートフォリオを組むことができると考えている。

 チームの運営に当たっては、若い世代のメンバーを加えて、フューチャー・クオリティの考え方を学んでもらうことを意識している。こうすることで、組織の持続可能性が高まり、フューチャー・クオリティの投資を長く発展させることができる。

◆日本の改革、多くの企業に広がる好循環へ

-日本企業の経営改革への期待は

ジョニー・ラッセル氏 日本企業は、ポテンシャルが非常に高い。既に変化は始まっており、経営陣がしっかりと事業を見直し、リターンを稼ぎ始めている。

 日本を外から見るグローバルな投資家として、日本には大きな投資機会があると思っている。企業改革に成功した事例が出てきており、こうした改革が企業評価を高め、いかにバリュエーションに影響を与えるかについて、他の日本企業に周知の事実になってきた。このため、改革の動きがさらに多くの企業に広がるポジティブなサイクルが生まれるだろう。

◆高まる不確実性、価格変動は「投資の機会」

-アクティブ運用の魅力は

ジョニー・ラッセル氏 長い時間軸でマーケットを見ると、マーケットが非効率であることがよく見えてくる。マーケットは時として、ショートタームの見方に偏り、ボラティリティー(価格変動)が高まる。

 マーケットの変動に恐れを抱くのではなく、「投資の機会」としてとらえることが、アクティブ運用の魅力であり、醍醐味(だいごみ)であり、勝ちパターンなのだと考える。不確実性が高まっている時代だからこそ、そこに目を向けてリターンを狙うことができる。

 

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