野村アセットのセミナーで、岸田前首相らが講演=「資産運用立国実現にむけた課題と展望」をテーマに
2025年03月19日 08時30分
野村アセットマネジメント(本社東京、小池広靖CEO兼社長)は3月17日、「Project BRIDGE Seminar 2025『資産運用立国実現にむけた課題と展望』」をテーマにセミナーを開催した。野村グループは2025年12月25日に創立100周年を迎える。
セミナーでは、「資産運用立国実現プラン」を策定し、現在も資産運用立国議員連盟を中心に資本市場や資産形成に関する取り組みを先導する、岸田文雄前首相が基調講演を行った。また、市場改革を推進する東京証券取引所の岩永守幸社長が「日本の資本市場の魅力向上に向けた東証の取り組み」を紹介した。
◆世界に向け、日本の投資機会と企業の魅力を発信-小池CEO兼社長

野村アセットマネジメントの小池広靖CEO兼社長は開会あいさつで、Project BRIDGEについて「野村アセットマネジメントの日本株式グローバル・キャラバン活動として、2022年3月にスタートした。当時はパンデミックを背景に世界経済は混とんとしており、日本株式は本来の実力と比べて非常に割安な状態だった。日本の投資機会と日本企業の魅力を世界中の投資家に訴えようと、米国、欧州、中東、アジア、南米と世界中を飛び回った」と振り返った。
その上で、日本経済について「政府は、経済政策『新しい資本主義』や『資産運用立国実現プラン』などさまざまな政策を打ち出し、コーポレートガバナンスやスチュワードシップなどの改革を矢継ぎ早に実行してきた。また、新NISAの導入より『貯蓄から投資へ』の動きが加速し、18歳以上の国民の4人に1人がNISA口座を保有している。さらに、証券取引所の市場改革がスピード感を持って進められている。今や、日本の株式市場は世界中の注目を浴びている」と紹介した。
◆資産運用立国で、「成長と分配の好循環」を金融面から支える-岸田前首相

岸田文雄前首相は、資産運用立国について「日本を覆い続けた『低物価・低賃金・低成長』といったデフレ経済の負のスパイラルから脱却し、新たな成長型のステージに経済を推し進めるため、『新しい資本主義』という経済モデルを動かし、さまざまな政策を総動員してきた。賃上げを起点とする『成長と分配の好循環』を持続的なものにし、成長経済への移行を確実なものにすることを金融面から支えることが、『資産運用立国』の位置づけだ」と説明した。
具体的には「家計が、安定的な資産形成に向けてより多くの資金を投資する。企業は、その資金を成長投資に振り向けて企業価値を向上させる。そしてその企業価値の向上の恩恵が、家計へと還元させることで、新たな投資や消費につながっていく。こうした資金の好循環を生み出すことができれば、成長と国民所得の増加が実現できる」。
その上で、「日本経済の変化を、誰よりも海外が評価している。引き続き、日本への関心は高いと実感している」と指摘。「『資産運用立国』は、日本全体の大きな資金の流れを変えようとすることなので、一朝一夕に実現できるものではない。継続的に続けていかなければいけないし、『日本は改革を継続していく』というメッセージを、これからも国の内外に発信していく必要がある」と強調した。
◆資産運用立国議員連盟、DCの拠出限度額引き上げを提言-岸田前首相
昨年11月に立ち上げた資産運用立国議員連盟は、企業型確定拠出年金(企業型DC)と個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)の拠出限度額の引き上げなどを提言した。「昨年末にまとまった『2025年度与党税制改正大綱』には、DCの拠出限度額の引き上げが盛り込まれた。例えば、2500万~3000万人が該当する『企業年金のない厚生年金被保険者』では、イデコの拠出限度額が3倍に引き上げられる見通しだ」という。
今後の資産運用立国議員連盟の活動については、「6月にも策定される政府の『骨太の方針』を念頭に、次なる提言を行う方針で、議論を続けている」と述べた。その内容については、例えば、①家計金融資産の6割を保有する高齢者の資産運用・活用を後押しする制度の在り方 ②10代の若い人に資産運用制度を解放することで社会人として社会に出る際に蓄えを持ってスタートできる体制の必要性
③NISAをさらに利便性の高い制度とするため「つみたて投資枠」の商品の在り方を含めた検証 ④物価上昇を踏まえDC加入者が合理的な商品選択を行える環境改善 ⑤ライフプランを考え、アドバイスを受ける前提として、国民が自らの資産の全体像を把握するための環境・システムの構築 ⑥文部科学省の次回の学習指導要領の改訂において金融経済教育の質を高める取り組みの必要性-などを議論しているという。
◆株価を意識した経営、「中身をどう良くするか」に焦点-東証の岩永社長

東京証券取引所の岩永守幸社長は、発出から2年が経過した「資本コストや株価を意識した経営の要請」の現状について、「プライム市場では9割、スタンダード市場でも半分近くの企業にご対応いただいている。一度開示した後にその内容をアップデートしている会社が、プライムでは全体の4分の1近くに至っており、着実に定着している」と評価した。
その上で「今後は、開示の有無というよりも、『中身をどう良くしていけばいいか』に焦点を当てていきたい」と述べた。その上で「一部の投資家からは『実効的な取り組みを、自立的に進めている会社はまだわずかだ』と言われている。そうした会社の割合は、あくまでもイメージだが、プライムで1~2割、スタンダードで1割程ではないかと見ている」と指摘した。
東京証券取引所は、今後の改善が期待される企業をサポートするため、投資者との目線の「ズレ」を解消するための検討材料として「投資者の目線とギャップのある事例集」を提供している。また、優れた取り組みを集めた「好事例集」は、企業数を拡充して更新した。さらに、投資家との円滑なコミュニケーションを促進するため、「機関投資家からのコンタクトを希望する企業」を、開示企業一覧に明示した。希望する企業は、2025年2月末時点で270社を超えている。
◆拡大する個人投資家、株数ベースで5年連続「買い越し」-東証の岩永社長
岩永氏は「個人株主を増やし、株主構成を多様化するメリットは少なくない」として、個人投資家の動向を紹介した。
東京証券取引所が1月10日に発表した売買統計によると、2024年の個人投資家は金額ベースで2年連続の売り越しになった。「この統計を見て、『こんなに株価が上昇する中で、日本の個人投資家は日本株を売っているだけで、買っていないのか』と思われるかもしれないが、株数ベースで見ると日本の個人投資家は2020年以降、5年連続で買い越しになっている。個人投資家は、利益を確定する売却を行いながら、将来を備えて買い増している様子が見て取れる」と分析した。
また、「個人投資家は海外株式に投資するファンドを買っている」と言われることが多いが、日本証券業協会がまとめた「NISA口座の開設・利用状況(証券会社10社、2024年12月末)」によると、大手証券10社ベースでは、2024年の累計買付額約12.9兆円のうち約半分が国内株式や国内株式に投資する投資信託に流入している。さらに、証券保管振替機構のまとめでは、2024年度末の個人株主数は1600万人に近づこうとしているという。
岩永社長は「個人投資家を増やすことは、企業側にもメリットがある。個人投資家は『株価が上がったら売る、下がったら買う』という逆張りのスタンスが多く、株価の大きな下げ局面で下支え効果が得られると言えるだろう」と指摘した。その上で、個人投資家が投資しやすい環境を整備するため、上場企業に協力を要請し、投資単位の引き下げを進めていることを紹介した。