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三菱総研、カーボンニュートラルの実現へ提言=「現状の延長では目標に届かない」

2021年07月01日 10時56分

オンライン形式で米国が主催した気候変動サミット(首脳会議)で演説する菅義偉首相=22日[米政府の公式動画より]

 三菱総合研究所は、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現に向けた提言を発表した。「企業や個人の行動改革」「発電方法の見直し」「イノベーション(技術革新)を誘発する仕組み作り」-が三つの柱だ。「現状の対策の延長では目標に届かない」と分析、「消費者、企業、政府・自治体、研究機関など、全てのステークホルダーが参画し、社会変革に挑戦することが必要だ」と指摘している。

 菅義偉首相は、4月22日に開催された気候変動サミット(首脳会議)で、2030年度の温室効果ガス削減目標を、従来の「13年度比26%減」から「同46%減」に大幅に引き上げる方針を表明した。目標の水準を7割以上引き上げるもので、菅首相は「世界のものづくりを支える国として、次なる成長戦略にふさわしいトップレベルの野心的な目標を掲げ、世界の脱炭素化のリーダーシップを取っていく」と強調した。

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 同研究所の試算によると、現状の対策を延長しただけでは「最大でも同28%減」にとどまることが分かった。志田龍亮政策・経済センター兼経営イノベーション本部主任研究員は「日本の置かれている状況は、各国の中でも厳しい」と指摘する。人口に比例して発電量が多く、電源に占める火力発電の割合が高い一方で、国土面積が狭く、再生可能エネルギー発電の立地に制約がある。さらに、産業構造でも、鉄鋼や化学などエネルギー消費量の大きい素材産業の比率が高いためだ。



小川崇臣サステナビリティ本部兼政策・経済センター主任研究員

◆企業・個人の行動が、脱炭素の推進役
 提言の一つ目は「企業や個人の行動改革」だ。小川崇臣サステナビリティ本部兼政策・経済センター主任研究員は「今すぐにできることが多く、早期に13年度比14%程度の削減効果を実現できる。脱炭素の動きを推進する大きな契機になる」と指摘する。
 具体的には①電力購入時に再生可能エネルギーを選択する②電気自動車など高効率な電化機器に変更する③業務プロセスやライフスタイルを見直す-などを挙げる。
 補助金で脱炭素の機器を普及させた後は、さらなる拡大に向けて、旧来の製品の販売を禁止するといった大胆な政策アプローチも必要になる。このほか、地域通貨やポイントで、行動を変えるインセンティブを付与することも考えられるという。


橋本賢サステナビリティ本部主席研究員

◆炭素排出に値段を付ける
 個人や企業の行動改革を促す施策として注目されるのが、「カーボンプライシング」だ。二酸化炭素の排出に値段を付け、コストとして認識させることで、「炭素を減らす行動」に誘導する仕組みだ。具体的には、「炭素税」や二酸化炭素排出権を売買する「排出量取引」がある。
 橋本賢サステナビリティ本部主席研究員は「需要家ごとにフィットした制度にすることが必要だ」と指摘する。例えば、電力については炭素コストを電気料金に含めて徴収した上で、政府が低所得者などに還元したり、再生可能エネルギー発電のインフラ整備に充てたりすることが考えられるという。



志田主任研究員

◆発電の脱炭素を推進
 提言の二つ目は「発電方法の見直し」だ。「毎年、温室効果ガスの削減効果が積み上がるので、2050年を待たず、できるだけ早期に実現することが重要だ」(志田主任研究員)と指摘する。
 2030年頃に水力、風力、太陽光、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーについて、発電量の35%程度を目指す。また、火力発電については、水素やアンモニアを燃料として脱炭素化を進める。さらに、電力を効率的に利用するため、発電する時間帯と利用する時間帯のミスマッチを解消したり、電力の「地産地消」を進めたり、蓄電池を利用するなどの対応が必要になるという。


◆次世代技術を商業化
 三つ目は「イノベーションを誘発する仕組み作り」だ。鉄鋼や化学などの素材産業は、例えば、石炭の代わりに水素を利用する「水素還元製鉄」や、水素と二酸化炭素からプラスチックを製造する「人工光合成」など、新たな技術の商業化が不可欠になるだめだ。
 例えば、カーボンプライシングを使って、産業界全体が拠出する形で技術基金を運営し、イノベーションを支えることが考えられるという。「総花的な取り組みではなく、日本の成長戦略につながる分野を見極めて、重点領域に集中的にリソースを投入することが重要だ」(志田主任研究員)と指摘している。

 

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