無形資産で「真の成長企業」を見極める=「ドラッカー研究所日本株ファンド」-大和アセットの寺島氏に聞く
2024年12月02日 08時00分
大和アセットマネジメントは、「20世紀の知の巨人」と呼ばれる経営学者ピーター・ドラッカー氏の哲学に立脚し、人的資本や知的財産、ブランド力といった無形資産の高さに着目して「真の成長企業」を見極める「ドラッカー研究所日本株ファンド(資産成長型)(愛称:日本のリーダーズ)」を6月に設定した。このファンドを運用する同社ベータ・ソリューション運用部の寺島和仁シニア・ファンドマネージャーに話を聞いた。
-このファンドの運用方針は
寺島氏 このファンドは、無形資産などの非財務情報を定量的に評価する「日本版ドラッカー研究所スコア」を活用して、財務指標に現れない企業の「ミエナイチカラ」を評価し、マーケット評価とのギャップ(格差)を収益の源泉にしている。
日本ではこれまで、無形資産の価値が適正に評価されず、「目に見える資産」で企業価値を評価してきた。しかし今後は、東証が市場改革を推進し、株価純資産倍率(PBR)の上昇を目指す中で、「無形資産を活用して付加価値の高い製品・サービスを創出する企業」すなわち「ミエナイチカラを持つ企業」が、市場のけん引役となることが期待される。
米国では、企業価値の源泉が無形資産へと変化している。このファンドは、日本においてこうした変化を適切に評価し、無形資産を含む非財務情報の重要性に着目した、先駆け的なファンドになることを目指している。
-ドラッカー研究所との出会いは
寺島氏 当社の運用担当役員が、企業評価について「財務諸表だけでは不十分だ」という問題意識を持ってさまざまな文献に当たる中で、米国クレアモント大学院大学のドラッカー研究所に出会った。
同研究所は、「経営学の父」と言われるピーター・ドラッカー氏(1909年―2025年)のアイデアと理想を受け継ぐために設立された研究機関だ。彼の哲学に基づき、企業業績に与える主な原則を「顧客満足」「従業員エンゲージメント・人材開発」「イノベーション」「社会的責任」「財務力」という五つの領域に区分し、「ドラッカー研究所スコア」を算出している。さらに2017年からは、米国の上場企業の中から同スコアの優れた企業を選出し、毎年12月にトップ250社をウォール・ストリート・ジャーナルに公表している。
五つの領域はドラッカー氏の哲学から抽出されたものだ。ドラッカー氏は「企業が最も優先すべきことはお客さまを満足させることである」と説き、イノベーションを「企業の将来の成長を支えるエンジン」と位置付け、「真に社会の利益になるようなことを自社にとっての利益になるように経営すべきだ」と記している。その上で、これら五つの領域を「総括的(ホリスティック)」に、バランス良く実現することを重視していた。
-ファンド設定の経緯は
寺島氏 当社は、同研究所と包括的な提携を結び、2022年12月に米国株式を対象とした「ドラッカー研究所米国株ファンド(資産成長型)」を日本の公募投信として設定した。米国では、ドラッカー研究所スコアを組み入れた合成指数のUIT(ユニット・インベストメント・トラスト)があった。ただ、一般的なファンドとしては、ドラッカー研究所スコアを使用した世界初のファンドだと思われる。
このファンドが、狙い通りに良好なパフォーマンスを上げたことから、当社のマザーマーケットである日本においても、ドラッカー研究所スコアを活用した日本株ファンドの新規設定に取り組んだ。
-「ドラッカー研究所日本株ファンド」の仕組みは
寺島氏 米国のドラッカー研究所の監修のもと「日本版ドラッカー研究所スコア」を開発するところからスタートした。日本版を作成するに当たっては、使用するデータの提供元を全て公開するなど、透明性と客観性を重視した。
また、「経営資源効率」や「株主への姿勢」などに着目した大和アセットマネジメント独自の分析モデルを加えることで、従来の財務分析だけでは発掘することができない、顧客、従業員、地域社会などのステイクホルダーに評価される「日本のリーダー企業」を見極め、投資銘柄を選定する仕組みにした。
-運用の考え方は
寺島氏 TOPIX500などの構成銘柄を対象に「日本版ドラッカー研究所スコア」を付与し、候補銘柄を約210銘柄に絞り込んだ上で、約30銘柄でポートフォリオを構築している。
このファンドは基本的に、非財務情報を分析して、中長期的な視点で企業の稼ぐ力を分析している。企業文化や社風は短期で変わるものではなく、このファンドの対象企業はいずれも好業績を生み出す基盤を持っている。中長期に保有することで、PBRが高まる局面での株価上昇をじっくりと享受する投資スタンスだ。
-投資家にアドバイスは
寺島氏 投資家の皆さまに、安心感を持って、ファンドを保有していただくことが重要だと考えている。投資は、投機と異なり、ハラハラドキドキする必要がない。このファンドは、中長期に安心して保有していただける運用を目指している。
投資信託の魅力は、専門的な知識がなくても、少額から誰でも保有できることだと思う。ただ、投資に慣れていない人は不安になることもあるだろう。情報が不足しているときに不安になると思うので、積極的な情報提供を行っていきたいと考えている。ファンドマネジャーの顔の見える運用を心掛けている。