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欧州企業で5%、米国は2%=パリ協定の達成見通しを試算-アムンディ

2021年06月15日 13時00分

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 欧州系運用会社アムンディ(本社パリ)が、世界株式の指数を構成する企業を対象に、温暖化対策の世界的枠組み「パリ協定」の達成見通しを試算したところ、「気温上昇を産業革命以前に比べて2度より低く保つ」という目標を達成できる企業の割合は、欧州で5%、米国で2%、新興国で1%にとどまるという厳しい評価になった。アムンディ・ジャパンの岩永泰典チーフ・レスポンシブル・インベストメント・オフィサーに、温暖化対策に関する企業評価の取り組みを聞いた。

-パリ協定とは。

岩永氏

岩永氏 2015年にパリで開催された「国際気候変動枠組条約締結国際会議(通称COP)」で合意された、地球温暖化対策の国際的な枠組みのことだ。世界共通の長期目標として「世界の平均気温上昇を、産業革命以前に比べて2度より十分に低く保ち、1.5度に抑える努力をする」ことを掲げている。

-アムンディの対応は。

岩永氏 2006年、当時のアナン国連事務総長が、投資分析と意思決定のプロセスにESG(環境・社会・ガバナンス)を組み込むことを柱とする責任投資原則(PRI)を提唱した。アムンディはPRI創設時から署名機関であり、責任投資のパイオニアとして、サステナブル(持続可能)な社会の実現に取り組んできた。2021年末までに全ファンドを対象にESG分析を統合する計画を推進している。

 こうした中で、環境(E)を重視した投資が、地球温暖化対策で「どのような成果を上げているか」を、最終投資家に分かりやすく伝えることが求められている。これまでは、企業が排出する温室効果ガスの削減量を集計したり、売上高当たりの温室効果ガスの排出量を算出して効率性の高さを示したりしてきた。ただ、最終投資家からは「それがどれくらいパリ協定の目標温度の達成に貢献するか」を知りたいとする声が出ていた。

-新たな評価の取り組みは。

温度スコア温度スコア(クリックで表示)

岩永氏 複数の調査会社が、新しい評価方法を提案している。アムンディは、環境分野のデータ提供会社アイスバーグ・データ(本社パリ)が開発した評価手法「温度スコア」を採用した。

 具体的には、企業が開示している過去の削減実績と将来目標を使って、2050年までの温室効果ガス排出量の推移を予測する。これを国際エネルギー機関(IEA)が公表している、パリ協定の達成に必要なセクターごとの削減シナリオと比較して、その企業が「2050年に産業革命前からの気温上昇を何度に抑えることになるか」を試算した。

-企業の取り組みは。

 大手指数会社MSCIの指数を構成する企業について試算したところ、「2度を下回る企業」の割合は、対策が進んでいる欧州企業でも5%にとどまり、米国は2%、新興国は1%だった。

 今のままの取り組みでは十分でないとして、各国の政策当局が取り組みを加速する新たな方針を打ち出している。対応が遅れていた米国は、2月にパリ協定に正式復帰した。4月に、バイデン米大統領の主催で開催された気候変動サミット(首脳会談)では、中国やインドが対応を打ち出すなど、新興国にも広がりを見せている。

-新しい評価方法の利用は。

岩永氏 最終投資家に、ベンチマークと比較した温室効果ガスの排出量比較や、(温暖化対策などの環境プロジェクトの資金調達に使われる)グリーンボンドを通じた削減量と合わせて、パリ協定に掲げる目標温度の達成見通しを示すことで、より立体的に、環境を重視した投資の成果を伝えていきたい。欧州のサステナブル・ファイナンスに関する開示規則(SFDR)は、測定可能な指標を使ってリポートすることを求めており、運用会社各社は分かりやすい開示に向けた取り組みを加速させている。

 一方、ファンドの運用に当たっても、ファンドマネジャーがポートフォリオの状況を把握したり、新しいポートフォリオの対象企業を絞り込んだりする際に温度スコアを利用している。さらに、投資先企業とエンゲージメント(建設的な対話)をする際に、パリ協定の目標に対する達成度合いを示すことで、議論を深めることができるだろう。(了)

 

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