「賃金と物価の好循環」の定着に注目=アジアでは日本株を選好-2025年の日本経済
2024年11月22日 13時30分
アクサ・インベストメント・マネージャーズ(本社パリ)のコア・インベストメント最高投資責任者(CIO)アジア担当のエカテリーナ・ビゴス氏が来日し、「2025年の世界経済見通しと注目の資産クラス」をテーマに講演した。ビゴス氏は、日本経済について「賃金上昇とインフレが消費を拡大させる『賃金と物価の好循環』が定着するどうか注目している」と指摘、日本株式については「割安感があり、アジアの中で引き続き選好されるだろう」と述べた。主なポイントは以下の通り。
◆米国経済
消費と投資の底堅さが支えになり、米国経済はリセッション(景気後退)を打破した。雇用が安定し、賃金が上昇、可処分所得が上向く中で、インフレは落ち着いてきており、消費は堅調さを維持するだろう。
米国政府が、インフレを抑制し気候変動対策等を推進する「インフレ抑制法(IRA法)」や半導体関連の投資を優遇する「CHIPS法」を実施したことで、米国企業は、製造拠点を米国に戻し、エネルギー転換を進めている。
高金利により米国企業は投資に慎重だったが、中央銀行が利下げに転じたことや、企業業績が好調なこと、トランプ次期政権による成長促進策を考えると、2025年は投資サイクルが再び始まることが期待される。
ただ、インフレ率はまだ、中央銀行の目標水準を上回っている。新政権が税優遇策や規制緩和、関税措置、移民政策を実施することで、インフレが再燃するリスクが残っており、金融緩和の速度が制限される可能性がある。
◆欧州経済
南欧など周辺国は底堅い成長を見せた。しかし、ドイツはエネルギー不足で産業が低迷し、中国との競争で自動車の輸出が厳しく、いわゆるスタグフレーションのような状況になっている。このため、欧州全体としては、2025年も芳しくない状況が続くだろう。
欧州では、個人消費が盛り上がっていない。コロナ前より貯蓄は増加しているが、消費に回っていない。紛争地域に近いため、地政学リスクに敏感になっているのかもしれない。
欧州地域の成長は、個人消費にかかっているが、財政政策の余裕は限定的だ。インフレ率は目標とする水準を下回っているので、欧州中央銀行(ECB)は金融緩和を進め、2025年半ばには中立レートに戻すだろう。
◆中国経済
中国政府は2024年9月以降、株式や不動産市場に対する対策や、消費を喚起する政策を実施してきた。このため、中国経済は年率5%の経済成長に戻ると見ている。
ただ、不動産問題への対応は、まだ十分ではない。中国は過去20年間、投資を促すことで経済成長をけん引してきが、この投資のリターンが低い状況になっている。製造業の生産能力も過剰で、地政学上の問題もあり、中国経済の厳しさは、2025年も継続すると見ている。
中国経済は、「投資中心の成長」から「消費がけん引する経済」に路線を変更することが必要だ。また「製造業中心の産業」から「よりサービス指向の経済」に転換を図らなくてはいけない。2025年も、中国政府はこうした改革を継続するだろう。
個人消費を促すには、セーフティーネットとして社会保障を充実させ、雇用を提供し、国民が資産を形成できる環境を整えることも大切だ。
◆日本経済
日本経済の成長は、インフレを上回る賃上げにより消費が拡大する「賃金と物価の好循環」が定着するかどうか、にかかっている。好循環が実現することで、デフレからの脱却が可能になる。景気回復を支援するため、日銀は低金利を継続することが必要だろう。
日本のマクロ経済は過去2年間順調だった。企業改革が進んだ。金融政策は他の先進国と逆方向になったことで円安が進み、輸出に有利な環境になった。こうした中で、日本株式は海外投資家に選好されてきた。
欧米の投資家は、「米国」「欧州」「アジア」といった地域ごとの投資枠の中で、国別の配分を考える。アジアの中で言えば、日本は円安によって欧米投資家にとって割安になっている。また、経済に安定感があり、2025年は若干の成長も期待できる。「アジア」という投資枠の中で、引き続き日本株式が選好され、良好な状況が続くのではないか。