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「自然資本」、ESGの新しいテーマに浮上=水や空気の価値を認識、再生可能性をチェック-アムンディの岩永氏

2024年06月24日 13時00分

岩永泰典チーフ・レスポンシブル・インベストメント・オフィサー

 アムンディ・ジャパンの岩永泰典チーフ・レスポンシブル・インベストメント・オフィサーは、「責任投資のグローバル動向~自然資本に向かうESGの新潮流」をテーマに勉強会を開いた。水や空気などの「自然資本」を経済活動に不可欠なものと認識し、自然資本の再生可能性や企業活動に与えるリスク・チャンスを認識する潮流が広がり始めているという。主なポイントは、以下の通り。

-自然資本とは。

岩永氏 水や空気、土地、海など、われわれの身の回りにある「当たり前」な存在だ。これまでの経済・ファイナンスでは認識されてこなかった。

 しかし、この10年余りの間で利益最大化からサステナビリティ(持続可能性)に社会の価値観が転換するなかで、企業は財務資本を増やすだけでなく、自然資本を創造・保全することが、必須だと考えられるようになった。

-ポイントは。

岩永氏 持続可能性の観点から、自然資本とわれわれの経済活動を理解するうえで二つのキーワードがある。「生態系サービス」と「生物多様性」だ。

 「生態系サービス」とは、例えば、世界の食糧の75%は動物による花粉媒介に依存している。また、海洋や森林による炭素固定により、温暖化ガス(GHG)排出量の6割が吸収されている。こうした自然の再生産や調整機能は「生物多様性」によって支えている。

 このほか、地球では地殻変動や地熱、風力、潮流などの「非生物的サービス」が、何億年もの長い時間をかけて自然資本を生み出し、回復させている。

-企業や投資への影響は。

岩永氏 人間の経済活動は、財務的な価値を生み出すなかで、自然資本に依存し、負荷を与え、生物多様性を低下させている。

 ワールド・エコノミック・フォーラムが実施したアンケート調査によると、10年先を見据えた長期的なリスクとして、世界の経営者は「異常気象」「地球システムの危機的変化」「生物多様性の喪失と生態系の崩壊」「天然資源不足」を挙げている。

 こうした経営者の意識が、将来のビジネスや投資機会を変化させる可能性がある。

-自然資本によるリスクとチャンスは。

岩永氏 自然資本が毀損されると企業にとっては、保有資産への損害やサプライチェーンの途絶、生産性の下落、原料コストの高騰などのリスクが懸念される。家計にとっても、生活基盤の喪失、食糧不足、感染症拡大防止のための活動抑制などの悪影響が予想される。これらの影響はやがて資産価格にも波及する。

 私たち投資家は、企業や家計を取り巻く、こうしたリスクに目を光らせながら、お客さまからお預かりした資金を運用することが重要になる。

 一方で、自然資本をめぐり、新しい需要が生まれるなどのチャンスが期待される。食糧生産や土地・海洋利用、インフラおよび都市計画、エネルギーおよび資源掘削などで、2030年までに10兆米ドル規模のビジネスが生まれるという試算も出されている。

-投資面での課題は。

岩永氏 投資プロセスに自然資本を反映させることは、まだ緒についたばかりだ。例えば、地球温暖化といえば「温室効果ガス」が共通尺度になっているが、自然資本にはこうした尺度や目指すべき状況を明確に見いだせていない。

 ただ、2023年9月に自然関連財務情報関連タスクフォース(TNFD)が、自然資本・生物多様性を経営課題の一つに捉え、事業戦略に位置付けるための手順を示した。また、2024年4月には、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が、気候変動に続いて、自然資本・生物多様性をテーマにリサーチを行うことを表明している。

 詳細はこれからだが、ガバナンスや戦略、リスク(依存)・インパクト(影響)などの開示が検討されている。

 

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