世界のESG投資、4年で4倍に拡大=米欧中の政策パッケージでイノベーション加速-アムンディ
2024年03月06日 12時00分
欧州運用会社大手のアムンディ・グループは「責任投資の最前線、2024年のポイント」をテーマに勉強会を開催した。ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する責任投資ファンドの残高は、欧州を中心に2023年までの4年間で4倍に拡大した。2024年以降は、米欧中の政府が実施する政策パッケージにより脱炭素に向けたイノベーション(技術革新)の加速が期待されるという。主なポイントをまとめた。
◆パフォーマンス良好、企業の取り組み拡大
―2023年のESGファンドの状況は。
岩永泰典氏(アムンディ・ジャパン チーフ・レスポンシブル・インベストメント・オフィサー) 2022年2月のロシアのウクライナ侵攻で、原油価格が高騰しエネルギー安全保障が見直されるなど、ESG投資に厳しい時期もあったが、2023年のESGファンドの運用残高は拡大基調を強めている。
米国の調査会社ブロードリッジ社のデータを集計したところ、ESGファンドのグローバルな運用残高は23年11月に8兆1600億ユーロと、4年前の約4倍に拡大した。ファンドの特徴を見ると、ポジティブ・スクリーニングやインパクト投資、テーマ投資など、目的を明確にして投資対象を絞り込んだファンドに、資金流入が目立った。
ESG投資のパフォーマンスを見ると、ESGを勘案した「MSCI World SRI指数」は、過去10年の年率換算リターンで10.1%となり、親指数である「MSCI World 指数」(年率9.2%)を上回った。
企業の取組みを見ると、温室効果ガス(GHG)排出量のネットゼロに向けて、SBT(科学的根拠に基づいた目標)の設定をコミットし、カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)などで構成されるSBTイニシアティブの評価を受けた企業数は2023年に7049社となり、前年(4230社)から一気に拡大した。地域別では、アジアや新興国企業の増加が目立つ。
◆グリーン技術開発に加速の兆し
―2024年、各国の政策パッケージは。
エロディ・ロジェール氏(アムンディ・アセットマネジメント<本社パリ> チーフ・レスポンシブル・インベストメント・オフィサー) 2050年にカーボンニュートラル(GHG排出量の実質ゼロ)を実現するには、2030年までにグリーンエネルギー投資を年間4.5兆ドルに増やすことが必要だ。各国政府は、政策パッケージを打ち出し、グリーン技術開発に向けて巨額の投資を促しており、今後、大きな波及効果が期待される。
米国の「IRAインフレ抑制法」は、グリーン技術への投資を促進するため、今後10年間で4000億ドルの優遇措置と税額控除を実施する大規模な政策パッケージだ。
これに対してEUは「グリーンディール産業計画」を立ち上げた。これは「REPowerEU計画」などこれまでの政策パッケージに上乗せするもので、グリーン技術開発を支援するため、2030年までに3000億ユーロの資金を集めることを目指している。
中国でも「中国製造2025計画」や「第14次5カ年計画」で、グリーン技術に関するイノベーションが産業政策の中心に置かれている。
◆電池や鉄鋼、航海燃料などで新技術が台頭
-注目の脱炭素技術は。
ロジェール氏 2024年に注目すべき五つの脱炭素技術は、①より安全かつ持続可能で安価なナトリウム電池 ②AI(人工知能)によるスマートなGHG排出量管理 ③グリーンスチール(鉄鋼) ④炭素回収・貯留技術 ⑤代替航海用燃料-だ。
これらは、台頭しつつあるグリーン技術であり、エネルギー移行に伴い、非常に強い需要によって支えられるだろう。
◆イノベーションが生まれ、投資機会が拡大
-投資家が注意すべきことは。
ヴァンサン・モルティエ氏(アムンディ・アセットマネジメント<本社パリ> チーフ・インベストメント・オフィサー<Group CIO>) 投資家にとって重要なことは、実行可能な投資機会を見つけることだ。一連の公共支出が民間セクターに向かっていることは、朗報だ。多くのイノベーションが民間企業の現場で生まれ、民間の投資が容易になりつつある。
中国やインドなどの新興国企業がこうした新技術に関わりを持っており、韓国や日本などアジア企業も注目される。かつては、投資先企業が限られる中で大きな投資資金が流入したことでバブルも観測されたが、現在は正常化し落ち着きを取り戻している。
◆官民でリスク分担、民間資金を呼び込む
-新興国の気候変動対応は。
岩永氏 過去10年間で見ると、GHG排出量の増加部分の95%以上を、新興国・発展途上経済(EMDEs)が占めている。経済成長を求めつつも、気候変動への適応と緩和に向けた取組みを推進することが重要だ。
EMDEsが、脱炭素社会に移行するための十分な資金フローを確保するには、先進各国の民間資金を呼び込むことが不可欠だ。国際開発金融機関と民間が共同でリスクを分担するブレンド・ファイナンスなど、さまざまな工夫が求められる。