新たな現実への第一歩=2024年のマクロ経済見通し-BNPパリバAMのモリス氏
2023年12月25日 08時30分
欧州の大手金融グループ、BNPパリバ・アセットマネジメントのチーフ・マーケット・ストラテジストのダニエル・モリス氏がこのほど来日し、2024年のマクロ経済の見通しについて「米国経済はソフトランディングし、リセッション入りすることはないだろう。欧州はマイルドな景気後退局面に入るだろう」と語った。主なやりとり以下の通り。
◆インフレ動向を注視
-今後のポイントは。
モリス氏 「インフレがどうなるか」が重要だ。米国は経済がしっかりしている中で、コアインフレ率もかなり落ち着いてきている。一方、欧州は、成長が弱いにもかかわらず、インフレが高止まりしている。
今後、米国のインフレは連邦準備制度理事会(FRB)が目標とする2%に低下していくと見ているが、問題はその達成のスピードだ。1年後もインフレが高止まりしているケースも想定の中にある。コロナ後の世界は大きく変化し、インフレ押し上げ要因が増えているためだ。
◆反グローバリズム、エネルギー転換
-インフレを押し上げる新たな要因は
モリス氏 一つ目は、反グローバリズムの動きだ。安全保障上の観点から、中国等での低コストの生産を縮小し、コストのかかる自国生産に回帰する動きがある。二つ目は、コロナ後に労働市場に戻る人が減っていることだ。
三つ目は、エネルギー転換だ。温室効果ガス削減の目標に向けて、太陽光や風力発電へエネルギー転換を進めている。しかし、設備建設のための労働力や材料の供給には限りがある。それがインフレ要因になる。また、油田や炭鉱に対する投資は減っているが、鉄鋼等の生産にはこうしたエネルギーが必要だ。インフレが高止まりする可能性は十分にある。
◆FRBの慎重な対応が奏功
-米国がリセッションにならないのは、なぜか。
モリス氏 2023年初は、誰もが米国経済がリセッション入りすると考えていた。長短金利のイールドカーブが逆転したためだ。過去の例をみると、逆イールドになった後、景気が後退することが多かった。中央銀行が急いで大幅に利上げを行ったために、急速に景気が落ち込み、リセッションになった。
たが、今回についてみると、FRBは忍耐強く、かなりじっくり利上げを行った。FRBは、2025年に2%に到達すればいいと考えており、急いでインフレ率を下げようとしていない。非常に慎重に対応しており、リセッションに陥らないだろう。
◆米国は来年、利下げに転じる見通し
-今後の米国の金融政策は
モリス氏 FRBが公表している政策金利予測のドットチャートを見ると、来年には利下げに転じることを予想している。株式マーケットも早期の利下げを織り込んでいる。当社も来年の利下げを予想しているが、夏以降に小幅なものに留まると見ている。
-米国経済の見通しは。
モリス氏 米国経済は、非常にしっかりしている。これだけ利上げをしたのに、この成長率は意外だ。なぜだろうか。まず、個人消費が順調だ。バイデン政権の発足時の大規模な財政刺激策などで、個人には貯蓄があり、それを使ってレストランで外食し、旅行している。失業率が低く雇用状況が悪くないので、貯蓄を使うことができる。また、企業投資も、製造業やソフトウエア開発などで、順調だ。
米国経済は、個人消費や企業投資に支えられ、来年まで順調に推移するだろう。その後は全体として減速していくと見ている。
◆欧州は、穏やかな景気後退へ
-欧州経済の現状と見通しは。
モリス氏 欧州は軽度のリセッションに陥る可能性がある。インフレが高止まりしており、欧州でも利上げが行われた。一方で、財政支出は米国に比べて小規模なものにとどまり、恩恵が小さかった。また、ロシア・ウクライナ戦争によるエネルギーショックの影響は、米国より欧州の方が大きい。回復の時期だが、インフレが落ち着いて、欧州中央銀行(ECB)が利下げを行うタイミングを待つことになると見ている。
◆不動産問題にさらなる対応が必要
-中国経済の見通しは。
モリス氏 中国政府は、もっと積極的に不動産問題に対策を打つと思っていたが、そうではなかった。第3四半期の成長率は意外にしっかりしていたが、景気動向の目安とされるPMI(購買担当者景気指数)の動向を見ると、10月は前月より悪化している。
中国政府が不動産問題により踏み込んだ対策を打たないと、成長は弱含んだまま推移するだろう。ただ、忘れてならないのは、中国は世界第2位の経済国であることだ。投資や貿易が制約されたとしても、成長の余地があることは確かだ。
◆物価上昇と賃上げの好循環に期待
-日本経済の見通しは。
モリス氏 コロナ後の経済活動の再開で、サービス需要が旺盛だ。海外からの観光客が増加している。製造業が弱含んでいるが、これはグローバル経済の動向を反映したものだ。
日本経済の見通しは全般的に良好だ。日本には、インフレ問題が相対的に小さく、楽観している。日本経済がインフレ基調に戻り、物価上昇と賃上げが連動する好循環が生まれることを期待している。