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拡大するオルタナティブ投資=岸田首相の「資産運用立国」で注目高まる-三井住友DSの小林氏

2023年11月14日 09時00分

小林弘明シニアインベストメントアドバイザー

 プライベートエクイティ(PE,非上場株式)などの「オルタナティブ投資」が拡大している。収益機会を広げ、価格変動を抑制した安定的な運用を目指すためだ。岸田文雄首相は9月に開催された全国証券大会で、「資産運用立国」の実現に向け「運用対象の多様化」を要請した。三井住友DSアセットマネジメントの小林弘明シニアインベストメントアドバイザーに、オルタナティブ投資の現状を聞いた。

◆PEやインフラなど多様な投資対象

-オルタナティブ投資とは。

小林氏 伝統的な上場株式や債券以外の投資対象のことだ。PEのほか、私募不動産やインフラ(社会の基盤設備)、プライベートデット(銀行以外による企業向け融資)、ヘッジファンドなど、非常に種類が多い。

 投資理由についても、PEのように高いリターンを期待して投資するもののから、伝統資産と異なる値動きでポートフォリオのボラティリティ(価格変動)の抑制を狙うもの、不動産からの家賃収入やインフラの使用料のように安定したインカム収入を目指すものなど、さまざまだ。

◆リーマン・ショック後に急拡大

-オルタナティブ投資の現状は。

(出所)Preqinのデータに基づき三井住友DSアセットマネジメント作成(出所)Preqinのデータに基づき三井住友DSアセットマネジメント作成(クリックで表示)


小林氏 2008年のリーマン・ショックの際に、上場株式や債券が同時に暴落したことから、これらと異なる値動きが期待されるオルタナティブ投資に注目が高まった。Preqinによると世界全体の市場規模は、2010年に4兆ドル程度だったものが、22年には15兆ドル程度に拡大している。

◆運用者のスキルにより、運用成果にばらつき

-オルタナティブ投資の特徴は。

小林氏 オルタナティブの投資成果は、ファンドによってばらつきが大きい。運用者のスキルに左右されやすいため、ファンド選びが難しい。ただ、金融危機のように伝統的資産が一斉に急落した局面でも、オルタナティブの中には値下がり率が相対的に小さかったり、プラスのリターンを確保したりするものもあった。

◆日本ではDB、米国では大学基金やDCで広がる

-オルタナティブの利用状況は。

小林氏 日本では、将来の給付額を従業員に対して約束している「確定給付企業年金(DB)」で利用が拡大している。ポートフォリオの価格変動を抑制し、多様な収益機会を確保するためだ。DBにより対応はさまざまだが、平均するとポートフォリオの2割程度をオルタナティブに投資している。

 海外の動向を見ると、米国の「大学エンダウンメント(寄付基金)」が2000年以降、オルタナティブ投資の比率を高めており、資産全体の約6割を占めまでに拡大している。日本でも国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の運営する「大学ファンド」が、PEや不動産の運用ユニットを設けている。

 このほか、米国の「確定拠出年金(DC)」では、OCIO(アウトソースド・チーフ・インベストメント・オフィサー)を通じて、個人投資家にオルタナティブ投資が広がっている。OCIOとは、運用機関が投資判断の裁量権を得て、企業ごとにポートフォリオを構築する運用手法だ。変動の大きい市場環境に対応するため、専門的な知見を生かして、ポートフォリオにオルタナティブを組み入れている。

◆PE、経営に関与し企業価値を高める

-PEの特徴は。

小林氏 一般的に長期投資家は、すくには元本の払い出しを必要としていない上、短期的な市場価格の変動で損益を確定する必要性もない。このため、上場株式よりPEに投資することに合理性があると言われる。

 PEの運用者は、ジェネラルパートナーとして非上場企業の経営に直接関与して、企業価値を高める。具体的には、役員を派遣し、企業統治や財務戦略から、マーケティングや仕入れ先の見直しまで、さまざまなアドバイスを行う。

 PEの過去の運用実績を見ると、上場株式が急落した局面では、ドローダウン(値下がり率)が抑制される傾向が見られた。反対に、上場株式が高いリターンを上げる時期には、超過リターンが縮小することが多かった。

◆私募不動産、賃料獲得へ分散が重要に

-私募不動産の特徴は。

小林氏 日本では、賃料収入をインカムゲインとして獲得することを目指すコア型が主流になっている。運用に当たっては、国・地域やセクター(オフィス、小売り、倉庫、住宅など)の選択・分散が重要だ。借入依存度や空室率・賃料の推移、税制や規制の見通し、銀行の融資姿勢など多岐にわたるチェックが必要であり、プロの知見が重要になる。また、安定的な賃料収入が期待されるものの、不動産バブル崩壊などの大きなショックに見舞われることもあり、注意が必要だ。

◆インフラ中で今後も成長が確実視される分野

-インフラ投資の特徴は。

小林氏 インフラ投資の対象はさまざまだ。例えば、病院などの社会インフラ型、送配電や上下水道のような規制型、空港や道路などの需要変動型などだ。規制により収入が安定しているものから、景気や市場変動の影響を受けやすいセクターまで、リスクもさまざまだ。

 インフレが平均よりも高い時期に、株式や債券のリターンは低下する傾向があるが、インフラ投資はそうした時期にリターンの優位性を発揮してきた。また「通信施設」「再生可能エネルギー」「廃棄物処理」「ヘルスケア」「物流」などが、インフラの中でも今後も成長が確実視される分野になっている。

 

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