アクティブ運用で「下げ相場に強い投資」=「対話」で企業価値を高める-アムンディの春川氏
2023年10月23日 13時30分
日本株アクティブ運用の「アムンディ・ターゲット・ジャパン・ファンド」は、設定から23年が経過した。この間、年度で見ると9回の下げ局面があったが、このうち8回で参考インデックスのTOPIX(東証株価指数)を上回る損益を確保した。
財務や株価水準などの三つの基準とボトムアップの企業調査で銘柄を絞り込み、粘り強い対話を通じて企業の本質的価値を向上させる戦略が奏功した。アムンディ・ジャパン 株式運用部 ジャパン・ターゲット戦略ヘッドの春川直史氏に話を聞いた。
◆対話を活用、株主価値を顕在化させる
-このファンドの運用哲学は。
春川氏 2000年8月に「株式投資でありながら、特に相場の下げ局面の大きな変動を最小限に抑制し、安定したリターンをお客さまにお届けしたい」という想いで、このファンドを設定した。企業の本源的価値と市場の評価の差異を見極めた投資を行い、「企業との対話」なども活用して、株主価値を顕在化させることを目指している。
◆設定来で年率リターン11%、TOPIXを上回る
-運用実績は。
春川氏 このファンドを含むターゲット・ジャパン戦略コンポジットの運用残高は、9月末時点で1400億円に拡大している。運用実績を見ると、この戦略のコンポジット指数は設定来で11.26倍になった。この間、参考インデックスのTOPIX(配当込み)は2.36倍にとどまっている。
また、設定来のリターンは年率11.00%、同リスクは15.03%になった。同じ期間のTOPIX(配当込み)はそれぞれ年率3.78%、同16.86%だったので、参考インデックスを大幅に上回るリターンを生み出しつつ、リスクはそれを下回っている。効率よく運用できていることが分かる。
特に注目していただきたいのは、相場が下落した時のパフォーマンスだ。年度ベースで見ると、TOPIX(配当込み)の運用損益がマイナスになった年度は9回あるが、このコンポジットはこのうち8回で参考インデックスを上回る損益を確保している。当初の狙い通り、下げ局面の変動を最小限に抑制し、安定したリターンを提供している。
◆「割安」「財務」「株主還元余力」で絞り込み
-値下がり抑制の工夫は。
春川氏 このコンポジットの運用スタイルの特徴は3点ある。「独自基準による銘柄選別」「ボトムアップの企業調査」「企業価値向上への対話」だ。
まず、銘柄選別だが、国内の全上場銘柄に、①株価が割安 ②財務が健全 ③株主還元余力が高い-という三つの定量基準でスクリーニングをかけている。いずれも、相場下落に強い銘柄を選別するために必須の項目だ。これらの基準は、例えば、バランスシートに載らないリース資産を考慮したり、不採算事業を控除してPBR(1株当たり純資産)を計算したりするなど、独自の視点で基準を厳格化している。
その上で、4人のポートフォリオマネジャーが自ら企業を訪問し、ボトムアップの調査を実施している。昨年の年間取材件数は900回を超えた。直接、経営陣と対話して「主要ビジネスの競争力はどうか」「株主を向いた経営をしているか」「キャッシュを使って価値ある投資を行っているか」を見極める。その上で、50~100銘柄程度でポートフォリオを構築している。
◆「市場でまだ注目されていない銘柄」に投資
-ポートフォリオの特徴は。
春川氏 この戦略のポートフォリオは、中小型株がメインになっている。この領域は、運用会社や証券会社のアナリストがほとんどカバーしていないので、良いビジネスを持っていても、それがマーケットで評価されず、株価が割安に放置されていることが多い。
市場でまだ注目されていない銘柄に投資し、われわれの投資によって企業が好業績を上げたり、資本効率を改善または株主還元を強化したりするなどして、マーケットで評価されることを目指している。それによって、他の投資家もその企業の価値に気づいて投資を始めれば、さらに株価が上昇し、より大きなリターンが期待される。
◆対話で「バリュー・トラップ」を回避
-対話を重視する理由は。
春川氏 割安株投資では、いわゆる「バリュー・トラップ」に注意することが大切だ。割安株に投資しても「長期にわたって割安な状況が解消されず、そのままになるケース」も多いためだ。
この戦略では、企業と対話することで、企業に変化を促し、その価値を向上させることで、そうした状況を回避している。運用チームは、その銘柄に投資する前に「なぜ割安になっているか」をしっかり分析し、投資後は経営陣に解決に向けた対応を継続して訴えている。
◆財務戦略、開示、ESGなど多分野で対話
-対話の内容は。
春川氏 その内容は「株主還元などの財務戦略」「情報開示の強化」「事業ポートフォリオの再構築等の事業戦略」「取締役会の独立性などのガバナンス」「ESG(環境・社会・ガバナンス)」など多項目にわたる。
東証は今春、市場改革の一環として、「PBR(株価純資産倍率)1倍割れの改善」を企業に要請している。その内容は、当社がこの戦略で、企業に訴えてきたことだ。東証の市場改革は、中長期にわたって、このファンドに追い風になると考えている。