「破壊的イノベーション」の世界株ファンド、1兆円を突破-日興アセット
2021年03月02日 12時40分
産業構造や生活スタイルを根底から一変させる「破壊的イノベーション(技術革新)」に着目した世界株投信「グローバル・プロスペクティブ・ファンド(愛称:イノベーティブ・フューチャー)」は1月26日、純資産総額が1兆円を突破した。設定から約1年7カ月で、国内公募投資(上場投信を除く)のトップに立った。このファンドは、日興アセットマネジメントと、米国の運用会社アーク・インベストメント・マネジメントが共同で運用している。
日興アセットマネジメントアメリカズ・インクの千葉直史氏に、アーク社が1月にまとめた、破壊的イノベーションの最新動向に関する年次リポート「ビッグ・アイデア2021」の話を聞いた。
-アーク社とは。
千葉氏 「イノベーションこそが成長の源泉である」という従来にないコンセプトで2014年に設立された、ハイテク分野専門の運用会社だ。財務諸表に現れていないイノベーションに着目して、飛躍的に成長する企業を発見する「ベンチャーキャピタル」の視点で、上場企業の投資機会を発掘している。イノベーションを生み出す技術分野ごとにアナリストを配置し、最前線の技術者とSNS等でオープンに議論するなどユニークな調査手法を採用している。
-これまでの経緯は。
千葉氏 当社は2016年12月、アーク社と共同で、金融とITを融合したフィンテック企業に投資する世界株投信「グローバル・フィンテック株式ファンド」を設定した。17年には、日興アセットがアークに部分出資し、最先端技術やイノベーションを対象とした投資ソリューションの開発などで提携した。
これまでに、移動サービス(MaaS)、宇宙、全遺伝子情報(ゲノム)、破壊的イノベーション、非接触ビジネスなど6分野で11本の公募投信を日本で設定した。それらの運用残高は、合わせて約2兆3000億円(21年1月29日)に拡大している。いずれも、世界株のベンチマークを上回る高いパフォーマンスを上げている(表)。
◆15の「破壊的イノベーション」の最新動向
-リポートの注目点は
千葉氏 アーク社が注目するイノベーションの最新動向をまとめたのが、年次リポートの「ビック・アイデア」だ。1月に公表されたばかりの2021年版では、破壊的イノベーションのテーマとして15分野を掲げている。
具体的には「ディープラーニング」「データセンターの再発明」「バーチャル・ワールド」「デジタル・ウォレット」「暗号資産のファンダメンタルズ分析」「暗号資産」「電気自動車(EV)」「オートメーション」「ライドシェア」「配達用ドローン」「高軌道の宇宙航空」「3Dプリンター」「遺伝子配列の読解」「マルチがん検査」「次世代のゲノム治療」-だ。このリポートの日本語訳を作成中で、出来上がり次第、当社のホームページで公開する予定だ。
-注目のテーマは。
千葉氏 今回のリポートでは、新たに「バーチャル・ワールド」が取り上げられた。たくさんの人が同時に参加し、自由に行動できる仮想空間のことだ。ゲームなど「遊び」の場から、人々がさまざまなアクティビティを行う場所に変化していくことが期待されている。現在は、個別のIT企業が作り出す一つ一つの世界がある段階だ。これが徐々に結びついて、互いに行き来できるようになり、その中で仕事が生まれ、モノを購入するなど経済活動が営まれる場所になるのではないか。
昨年10月に発売された携帯端末「iPhone(アイフォーン) 12 Proシリーズ」には、3Dスキャナー「LiDAR(ライダー)」が搭載された。目の前のモノや人をスキャンして、バーチャル・ワールドに持ち込めるようになった。これが広く使われるようになれば、バーチャル・ワールドの普及の流れを一気に加速させるゲームチェンジャーになる可能性がある。ここ数年のうちに、拡張現実(AR)を体験できる眼鏡型のデバイス「ARグラス」が発売されるとみられており、バーチャル・ワールドを後押しするだろう。
-そのほかは。
千葉氏 ビットコインなどの暗号資産だが、投資尺度など、ファンダメンタルズ分析の手法が急速に普及してきた。欧米では、暗号資産に投資する機関投資家も出始めている。
例えば、株式であれば、株価収益率(PER)のようなスタンダードな投資尺度を使って、株価の割安・割高などを分析したり、表現したりする。暗号資産の分野でも、そうした手法を使って、客観的にファンダメンタルズを表現できるようになってきた。
機関投資家は、説明責任を重視するので、客観的な基準が整うことで、暗号資産に投資しやすくなる。また、事業法人が余剰資金を暗号資産で保有したり、保険会社が投資先の一つに暗号資産を加えたりするなど、参加者が広がり、市場が成熟しつつある。
◆コロナ禍で加速する「破壊的イノベーション」
-コロナ禍の影響は。
千葉氏 コロナウィルスの感染拡大を防ぐ対策を打ち出す中で、多くのイノベーションが加速した。ネットを使った購買が増えるなど、われわれの生活スタイルが変化し、企業もリモート勤務やテレビ会議を推進した。本来であれば、5~10年かけて普及していくようなイノベーションが、数カ月間の間に多数の人に行き渡った。
こうした変化を「一時的なものだ」と指摘する人もいるが、コミュニケーション・アプリなど便利なものに慣れてしまったので、もう手放すことはできないだろう。コロナ感染が沈静化した後も、使い続けられ、さらに改善されるだろう。
-米国のバイデン政権誕生の影響は。
千葉氏 イノベーションに対してニュートラル(中立)だと考えている。米民主党の議員の中には、巨大なIT企業に対して厳しい発言とする人もいるが、それが政策として実行される可能性は低いだろうと見ている。
米国と中国のハイテク分野での対立は、今後も続くだろう。数年前に、日米欧を中心とする西側のハイテク産業と、中国のハイテク企業は、分かれ道を通過し、全く異なる道を歩み始めたように思う。今後は、個人情報やプライバシーに敏感に対応する西側のハイテク産業と、利便性や治安の向上を優先する中国のハイテク産業で、世界のマーケットを二分していくだろう。
バイデン政権は、温暖化ガス排出問題で、世界的な枠組みに復帰する方針を打ち出した。ただ、アーク社は、そうした政策のサポートがあるから、関連する企業の株式を購入するという考え方をしない。
「今この瞬間、そのイノベーションは、普及するための準備が整った状況にあるのか」に注目している。例えば電気自動車であれば、「ガソリン車とほぼ同等の価格水準になり、乗り心地が優れていて、ランニングコストも安い」といった条件が整ったことで、消費者は選択するようになる。「政府が旗を振ったか」ではなく、「準備が整ったか」が大切だ。
◆「破壊的イノベーション」から発想、長い時間軸
-アークのファンドの好成績の理由は。
千葉氏 「テクノロジー(技術)から調査していること」と「投資の時間軸が長いこと」の2点だ。
ほとんどの運用会社は、過去の決算データを分析し、3カ月先の四半期決算を予想するといった、伝統的なウォール街の手法を採用している。一方、アークは、まずテクノロジーを調査し、イノベーション(技術革新)によって、5年後、10年後にどれくらい市場が拡大するかを予想する。次に、「準備が整ったイノベーションの分野」について、特許を持っていたり、製品を持っていたりする企業を調査する。
アーク社の場合、最初に技術があって、次に企業がある。ベンチャーキャピタルに近い調査方法だ。「市場全体がこれぐらい伸びるのであれば、その企業のシェアはこれぐらいになるので、これぐらいのバリュエーション(企業価値)になるだろう」と評価する。
-株式市場の価格変動が大きくなっているが。
千葉氏 アーク社は価格変動の大きなマーケットを好む。アーク社は「順張り(株価が上昇している銘柄を買う)」ではなく、「逆張り(下がったものを購入する)」のスタンスだ。他の市場参加者と違うことを考えていて、みんながその株式を購入しているときは、売っていることが多い。反対に、みんなが売っているときでも、企業価値に対する確信度に変化がなければ、その株式を購入する。マーケットの波が大きいほど、アーク社のパフォーマンスは、さえるという特徴がある。(了)