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先端テクノロジーを活用、オルタナティブ・データでファンド運用-三井住友DSアセット

2021年02月26日 15時43分

 従来投資判断に活用されていなかった新たな統計「オルタナティブ・データ」を、ファンド運用に取り入れる動きが、拡大している。ほぼリアルタイムで利用できる「速報性」と、特定の事業者のみが保有する「独自性」を生かすことで、新たなリターンの源泉にする狙いだ。

 三井住友DSアセットマネジメントは昨年12月、NTTドコモと業務提携し、バランス型投信「データ戦略分散ファンド(愛称:dインパクト)」の運用を開始した。携帯電話の位置情報から人の動きを読み取るなどして、経済の先行きを予測し、機動的に資産配分を見直す。同社営業企画部ビジネス・イノベーションチーム長の井上武氏らに話を聞いた。

-オルタナティブ・データとは。

井上武 氏

井上氏 統計といえば、国内総生産(GDP)のような経済統計や、企業の決算発表などの財務情報といった一般的な公開情報である「トラディショナル・データ(伝統的な統計)」を思い出すだろう。「オルタナティブ・データ(非伝統的な統計)」は、それ以外のデータという位置付けだ。

 例えば、携帯電話の位置情報で人の移動や物流を分析したり、クレジットカードの利用状況で消費動向を把握したりできる。また、ニュース記事など大量の文章をテキスト解析したり、Webのアクセス数やアプリのダウンロード数を分析したりすることも可能だ。従来は、こうした大量のデータを収集・分析することは難しかったが、ITやAIの普及により利用できる環境が整ってきた。

 オルタナティブ・データのメリットだが、一般的な統計や財務情報が公表までに1~2カ月かかるのに対して、オルタナティブ・データはリアルタイムに近い早さで入手できる。また、一般に公開されていないデータであり、利用者ごとに独自の分析ができる。このため、新たな超過収益の源泉になるのではないかと注目されている。

-新ファンドは。

井上氏 当社は昨年12月、NTTドコモのオルタナティブ・データを活用した国内初の投信「データ戦略分散ファンド」を設定した。「守りと攻め」のバランスを取りつつ、中長期の資産形成に資する運用を目指している。

 「守り」については、日米の株式・債券・金に分散投資する。また、パフォーマンスに与えるリスクの影響度合いが均一になるように資産配分するリスク・パリティ戦略を採用した。インフレや金利といったファクターに対する影響度合いにも注目して分散投資する。

 「攻め」については、オルタナティブ・データを活用し、機動的に資産配分を見直す。具体的には、NTTドコモの携帯電話の位置情報から、約7000メッシュ内に存在する商業施設や工業用地の人口増減を把握し、消費と生産動向を推定したり、米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文からセンチメント(市場心理)を計測し、マーケットの先行きを推定したりして、景気やマーケットが上向きであると判断すればリスク資産を増やし、下向きであると判断すればリスク資産を減らす。

 このほか、基準価額の大幅な下落を回避し、ファンド全体のリスク水準を年率5%程度にコントロールするターゲット・リスク戦略を行う。

-コロナ下の状況は。

川代尚哉 氏

川代尚哉・同社運用部シニアクオンツアナリスト 新型コロナウィルスの感染防止のため、人の動きが抑制されているにもかかわらず、日米の株価が高値を更新していることに「違和感を覚える」という質問をよく受ける。

 ただ、当社が活用するオルタナティブ・データで、商業地域と工場地帯の人の動きをみると、確かに商業地域では緊急事態宣言が出る前に比べて人の動きが2割程度減っているものの、工業地帯は変わりがない。工場の稼働率に変化がなく、オンゴーイングのままであることがデータから読み取れる。

 オルタナティブ・データは、自分の目で数値を確認して、リアルタイムで現状を把握できるという点においても、ファンド運用にとって、とても参考になるデータだ。

-どのような投資家ニーズに応えるファンドか。

井上氏 このファンドは「リスクを抑えながら運用したいが、何で運用すればいいか分からない」というお客さまをイメージしている。「中長期的に資産を増やしていきたい」「株価上昇の恩恵も一定程度享受したい」とお考えだろうし、一方で「大きなショックが起きても大きな損失は避けたい」という気持ちもお持ちだと思う。

 最先端のテクノロジーをベースに、基準価額の大幅な下落を避けつつ、中長期的に安定した成長を目指す運用を行っていきたい。(了)

 

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