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職域の金融相談サービス「Shines」、提供先企業を拡大へ=開始から1年半、満足度99%超に-Japan Asset ManagementとIT大手NEC

2025年06月30日 08時30分

(堀江氏)(堀江氏)

 IFA法人のJapan Asset ManagementとIT大手のNECが展開する、デジタルを活用した職域向け金融教育・相談サービス「Shines(シャインズ)」は、スタートから1年半が経過した。金融相談で99%を超える高い満足度を得るなど、NECグループの福利厚生サービスとして成果を上げており、「Shines」の提供先企業を拡大する方針だ。

 Japan Asset Management代表取締役の堀江智生氏と、NECのみらい価値共創部門 主席プロフェッショナルで、NECが全額出資する個人向け金融サービス会社Painter社長の岩田太地氏が記者勉強会を開き、「Shines」の現状と今後の展開を説明した。主なやり取りは以下の通り。

◆金融相談のハードルを下げる

-なぜ職域金融サービスで提携したか。

堀江氏 政府は「資産運用立国」を掲げ「貯蓄から投資」を推進しており、少額投資非課税制度(NISA)の利用も進んでいる。

 ただ、多くの国民が「将来のお金に不安がある」「制度の活用方法が分からない」といった悩みを抱えている。また、不安を抱えているのに「お金について相談をしたことがない」という人が多く、金融コンサルティングをどのように普及させるかが、課題になっている。

 当社とNECは「企業が、福利厚生事業の一つとして金融コンサルティングサービスを提供すれば、お金の相談に踏み出す際の心理的はハードルが下がるのではないか」と考えた。職域向け金融サービス「Shines」を2024年1月に立ち上げ、NECグループの社員向けに提供を開始した。

 利用者からは、「会社が提供する福利厚生サービスということで、安心感があった」「なかなかお金の相談に行くきっかけがなかったが、『Shines』を利用することで、資産運用に踏み出せた」といった評価をいただいている。

◆退職金相談などで、高い満足度を実現

-「Shines」の状況は

堀江社長 1年半の間に、セミナーを85回開催し、個別相談は3700件を超えた。このサービスを通じて、お客さまからお預かりしている金融資産の残高が71億円を突破した(2025年5月末)。当社全体の預かり資産(約700億円)の中で一定の水準に高まってきている。

 「Shines」の利用者を年代別に見ると、50代が半分強を占め、次いで40代が多い。一方、成約している商品は、債券が6割強、投資信託が4分の1程度を占めている(いずれも2025年5月末)。

 面談の相談内容で最も多いのは「退職金の受け取り方とその後の運用」だ。「一時金として退職時に受け取るか、それとも年金として分割して受け取るのが良いのか」といった質問をいただくことが多い。次いで、「確定拠出年金(DC)・マッチング拠出」や「会社の制度(持ち株会、財形貯蓄)」の利用方法についても、相談を受けている。

 面談の満足度についてアンケートしたところ、「非常に良い」(68.9%)、「良い」(30.4%)と、99%を超える利用者から評価をいただいている。このサービスをNECグループだけでなく、ほかの企業にも広く展開していきたいと考えている。

◆DX時代、個人向け「金融販売・アドバイス」は重要な領域に

-NECの対応と狙いは

(岩田氏)(岩田氏)


岩田氏 NECの過去10年を振り返ると、個人向けのデバイスやインターネット・サービスから遠のいてきた。しかし、デジタルトランスフォーメーション(DX)の時代においては、個人と接点を持ち、データを活用することが、IT企業にとっても重要だ。特に、「金融販売・アドバイス」の領域は、「ヘルスケア」と並んで重要な分野だと考えている。

◆日本はアッパーマス・マス層が資産を保有

-「Shines」のサービス対象は

岩田氏、欧米は、超富裕層(資産5億円以上)や富裕層(同1億円以上)が資産を持っている。これに対して日本は、アッパーマス層(同3000万円以上)やマス層(同3000万円以下)が多くの資産を持っている。つまり、大企業や中小企業のサラリーマン、自営業者の資産の積み上げによって、家計資産2000兆円ができている。

 アッパーマス層やマス層のお客さまには、AI(人工知能)を活用しないと、パーソナライズされたアドバイスを効率的に提供できない。個人ごとのライフスタイルやライフステージ、資産状況に応じて、それぞれのリスク許容度に合った商品を提供し、購入していただくことが欠かせないためだ。

 こうした考えに基づいて、「Shines」は、資産形成期にあるNECグループの社員をはじめとして、他企業へもサービス提供を開始している。

◆退職金や企業年金の疑問に答えるチャットボットを開発

-AIの活用は

岩田氏 人間の力だけで金融教育を行い、質の高いアドバイザーを提供しようとすると、コストに合わない。人間とAIが協業して提供するサービスが、重要なサービス領域になるだろう。当社は、NECの社員向けに、自社の退職金・企業年金制度について回答するチャットボットの開発などを進めている。

◆人的資本価値、エンゲージメントの向上を目指す

-「Shines」のさらなる展開は

岩田氏 「Shines」は、「社員の資産形成」とともに「企業の人的資本価値の向上」を目指している。

 具体的には、社員のFinancial Well-being(お金に関する良い状態)を実現し、エンゲージメント(会社と社員の関係性)の向上につなげていく。将来のお金の不安を解消することで、社員がやりたいことに集中できる環境を提供したい。

 NECは、従業員を対象とした株式報酬制度「NEC Value Share」を2025年度から新たに導入する。「Shines」では、教育・個別相談を通じて、株式報酬や持株会の浸透を図っていく方針だ。従業員のポートフォリオの中で自社株のバランスを考えたり、インサイダー取引にならないための正確な知識を普及したりすることが必要になるだろう。

 

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