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「みんなで減CO2プロジェクト」を始動=やさしい言葉とキャラクターで浸透を図る-日本総研・佐々木氏

2023年09月12日 14時30分

(キャラクターのニャートラル<左>とギャートラル)(キャラクターのニャートラル<左>とギャートラル)

 日本総合研究所と民間企業9社は、温室効果ガス排出量の削減に取り組む「みんなで減CO2(ゲンコツ)プロジェクト」をスタートした。生活者と共に、2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの実質ゼロ)に向けて、取り組みを加速する。日本総合研究所 グリーン・マーケティング・ラボのラボ長で、主席研究員の佐々木努氏に、プロジェクトの背景や推進のポイントを聞いた。

◆買い物、教育、お金

-プロジェクトのポイントは。

佐々木氏 2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルを実現するには、一般の生活者の理解と行動が不可欠だ。このプロジェクトは、「買い物」「教育」「お金」をキーワードに推進する。

具体的には、身近な「買い物」を通じて生活者の皆さんとコミュニケーションを図りながら、脱炭素の取り組みを浸透させていく。さらに、公的機関等と連携して「教育」の機会を提供したり、エコ・ポイントの付与や環境投資など「お金(金融)」の仕組みを使って資金の流れを作ったりすることを考えている。

◆モンスターを倒せ!

-工夫した点は。

(出所)日本総研、プロジェクトのロゴ<左上>とキャラクターたち)(出所)日本総研、プロジェクトのロゴ<左上>とキャラクターたち)


佐々木氏 一般の生活者から見ると、日々の生活の中で「脱炭素」を意識することは、それほど多くない。また「脱炭素」や「カーボンニュートラル」といった専門用語を使っていては、生活者に親しみを持って参加してもらったり、店舗の売り場で対象商品を見つけてもらったりすることは難しいだろうと考えた。

 このプロジェクトでは、生活者の皆さんとコミュニケーションを取る上で、分かりやすさや、なじみやすさを重視した。そのため「減CO2(二酸化炭素)」を、モンスターをやっつけるという意味合いも込めて「ゲンコツ」と読んだり、ネコのキャラクターの「ニャートラル」「ギャートラル」を登場させたりして、覚えやすく、印象に残るようにした。

 二匹のネコは、地球温暖化が進んだため「コタツに入れなくなって困っている」という設定だ。温暖化の原因であるCO2を排出するモンスターやっつけるために立ち上がった。タヌキの「ゲンコツさん」は、CO2削減の方法を熟知した達人だ。二匹は、ゲンコツさんからさまざまな知識を学び、人間と一緒にモンスターを倒していく。

◆7割強が「脱炭素の商品を購入したい」

-生活者の現状は

(日本総研の佐々木氏)(日本総研の佐々木氏)


佐々木氏 日本総研は昨年、「くらしとカーボンニュートラルに関する生活者調査」を全国の約1万4000人を対象に実施した。この中で「カーボンニュートラルに対応した商品がほしいですか」と尋ねたところ、76%の人が「購入したい」と回答した。

 ただ、「カーボンニュートラルに対応した商品に出会ったことがない」とする回答も75%を占めた。「欲しいけれども商品がない」という現実があるようだ。確かにエアコンや冷蔵庫など大型の家電商品については、省エネや脱炭素が商品選択の重要な要素になっているが、一般の日用品についてはまだ、そうした状況になっていないように思う。このプロジェクトでは、そうした状況を少しずつ変えていきたいと考えている。

◆「ポイント付与」と並び「専用の棚」と「誘導」

佐々木氏 このアンケートの中で「カーボンニュートラルに対応した商品を購入するために必要な施策」を尋ねたところ、「カーボンニュートラルに応じてポイントが付与されたら良い」が37%を占めた。さらに、これと並ぶ割合で「店頭でカーボンニュートラル商品の専用棚を設置してほしい」(36%)、「カーボンニュートラル商品の棚への誘導・表示があればいい」(35%)とする回答があった。

 生活者は、インセンティブ(誘因)だけでなく、それと同じように脱炭素に取り組む「きっかけ」を求めているのかもしれない。そこにアプローチすることで、脱炭素社会に向けて前進することができるかもしれないと考えている。

◆「カロリー表示」のように浸透するか

佐々木氏 メーカーは「エコラベル等を商品に貼っても、消費者に見てもらえないのではないか」とする懸念を持っている。ただ、一方で消費者に企業の取り組みが十分に伝わっておらず、「脱炭素の配慮に関する分かりやすい解説がほしい」とする回答が35%あった。このプロジェクトでは。伝える側と受け取る側の間にある、こうしたギャップを埋める工夫について、何かヒントを見出していきたいと思っている。

 類似した事例に「カロリー表示」があるように思う。今、食品を購入するときにカロリーを見るは普通になったが、普及まで20年の歳月が必要だったと言われている。脱炭素をカロリー表示と同じように「自分ゴト」にしてもらうには、教育現場などで子どものころから温暖化対策の重要性を学んでいくことが必要かもしれない。

◆約5割が「脱炭素企業を応援したい」

佐々木氏 関係者の話しを聞いていると、メーカーからは「環境にいい商品を作っても、『売れない』という理由で、売り場に置いてもらえない」という声を聞く。一方で、流通サイドからは「環境に配慮した商品の棚を用意しても、商品がそろわない」といった声が出ており、メーカーと流通業者の間で行き違いが感じられる。

 一方、アンケートでは49%が「カーボンニュートラルにがんばる企業を協力・応援したい」と回答している。この三者の関係性は「ニワトリとタマゴ」になっているのかもしれない。商品をそろえて分かりやすくアピールすることで、雪だるま式にカーボンニュートラルに向けた活動が、前に転がりだすかもしれないと期待している

◆「触れる⇒学ぶ⇒取り組む」のサイクル回す

-まず取り組むことは

(出所)日本総研、当面実現したい世界(出所)日本総研、当面実現したい世界(クリックで表示)


佐々木氏 カーボンニュートラル社会が一足飛びに実現できるとは、まったく思っていない。当社と企業と生活者が、ステップを踏んで一歩一歩、前に進んでいくことが大切だ。

 まずは、脱炭素に「触れて、学んで、取り組む」ことで、試行的に脱炭素を体験する世界を実現していきたい。脱炭素に「触れる」機会を作り出し、興味を持ってもらう。次に、楽しみながら、おもしろく「学んで」もらう。それをきっかけに、脱炭素の「取り組み」を体験してもう。

 このプロセスは1回で終わりではなく、何度も何度も繰り返して体験してもらう。その結果、ようやく脱炭素が一人ひとりの生活者の中で「自分ゴト化」するかもしれない。そして、脱炭素に取り組む人が増え、マーケットや企業が変わり、脱炭素の取り組みが加速していくことを期待している。

◆「ビジネス」と「暮らし」は車の両輪

-プロジェクトで重要な点は。

(出所)日本総研、みんなで減CO2プロジェクト(出所)日本総研、みんなで減CO2プロジェクト(クリックで表示)


佐々木氏 「ビジネス」と「暮らし」の両面で、「減CO2(ゲンコツ)」を進めていくことが大切だ。ただ、現状を見ると、ビジネスの側は、製品・サービスを「作る・運ぶ・売る」のそれぞれの段階で、本格的に対応を進めている。一方で、生活者の側は「商品・サービスを選ぶ・使う・捨てる」の中で、脱炭素の動きは「まだまだこれから」という段階だ。

 ただ、「ビジネスのゲンコツ」と「暮らしのゲンコツ」は、車の両輪だと思う。ビジネス側の取り組みを盛り上げるだけでは、車は前に進まない。暮らしの側の行動、つまり、脱炭素商品の価値を理解し、そうした商品・サービスを購入し、企業の取り組みを応援するといった行動が重要になる。「みんなで減CO2プロジェクト」は、「買い物」「教育」「お金」という切り口で、企業と生活者をつなぐ役割を担っていきたい。

◆来年1月には店舗で実証実験

―どのような活動をするのか。

佐々木氏 来年1月には店舗で実証実験を行いたいと考えている。棚の前で足を止め、商品に触れてみる「きっかけ」をつくる取り組みにチャレンジしたい。また、芸術大学の学生さんに暮らしの中でCO2を出すモンスターをイラストしてもらうことも考えている。

 スマートフォンのアプリを作成した。クイズで脱炭素を楽しく学んだり、各企業の取り組みを紹介したりするコンテンツをそろえた。身近なお店の売り場で、身近な商品を通じて、楽しく、面白く、脱炭素に「触れ、学び、取り組む」機会を提供することで、生活者の意識と行動の変化を分析する計画だ。

◆自治体と教育分野の連携をスタート

-活動範囲の拡大は。

佐々木氏 こうして開発したコンテンツは、地方自治体等と連携して、脱炭素の普及・啓発活動に活用してきたいと考えている。例えば、学校の授業の教材にしたり、お店での催事と連動させたりすることで、机上で学ぶことと、店舗で実際にリアルに体験することを連携させることができたらなと考えている。

 実際に、7月からは、自治体と一緒に、小学生向けに環境関連の催事の開催や、学習ツールの提供を始めた。また、社員教育に活かしてもらうことを考えている。まずは「隗(かい)より始めよ」ということで、当社の社員を対象に、親子で「暮らしの中のCO2モンスターを描いてみよう」「エコラベルを探してみよう」といったことを体験してもらっている。

 

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