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リスクを抑えた「おとなのバランス」ファンド=「Tracers」シリーズで第4弾を設定-日興アセット

2023年03月02日 08時00分

有賀潤一郎氏

 日興アセットマネジメントは、ネット専用のノーロード・ファンドシリーズ「Tracers(トレイサーズ)」の第4弾として、世界の株式と不動産、債券に分散投資するバランスファンドを設定した。各アセットのリスクの大きさが概ね均等となる資産配分で運用する「リスクパリティ戦略」で基準価額のブレを抑制し、「投資家が日々の値動きにハラハラせず、ゆったりと落ち着いた気持ちで資産形成に取り組めるようにする」ことを目指している。

 新ファンド名は「Tracers グローバル3分法(おとなのバランス)」。マザーファンドに各資産のインデックスファンドを活用し、ファンド設定時に決めた基本資産配分比率をルールとしてそれに沿った運用を行うことで、低水準の信託報酬を実現した。「つみたてNISA適格ファンド」になっている。商品開発部長の有賀潤一郎氏に話を聞いた。

◆「まとまったお金」「限られた期間」のニーズに応える

-設定の狙いは。

有賀氏 当社は、投資を始めたばかりの方や投資未経験の方を主な対象とするオンラインセミナーを開催している。参加者を年齢別にみると40~50代の方が一番多い。こうしたお客さまから「まとまったお金の運用先について迷っている」という声や、「限られた期間で積立投資したい」という声をいただいた。

 このファンドは、お客さまのこうした要望に応えるため、リスクの大きさとして「低過ぎず、控えめな水準」を目指して開発した。お金がまとまっていればいるほど、投資期間が短ければ短いほど、不確実性(リスク)に対して回避的にならざるを得ないためだ。

◆リスクパリティで「基本資産配分比率」を決定

-ファンドの仕組みは。

(出所)日興アセットマネジメント 交付目論見書より(出所)日興アセットマネジメント 交付目論見書より(クリックで表示)


有賀氏 このファンドの投資対象は、先進国と新興国と日本の株式、先進国と日本の債券と不動産投信という七つのインデックスのマザーファンドだ。株式・債券・不動産投信という三つのアセット内の配分は、それぞれの市場の大きさ(時価総額)に合わせてウエイトを調整する。例えば、世界株式に占める新興国株式の時価総額が高まれれば、それを反映させる。

 次に、このファンドの肝(きも)となる部分だが、株式・債券・不動産投信という三つのアセットの配分比率は、各アセットのリスクの大きさが概ね均等となる資産配分を「リスクパリティ戦略」で決定した。具体的には、株式が20.0%、債券が66.7%、不動産投信が13.3%になった。この基本資産配分比率をルールとして、これに沿った運用を行う。

 為替リスクについては、債券でヘッジする一方、株式と不動産投資はヘッジしない。この結果、株式・債券・不動産投信・為替という四つのリスクの大きさが概ね均等となる資産配分で運用することを目指している。

◆四つのリスクが釣り合い、安定的な値動きを目指す

-リスクパリティの効果は。

(出所)日興アセットマネジメント 販売用資料より(出所)日興アセットマネジメント 販売用資料より(クリックで表示)


有賀氏 リスクを極力分散し、四つのリスクの大きさがバランスして釣り合うと考えられる「基本資産配分比率」に設定した。これにより、価格変動の大きい特定のアセットの値動きの影響を受けづらくなる。また、あるアセットが値下がりするときに、別のアセットが値上がりする「逆相関」の効果も働き、安定的な投資成果の獲得が期待される。

 2003年以降のデータで見ると、株式や不動産投信が大きく価格変動する中で、このファンドの基本資産配分比率で合成したシミュレーションは、海外先進国債券(ヘッジあり)のリターンを上回りつつ、落ち着いた値動きを示している。

◆相場変動時は、基本資産配分に戻す「リバランス」を実施

-相場変動時の対応は

有賀 このファンドのリスクパリティ戦略の特徴は、「基本資産配分比率」を基準としてリバランス(配分調整)を行う点だ。この方法だと、例えばリスクが高くなって資産価格が値下がりしているときには、ポートフォリオの資産配分を「基本資産配分比率」に戻すために、そのアセットを購入して「基本資産配分比率」に戻す運用を行うことが多い。

 リスクパリティ戦略の運用では、これと正反対の投資行動を取るものが多い。それは、「短期のリスク水準」を基準としてリバランスを行う方式だ。この方式だと、短期的にリスクが上昇した局面では、各資産のリスクを均等に戻すために、値下がりしているアセットを売却することがあり、「マーケットの値下がりを助長する」と批判されることがある。

このファンドは、長期のリスク水準を参照して「基本資産配分比率」を決めたが、日々の運用の中で短期のリスク水準を参照して資産配分を調整することがない。このため、こうした批判に該当しない。「みんなが売却しているときに一緒に売却する」のではなく、その逆に「みんなが売却しているときに購入する側に立つ」ことが、特徴だ。

◆新NISA、「つみたて」と「成長投資」の併用が可能に

-2024年の新NISAの期待は

有賀氏 新NISAは「つみたて枠」と「成長投資枠」の併用が可能になり、生涯の非課税保有限度額は合算で1800万円と大きくなるので、一般の個人のお客さまであれば、この範囲内で資産形成が完結する方が、相当程度おられるだろう。このファンドは「つみたてNISA適格ファンド」になっているので、両方の枠で使ってもらうことができる。

◆リスクを実感し、分散投資の重要性の理解が深まる

-市場のボラティリティが高まっているが。

有賀氏 昨年は、金利が上昇し、株式や債券が値下がりした。また、円相場は一時1ドル=150円台に急落するなど、市場のボラティリティ(価格変動率)が高まった。一方で、食品価格や燃料価格が上昇し、インフレが現実のものになるなど、さまざまなリスクが顕在化した。

 このファンドは、株式などのマーケットの価格変動リスクを直視し、精緻な分散投資でそれに対応する仕組みを組み込んでいる。その意味では、リスク分散の重要性と、インフレ対応の必要性の両方を実感した投資家の方々に、このファンドの考え方は理解していただきやすいものだと考える。また、こうした方の背中を投資へと押しやすいファンドだと思う。

◆独創的はパッシブファンドの提供を目指す

-「Tracers」シリーズのコンセプトは

Tracers


有賀氏 当社として初めてのネット専用のパッシブファンド・シリーズだ。「『こんなの欲しかった』をデザインし、ルール通りに運用(トレース)する」をコンセプトに独創的なファンドの提供を目指している。指数に連動するインデックスファンドと、独自に定めたルールに沿って運用するルールベースファンドをラインアップに加えている点が大きな特徴だ。販売手数料ゼロのノーロードとし、信託報酬も低水準に設定している。

 
(出所)目論見書等より時事通信社作成 2023年2月28日時点(出所)目論見書等より時事通信社作成 2023年2月28日時点(クリックで表示)
 
 

 

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