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新興国の脱炭素化、官民の仕組み構築に期待=ESG投資の注目点-アムンディの岩永氏

2023年01月05日 10時00分

アムンディ・ジャパンの岩永泰典チーフ・レスポンシブル・インベストメント・オフィサー

 欧州系運用会社アムンディ・ジャパンの岩永泰典チーフ・レスポンシブル・インベストメント・オフィサーは、「2023年のESG投資の流れ」をテーマに講演し、今後の注目点として「新興国の脱炭素化プロジェクトに資金を提供する、官民の仕組み作り」を挙げた。また、景気減速が予想される中で「企業分析においてESGの要素が重要性を増す」と指摘した。主なポイントは以下の通り。

◆エジプトでCOP27

-2022年の状況は。

岩永氏 11月にエジプトで開催された国連気候変動枠組み条約第27回締約国会合(COP27)では、成果文書「シャルムエルシェイク実施計画」で、「地政学的状況などを理由に気候変動対策を後退させてはいけない」とする決意が示された。また、地球温暖化で生じる損失に対応するため、途上国を支援する基金の創設で合意するなど、途上国の取り組みに関心が高まった。

 一方、グリーンボンドなどのいわゆるGSS(グリーン・ソーシャル・サステナビリティ)債券の発行額はウクライナ戦争や金利上昇により、第1四半期と第2四半期は、前年同期をやや下回ったもようだ。ただ、経済が脱炭素化に取り組む中でこれらの債券は不可欠な構成要素となっており、状況が落ち着きを取り戻せば、健全なペースで起債が継続すると考えている。

◆新興国

2023年のESG見通し2023年のESG見通し(クリックで表示)


-2023年の注目点は。

岩永氏 注目点の一つ目は、新興国への投資だ。今後、新興国でも脱炭素に向けてエネルギーのトランジション(移行)は不可欠であり、これを後押しするためのプロジェクトに向けて資金フローを構築することが重要になる。ただ、新興国には固有のリスクがあるので、民間だけでは投資に慎重にならざるを得ない。

 そこで注目されるのが、官民が連携して資金フローを作り出す、新しい仕組みづくりだ。アムンディは国際金融公社(IFC)とパートナーシップを結び、新興国のグリーンボンド市場を育成するとともに、そうした債券への投資機会を先進国のアセットオーナーに提供した実績がある。来年前半には、ソーシャルボンドを軸にした同様のスキームで投資機会の提供を準備している。


◆投資評価

 二つ目は、企業分析におけるESG要素の重要性だ。2022年は、欧米の中央銀行がこれまでにない早いペースで金融引き締めを実施した。コロナ禍からの回復途上にあった世界経済は今後、利上げの影響でスローダウンする可能性がある。その中で、投資判断においてESGが重要度を増すと考える。

 過去を振り返ると、2020年前半にコロナショックで株価が下落した局面では「S(社会)」の評価が相対的に高い企業のリターンが、そうでない企業よりも相対的に底堅かった。経済の先行きに不透明感が強まる中、企業評価において、ステークホルダーへの配慮とビジネスの持続可能性の関係がより注目されるであろう。

 より長期の視点に立つと、今後の世界のトランジション(移行)への取り組みが企業業績に与える影響がある。国際エネルギー機関(IEA)のシナリオ等を活用して、これを試算した。メインシナリオである「各国が協力しネットゼロに向けた取り組みが本格化する」ケースであっても、コスト負担の増加等で、企業収益は年率1%程度下押しされる。一方、リスクシナリオである「ネットゼロの取り組みがうまくいかず、地域間の分断が進む」ケースでは、異常気象が経済活動に与える悪影響が加わり、企業収益への影響は同2~2.5%程度のマイナスに拡大する見込みである。気候変動と経済活動を切り離すことはできないのであり、資産配分の判断にも影響を与えるものと考える。

◆ネットゼロ・アライアンス

 三つ目は、金融市場で脱炭素の働きかけが強まることだ。資産運用会社や保険会社などが業界ごとにイニシアティブを作り、「2050年、温室効果ガス(GHG)ネットゼロ」に向けて中間目標を定め、その達成状況を定期的に公表することにしている。今後、それぞれの参加者の間で具体的行動が広がると考える。

 アムンディでは、投資先企業に「科学的な根拠に基づく目標(SBT)設定」をエンゲージメント(建設的対話)で求める一方、ネットゼロに整合的な運用戦略の提案を進めていく方針だ。

 

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