気候変動に対する戦略的対応の開示を=東証プライム、TCFD義務化1年目-EY Japan
2022年12月14日 09時00分
会計・税務・コンサルティングの専門サービスを提供するEY Japan(東京)は、「企業経営における気候変動リスク対応と非財務情報開示」をテーマにメディア勉強会を開催した。東証は2022年4月以降、プライム市場に上場する企業に対して、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に基づく情報開示を義務付けており、今年はその対応1年目にあたる。
牛島慶一EY Japan気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)リーダーは、対応のポイントについて「表面的な情報開示にとどまることなく、気候変動が企業にもたらすリスクと収益機会を分析し、その結果を戦略的対応につなげる企業経営が求められている」と指摘した。主なやりとりは以下の通り。
◆戦略立案から開示まで包括的なサービス提供
牛島氏 EYは、世界4大会計事務所・総合コンサルティングファーム(ビック4)の一角だ。EY Japanは、EY新日本有限責任監査法人やEY税理士法人、EYストラテジー・アンド・コンサルティングなどで構成されており、幅広い分野で専門的なサービスを企業に提供している。
-気候変動コンサルティングの強みは。
牛島氏 EYは、気候変動やサステナビリティにおいて、グローバルに統合された組織を作り、上流のサステナビリティ戦略の策定から、非財務情報の開示・保証までを網羅する包括的なサービスを提供している。また、「気候変動・脱炭素化」「労働安全・衛生」「人権・サプライチェーン・マネジメント」など、幅広い分野で専門家をそろえている。さらに、欧米で開発されたツール、最先端の知見を提供できる。
◆グローバルには開示率が上昇、財務諸表での開示は3割
-グローバルでの開示状況は。
山口岳志EY Japan CCaSSエグゼクティブディレクター EYグループは毎年、各国企業がTCFDの枠組みを使い、気候変動のリスクと収益機会をどの程度開示し、対策を講じているかを検証するため、調査レポート「EYグローバル気候変動リスクバロメータ―」をまとめている。2022年度版は世界47カ国の1504社を対象に実施した。
調査は各社が公表しているサステナビリティ・リポートや財務諸表等から、気候変動がもたらすリスクと収益機会について、TCFDが開示を求める「ガバナンス(経営による監視)」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」に関する計11項目について、回答の有無を調査し、その内容を5段階で評価した。
それによると、回答のカバー率は84%(前回は70%)に上昇した。ただ、その品質については44%(同42%)とほぼ横ばいにとどまった。情報開示の量は増えたものの、自社に適合したクオリティの高い情報内容という点では苦労しているようだ。
内容を詳細に見ると、TCFDは、気温上昇を抑えることができたケースやできなかったケースについて、シナリオに分けた説明を求めているが、こうした開示をしている企業は半分程度にとどまった。また、財務諸表の中で気候関連事項に言及している企業は3割程度だった。
◆日本、有価証券報告書での開示は4%程度
-日本のTCFD開示の現状は。
馬野隆一郎EY新日本有限責任監査法人サステナビリティ開示推進室長 日経平均株価を構成する銘柄(7月末時点)について、有価証券報告書やコーポレートガバナンス報告書等から、TCFD開示の状況を分析した。
それによると、9割以上の企業がTCFD開示をコンプライ(遵守)しており、開示に積極的な姿勢が見られる。ただ、開示する媒体は、Webサイトが約46%、統合報告書が約32%と多くを占めており、有価証券報告書で開示している企業は4%程度にとどまった。こうした調査結果を顧客企業と共有し、2年目に向けてどのような改善ができるか、ディスカッションしている。
-企業へのアドバイスは
馬野氏 TCFDに対応した開示に着手する企業が増えてきたが、まだ「完全な対応ができた」とする企業はほとんどない状況だ。日本のサステナブル情報の開示はスタートしたばかりで、開示項目を増やす検討が行われるなど、変革の中にある。
開示内容をみると、「気候変動」から「人的資本」までさまざまなので、「気候変動はサステナビリティ部」「人的資本は人事部」というように、社内の各部門がばらばらに動いていては、コストばかりがかかり、会社としてまとまった内容にならないだろう。
情報開示はTCFDの考え方をベースに、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」が四本柱になっている。全社的な取り組みを行う中で、個々の開示項目を考えていくアプローチを取れば、開示項目が増加してもスムーズに対応できるだろう。
企業に対しては「どんなレベルでもいいので、まずは必要とされる開示項目から始めて、順番に取り組みを広げてはどうか」とアドバイスしている。開示をスタートすると、それに対して、外部からの批評や分析、投資家からのリクエストなどが得られるので、それを材料に次のステップに進むのがよいだろう。