三菱UFJ国際、投信シェアがトップ=11年ぶり、「eMAXIS Slim」が好調
2022年11月18日 09時00分
三菱UFJ国際投信は、10月末の公募株式投信残高(除く上場投資信託)でマーケット・シェア(市場占有率)が12.25%となり、業界トップに立ったと発表した。2011年以来、約11年ぶり。資産形成層を中心に「つみたてNISA(少額投資非課税制度)」の利用が拡大する中、同社の低コスト・インデックスファンド『eMAXIS Slim』シリーズが人気を集めているためだ。
代田秀雄常務取締役は記者会見で、その背景について「投信販売は歴史的な転換点を迎えているのではないか」と分析。「投資家が主体になって資産形成に適した投信を選択するという新しい流れが、従来の販売会社主体の販売スタイルに加えて、起こっている」と話した。主なやりとりは以下の通り。
◆若者の資産形成、加速度的に増加
-投信販売の状況は。
代田常務 若い人の資産形成の動きが、加速度的に増加している。特に、20歳~40歳半ばのミレニアム世代が、ノーロード(購入手数料ゼロ)の低コスト・インデックスファンドを使って、投資信託の積み立て投資を行っている。
当社の『eMAXIS Slim』シリーズは、「ノーロードの低コスト・インデックスファンド」のカテゴリーで、資金流入額の5割強を占める大型商品だ。資産形成層を中心に、かなりの資金を集めている。この結果、当社は10月末に、公募株式投信(除くETF)の残高シェアで、トップに立った。
◆業界構造、販売スタイルに変化
-公募株式投信の歴史は。
代田常務 日本の投信販売は1950年代に証券会社で始まり、1998年にいわゆる「銀行窓販」が解禁され、販売窓口が銀行に広がったことで大きく拡大した。しかし、2008年のリーマン・ショックで販売が減少した後は、証券会社や銀行の窓口販売の残高は、おおむね横ばい圏で推移している。こうした中、①インターネット経由でのノーロードの低コスト・インデックスファンド ②ファンドラップ ③確定拠出年金(DC)向けファンド-の三つが加わり、公募株式投信(除くETF)の残高は、80兆円前後まで増加してきた。
投信の販売スタイルを振り返ると、これまでは販売会社が主体だった。つまり、販売会社と運用会社が特定のファンドをお客さまに販売し、数千億円規模で大型設定していた。しかし、現在では、お客さまがインターネット販売を利用して、いろいろな選択肢の中から自らの資産形成に適した投信を選択し、長期の積み立てを行うというスタイルが一気に広がっている。
◆業界最低水準のコスト
-三菱UFJ国際の取り組みは。
代田氏 当社は2015年に三菱UFJ投信と国際投信投資顧問が合併して誕生した。2005年当時を振り返ると、旧国際投信が運用する、世界の先進国国債等に投資する「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」(グロソブ)が人気で、当社のシェアは業界トップだった。しかし、世界的に低金利時代に入り、「グロソブ」が伸び悩んだことで、2011年初以降、当社は公募株式投信(除くETF)のシェア首位を明け渡した。
こうした中、当社は、いち早く現役世代の積み立て投資への資金の流れを捉えようと、09年10月にインデックスファンドの「eMAXIS」シリーズをスタートした。さらに17年2月には低コストの「eMAXIS Slim」シリーズを投入し、シェアを拡大してきた。
-人気の理由は。
代田常務 「eMAXIS Slim」シリーズは、「業界最低水準の運用コストを将来にわたって目指し続ける」ことをコンセプトに掲げている。20年、30年といった長期の資産形成を目指す投資家にとっては、今だけではなく、将来にわたって最低水準のコストを目指していることが受け入れられている理由ではないか。「eMAXIS Slim」は、シリーズ全体の運用残高が3兆円を突破、22年10月末の推定の受益者数は約426万人と試算している。
「eMAXIS Slim」シリーズは、他社類似商品のコスト引き下げに対応して、信託報酬を引き下げてきた。さらに、「受益者還元型の報酬体系」を採用しているファンドでは、純資産総額の増加に合わせて、信託報酬を段階的に引き下げることを投資家の皆さんに事前にお約束し、具体的な数字を目論見書に表にして記載している。実際に、純資産額が規定額に達したファンドでは、信託報酬を引き下げている。
◆投資家の裾野拡大に取り組む
-こうした取り組みの原動力は。
代田常務 投資家の皆さんとの接点を大切にしようと、定期的にミーティングを開催し、ご意見をいただいてきた。投信に詳しいブロガーの皆さんを対象にした「ブロガーミーティング」のほか、さらに幅広いお客さまを対象に「ファンミーティング」を開き、いただいた意見を商品戦略等に生かしている。
また、YouTube動画を使った情報発信を積極化している。投資家がインターネットを使って主体的に投信を選ぶというスタイルに変わっていく中では、運用会社もお客さまに直接、情報を届けることが重要だと考えている。いろいろなSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を使ってお客さまと接点を作っている。
◆「つみたてNISA」が、NISAを抜く
―今後の展望は。
代田常務 金融庁のまとめによると、2021年末の「一般NISA」の残高は10兆円だった。このうち5.9兆円が投信だ。一方「つみたてNISA」では1.7兆円だった。
当社は、この二つの制度について、現在のペースでそれぞれ加入者と残高が増加するという前提で将来像を推計してみた。すると、現在の基調が継続すれば、2025年には「一般NISA」と「つみたてNISA」の残高が逆転するという試算を得た。
それほど、積み立ての効果は重要だ。運用会社にとって、積み立て投資のお客さまのご支持を得て、その資金をいかにとらえるかが、とても重要になっている。
◆低コスト拡大でも、収益性は低下しない
-企業業績への影響は。
代田常務 「低コストのファンドが拡大することで、会社全体の収益率が低下するのではないか」とご質問を受けることがあるが、当社の収益を下押しすることにはならないと考えている。なぜなら、インデックスファンドとアクティブファンドでは、コスト構造がまったく違うからだ。
インデックスファンドは、残高に比例してコストが増加する部分が、極めて限定的だ。具体的には、インデックスのライセンス料とシステム使用料ぐらいだ。インデックスファンドは、規模が大きいほど収益性が高くなる。
運用会社は、お客さまが投資信託を長期に保有し、将来にわたって信託報酬を支払ってくださる「ライフタイムバリュー」を認識することが大切だろう。投資信託の平均保有年数は3.8年程度だが、10年、20年と長期保有していただくと、その間の信託報酬の累計額は、低コストファンドであっても大きくなってくる。投信の残高が増えることは、お客さまにとっても、運用会社にとってもハッピーなことだ。お客さまに長く支援いただける取り組みが重要だと考えている。