フィデリティ、ESG日本株ファンドを初設定=情報開示に工夫、金融庁「プログレスレポート」の期待を意識
2022年11月14日 09時05分
フィデリティ投信は、同社として公募投信で初となるESG(環境・社会・ガバナンス)の日本株投信「フィデリティ・脱炭素日本株・ファンド」を設定した。鹿島美由紀取締役副社長兼運用本部長は、日本株を投資対象とした理由について「日本には脱炭素技術で魅力的な企業が多い。グローバルなデマンド(需要)に対応して、活躍が期待される」と説明した。
勉強会では、井川智洋ヘッド・オブ・エンゲージメント兼ポートフォリオ・マネージャーが、ESG投資を装った「グリーンウォッシュ問題」を解説し、フィデリティのESG運用の特徴を説明した。また、野々垣智夏クライアントサポート副本部長兼サステナビリティビジネス推進部長は、金融庁が5月に公表した「資産運用高度化プログレスレポート2022」でESG投信が取り上げられたことを紹介、目論見書などの情報開示で工夫した点を説明した。
◆脱炭素の特許件数、日本が世界トップ=鹿島副社長
-脱炭素をテーマに日本株投信を設定した理由は
鹿島副社長 日本株は、一般に思われているより、長期的に投資機会がある。世界にいろいろな会社があるが、その中でも、脱炭素に関わる日本企業に、魅力的な企業が多いためだ。
-日本株の見通しは。
鹿島副社長 日本株は、2012年に安倍政権が成長戦略を掲げて経済政策を転換したことで、成長フェーズに転じた。さらに2022年から、ゆるやかなインフレと賃金が上昇する環境の中、第2の成長フェーズに入るのではないかと思っている。日本企業は過去10年間の第1フェーズで、上場企業のあるべき姿を示した「コーポレート・ガバナンス・コード(企業統治原則)」などの実現に取り組み始め、経営者の意識が大きく変わった。そのベネフィットがこれから出現してくるためだ。具体的には、ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視した経営を行う中で、マージン(利ざや)の改善に取り組み、そのことが国内外の投資家に評価されるだろうと見ている。
-新ファンドのポイントは。
鹿島副社長 脱炭素は、世界的な大きなうねりであり、巨額の資金が投入され、日本企業が活躍する場になるだろう。当社は、過去50年を超える日本企業の調査経験とグローバルな調査体制を持っている。フィデリティ独自の企業調査とESG分析を駆使して、高い成長性が期待される銘柄を厳選投資する。この分野で特に興味深いのは、脱炭素関連技術で、日本は特許出願件数が最も多いことだ。省エネや再エネなどで、高い成長が期待される。
◆「ボトムアップ・アプローチ」「企業との対話」の蓄積が強み=井川氏
-ESG投資に対する規制の動向は。
井川氏 環境に配慮しているように見せ掛ける「グリーンウォッシング」が問題になっている。投資家は「環境に良い企業に投資している」と思っているのに、実際は異なるという事実の誤認が生じてしまっている。その結果、中長期で資産価値にマイナスの影響が発生したり、持続可能な社会の実現可能性が低下したりすることが懸念される。金融庁をはじめとして、日米欧の規制当局が対応を進めている。
-投資家がグリーンウォッシュを避けるポイントは
井川氏 一つ目は、運用会社が運用プロセスの全ての段階に「サステナブルな視点」を取り入れているか、チェックすること。二つ目は、運用会社は投資先企業にエンゲージメント(建設的対話)を行っているか注意することが必要だ。
三つ目だが、真剣に社会の持続可能性を高めようとする運用会社は、投資先企業にサステナビリティを求めることにとどまらず、自社の活動でも持続可能な社会に向けて行動しているはずだ。運用会社の日頃の活動についても、注目しておくことが必要だろう。
-フィデリティのESG投資の強みは
井川氏 フィデリティは、投資にあたって企業を徹底的に調査する「ボトムアップ・アプローチ運用」の草分けだ。1970年代から、株主として投資先企業と対話を続けてきた。企業の経営に積極的に関与する「アクティブ・オーナーシップ」を実行してきた。
2019年には独自のESGレーティング(格付け)を導入した。20年には、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に対応したレポートを発行し、温室効果ガス(GHG)をネットゼロにするコミットメントを公表するなど、取り組みを加速している。
◆情報開示、プログレスレポートの期待に応える=野々垣氏
-開示の工夫は。
野々垣氏 金融庁は5月、「資産運用高度化プログレスレポート2022」を公表した。そこに記載された「ESG投信を取り扱う運用会社への期待」を当社なりに読み取り、このファンドの目論見書には従来とは異なる要素を盛り込んだ。七つのポイントにまとめた。
-目論見書の七つの工夫は。
野々垣氏1点目だが、「ファンドの目的」の「ファンドの特色」の部分に「ポートフォリオ構築において、ファンダメンタルズ分析とESG分析を基に、リスク度合い、流動性、業種分散、銘柄分散、温室効果ガス排出量等を総合的に勘案して組入銘柄および組入比率を決定する」ことや、「評価レーティングにおいて、優れたESG特性を持つと判断される企業の組み入れを、社内基準に基づき高位に保っている」ことを記載した。
2点目は、「運用プロセス」について、ポートフォリオが「組入れ銘柄の選定」「ファンダメンタルズ分析とESG分析の総合」「ポートフォリオ構築」の3段階で行われることを示した。3点目は、当社独自のESGレーティングを紹介した。
4点目は、候補銘柄を出した後、その内容を精査するときに、ファンダメンタルズ分析とESG分析を総合して絞り込んでいることを明記した。5点目は、ポートフォリオの組み入れ比率の決定にあたって、炭素排出量を勘案していることや、2050年の温室効果ガス(GHG)ネットゼロに向けてモニタリングを行っていることを説明した。6点目は、ESG投資に関する当社のガバナンス体制を紹介した。7点目は、「投資リスク」の部分に「ESG投資に関するリスク」を追加した。
-月次運用レポートの工夫は
野々垣氏 1点目は、ポートフォリオの炭素排出量を、当ファンドとTOPIX(東証株価指数)で比較して掲載した。「投資額100万円当たり」と「投資先企業の収益100万円当たり」の二つの図で示した。2点目は、投資先企業のESGレーティングの分布状況を、当ファンドとTOPIXで比較した。
3点目は、組入上位10銘柄の紹介部分で、それぞれの銘柄についての「脱炭素の取り組み」を紹介し、どのような観点で評価し、成長性や収益機会が期待されるか、を説明した。4点目は、毎月のハイライトとして、投資先企業から1社を選び、ESG評価を記載した。今後は、半期または四半期に1度程度、エンゲージメントのハイライトも掲載予定だ。また、同ページでは、脱炭素に関する国内外の動向についても記載を追加している。
【フィデリティ投信】フィデリティ・脱炭素日本株・ファンド
https://www.fidelity.co.jp/funds/focus/sct
【金融庁】「資産運用業高度化プログレスレポート2022」の公表について
https://www.fsa.go.jp/news/r3/sonota/20220527/20220527.html