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〔マーケット見通し〕落ち着きを取り戻し、業績相場へ=三菱UFJ国際投信・安井氏

2022年01月31日 09時00分

安井陽一郎チーフファンドマネジャー

 三菱UFJ国際投信が開催した記者懇談会で、株式運用部海外株式グループの安井陽一郎チーフファンドマネジャーが、「米国株式市況の今後の見通し」をテーマに講演した。この中で安井氏は、乱高下する市場動向について「需給調整が済めば、落ち着きを取り戻すだろう」と予想、その後は「業績相場に移行し、本格的な調整局面に入るまでに2年程度の期間があるのではないか」と指摘した。


◆需給調整後、落ち着きを取り戻す

-直近の株式市場の乱高下をどう見るか。

安井氏 年初から世界の株式市場は大荒れになった。米連邦準備制度理事会(FRB)の急速な金融政策の方向転換は、市場に大きな影響を及ぼした。「テーパリング(量的緩和の縮小)を早める」「利上げを行う」「バランスシートの縮小もやる」と、矢継ぎ早に新たな方向性を打ち出してきた。

 これを受けて、機関投資家は資産の内容を変化させた。例えば、PER(株価収益率)の高いテクノロジー株を売却し、金融株や素材株を増やした。足元の株式市場で起きていることは、こうしたポートフォリオの入れ替えに伴う、需給主導による急速な調整だと見ている。

 ただ、もし今年3回、来年3回、再来年2回のペースで、0.25%ずつ利上げが実施されたとしても、政策金利の水準は2%程度にとどまる。リーマンショック前のように4~5%に戻るわけではない。また、名目金利から予想物価上昇率を引いた実質金利は、まだマイナスだ。

 このため、利上げが米国景気に悪影響を与えるとは考えにくい。需給調整が収まれば、株式マーケットは落ち着きを取り戻すだろう。


◆これから業績相場へ

-米国の景気サイクルから見た株式市場の動向は

安井氏 米国は、先進国で唯一、景気サイクルが残っている国だ。日本や欧州のように、万年不況・デフレということはない。景気サイクルを出発点に、金利や株式のサイクルが生まれるので、状況を分析しやすい。

 例えば、米国株が調整局面に入るサイクルは明確だ。「景気が過熱する⇒FRBが連続的に利上げする⇒景気が失速して、リセッション(景気後退)が起こる」パターンだ。現在の米国の状況を見ると、FRBはまだ利上げしていないし、3月に利上げがあったしても、その効果が出てくるのは、再来年(2024年)の初めだろう。

 このように、景気サイクルから米国の株式市場を考えると、本格的な調整局面に入るまでに、まだ2年程度の猶予期間があるという感覚を持っている。前半の「金融相場」は終わったが、まだ後半の「業績相場」が残っているというイメージだ。

 前回2013年の引き締め局面では、当時のバーナンキFRB議長が突然、テーパリングを行うと発言し、市場が荒れた。テーパリングや利上げが実施されると、マーケットは一時的に調整したが、その後は上昇トレンドに戻った。過去のパターンを見ても、今回もどこかでマーケットは落ち着きを取り戻すだろう。


◆利上げと株高が共存

-今後の注目点は。

安井氏 利上げと株高が共存する「業績相場」が来ると予想しており、その動向に注目している。PER(株価収益率)とは、株価を1株当たり利益で割ったものだが、利上げ局面では一定水準を維持して、それほど下がらないことが多い。健全な景気拡大の中での利上げであれば、利益が上昇し、株価も上昇するためだ。今後は「利益を出せる企業」に投資していくことが重要だろう。


◆企業決算は総じて好調

-企業業績の見通しは。

安井氏 2022年の米国企業の業績は、前年比8%程度、増加すると見込んでいる。強気の見方では14~15%増を予想する人もいる。PERが一定であるなら「業績が拡大する分だけ株価が上昇する」という、典型的な業績相場になるだろう。

 足元では2021年10~12月期の決算発表が始まっている。まだ、発表企業数は少ないが、業績は総じて良好だ。発表企業のうち約75%程度が、事前予想を上回った。

 業績にマイナス要因となるのは、原材料費の上昇だが、米国企業には二つの特徴がある。一つ目は、米国企業は売り上げ原価に占める原材料費の割合が低いことだ。米国の株価指数の上位銘柄は、インターネットやソフトウエア、ヘルスケアの会社が占めており、原材料費の影響を受けにくい。

 二つ目は、原料費のコスト転嫁の考え方だ。米国の製造業の企業に「原材料費上昇のコストは誰が負担するのか」と聞くと、答えは明白で「コストの上昇分は、製品価格を値上げするので、消費者が負担することになる。当社でも中間業者でもない」と、明確な回答が返ってくる。値上げに対する反応については「消費者は値上げを受け入れ、購入してくれている」と話している。

 米国企業の業績を振り返ると、昨年7-9月期の決算も好調で、利益率は過去最高だった。米国企業は今後も、利益水準を確保する可能性が高いだろう。


◆「利益成長できる企業」に注目

-成長株の見通しは。

安井氏 「成長株」対「景気敏感株」、「成長株」対「割安株」という区分けは、あまり適切ではないと思っている。「利益成長できる企業」対「利益成長できない企業」という区分けで見るべきだろう。

 例えば、GAFA(ガーファ)FANG(ファング)などの大型のテクノロジー株は、今後も安定的に利益成長するだろう。必要なソフトウエアを使用時に提供するSaaS(サース)のように、収益の見通しが立てやすいサブスクリプション(定額料金)方式の企業もあるので、ライセンス(使用許諾)売買方式の企業と区別して、丁寧に利益成長企業とその株価水準を見極める選別力が必要だ。

 成長株の底入れの時期だが、過去のパターンを見ると、1回目の利上げのタイミングまでは売り込まれることが多い。利上げが始まり、巡航速度で繰り返されると、成長株は買い戻される傾向がある。2023年の米国経済は、国内総生産(GDP)で、2%程度の成長が見込まれている。米国経済が、現在の一時的に高いGDP成長から、安定した成長路線への回帰をたどるとすれば、成長株は見直される時期が来るだろう。

 

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