〔マーケット見通し〕米国の金融正常化が進むが、流動性相場は継続-三井住友DSの市川氏
2021年11月16日 09時30分
三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジトは、記者勉強会を開き、今後5年を見通した「国際金融情勢の中長期展望」を説明した。
◆米利上げでも、株価は崩れないだろう
米金融政策の正常化については、11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、①同月から量的金融緩和の縮小(テーパリング)を開始し8カ月程度で終了する②物価は来年4-6月期か7-9月期に落ち着く③最大雇用は来年後半に達成できる-とする見通しが示された。「来年後半には利上げの余地が出てくるかもしれない」とするメッセージが、市場に広がった。
ただ、テーパリングとは中央銀行が金融市場への資金供給を段階的に減らしていくことなので、米連邦準備制度理事会(FRB)の総資産残高は、テーパリングが始まっても緩やかに増加し、緩和的な金融環境が継続するだろう。
当社は、米利上げについて来年10-12月の実施を予想しているが、量的緩和後の利上げは、資金吸収ではなく、上限・下限金利の引き上げによって行われるため、資金の供給量が引き締まりにくい。
このため、米利上げが実施されても、緩和的な金融環境が継続し、株価は崩れないだろうと見ている。今後5年の金融市場についても、流動性相場が継続し、株式などのリスク資産に心地よい環境が続くだろう。資源価格は、コロナショック後の特殊要因で需給関係が引き締まっているが、今後5年を展望すると資源需要はそれほど強くないだろう。
◆主なイベント「来年7月に参院選、11月に米中間選挙」
今後のイベントだが、日本では2023年4月に黒田日銀総裁の任期が満了する。もし日本の金融政策が修正されるとすれば、その後になると予想されるため、日本の量的緩和政策は当面続くだろう。2022年7月に参議員選挙が予定されている。大きな波乱がなければ、岸田政権は長期政権となる可能性が高い。
一方、米国は、来年2月にFRBのパウエル議長が任期を迎え、後任にはブレイナード理事が予想されている。ただ、二人ともハト派(金融緩和を支持する傾向がある人)であり、政策スタンスが大きく変わることはないだろう。来年11月には米中間選挙を迎える。バイデン大統領の支持率が低下していることが懸念材料だ。
◆ドル円の購買力平価は「緩やかなドル安・円高」を示唆
ドル円相場は近年、年間の変動幅が10円程度と小さくなっている。その要因として、①日米とも金利水準が低下している②日本の経常収支の構成比を見ると、海外生産が進んだことで「(ドルから円に転換される、輸出入に関する)貿易収支」の割合が低下し、「(ドルから円に転換されない、対外債務から生じる利子・配当金等の)第一次所得収支」が増えている-などが考えられる。なお、ドル円の購買力平価は、超長期の観点で、かなり緩やかなドル安・円高を示唆している。
◆日経平均株価「3万円を回復し、上振れ余地も」
日経平均株価は、2012年から形成されている長期の上昇トレンドが継続している。「米政府債務の上限問題」や「中国不動産大手の恒大集団問題と電力不足問題」「(景気後退と物価上昇が同時に発生する)スタグフレーションのリスク」などが懸念材料になっているが、過度の懸念は不要だろう
日本企業は、来年度の業績予想について、やや慎重な見方を示している。ただ、先ほど指摘した日本株を取り巻く懸念材料が後退し、(部品不足等の)サプライチェーンの混乱が収束すれば、日本企業の業績予想は改善するだろう。そうすれば、日経平均株価は3万円を回復し、上振れ余地が出てくるのではないか。