AM―One、温室ガス・ネットゼロ資産53%を目標に=業界初、中間目標を設定
2021年11月01日 09時30分
アセットマネジメントOneは、温室効果ガス排出量のネットゼロ達成に向けた投資の普及に取り組む。中間目標として、2030年までに運用資産の53%を、ネットゼロのシナリオに沿った資産にする。こうした目標を設定するのは、国内の運用会社で初めて。
運用本部長の青木信隆常務執行役員は「今3月末の当社の運用資産(57兆円)に当てはめると30兆円という大規模なものだ」と指摘。「個人投資家の皆さん、年金基金などのアセットオーナー、投資先の企業など、多くの関係者の賛同を得て、社会全体をネットゼロに進めなければ達成できない、野心的な目標だ。運用会社は、投資家と企業の両方に接点を持っている。両者に働きかけ、全力で取り組みたい」と話している。
青木常務執行役員と責任投資グループESGアナリストの大森健雄氏に話を聞いた。
-目標の内容は。
大森氏 ネットゼロとは、温室効果ガス排出量と吸収・生産量を合わせて、実質的な排出量を全体としてゼロにすることだ。気候変動問題に関する国際的な枠組みであるパリ協定で、各国は「世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2度より十分に低く保ち、1.5度に抑える努力をすること」と「温室効果ガス排出量と吸収量のバランスを取ること」で合意した。
当社は、2050年に温室効果ガスをネットゼロにする目標に向けて行動する企業や、目標を達成した企業に投資する資産を、2030年までに当社の運用資産の53%にすることを目指して増やしていく。
-中間目標を設定した経緯は。
大森氏 当社は昨年12月、グローバルな資産運用会社によるイニシアティブ「Net Zero Asset Managers initiative」に、初期メンバーとして東アジアから唯一参加した。アドバイザー・グループの一員として運営をサポートしている。当初30社だった加盟運用会社は、7月末には128社に増え、各社の運用資産の合計は約43兆ドル(約4900兆円、グローバルの運用資産の4割超)に拡大している。
このイニシアティブの目的は、温室効果ガス排出量を2050年までにネットゼロにする目標の達成をサポートすることだ。参加する運用会社は、2030年の中間目標を設定して、少なくとも5年ごとにレビューすることとしている。
-目標達成に向けて、ファンド面の対応は。
大森氏 ファンドマネジャーが投資対象を選定するアクティブ運用では、気候変動問題に積極的に取り組む企業の株式や社債に投資するファンドを立ち上げる。これにより、先駆的に取り組む企業に対する資金供給を促進し、ネットゼロの対応をさらに前進させる。
指数に連動させることを目指すパッシブ運用では、ESGを重視した指数を使ったファンドを設定する。さらに、株式市場全体に投資する一般的な指数でも、ネットゼロに向けて企業とエンゲージメント(建設的な対話)を行うことを明確に打ち出したファンドを設定する。これにより、取り組みの遅れた企業の対応を促進し、市場全体をネットゼロの方向に動かしていく。
-スチュワードシップ活動(投資家としての行動)は。
大森氏 「市場全体をネットゼロに動かす」という観点から、取り組みの進まない企業を簡単にダイベストメント(排除)するのではなく、継続的にエンゲージメント活動を行って、改善を働きかけることを優先する。エンゲージメントを繰り返してもネットゼロの対応が進まない企業があった場合は、株主総会で取締役選任議案に反対することも検討する。
-関係機関との連携は。
大森氏 気候関連の情報開示を巡っては、20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の要請を受け、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」が設置され、開示のガイドラインを公開している。
日本では、官民協働の「TCFDコンソーシアム」が作られ、TCFDに基づく情報開示の普及・促進に向けて活動している。世界にも例がないもので、この成果によりTCFDに賛同する企業数は、日本が世界最多になっている。当社は、同コンソーシアムの企画委員会のメンバーを務めており、ガイドラインの実践に向けて貢献していきたい。
-ネットゼロ投資の意義と、運用会社の役割は。
青木常務執行役員 当社自身が「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」を推進しており、「投資の力で未来をはぐくむ」をコーポレート・メッセージとして、事業活動を行っている。
運用リターンは、経済活動の付加価値が分配されたものなので、ベースとしての経済活動が健全に持続可能な形で発展していかないと、サステナブルなものにならない。われわれ運用会社の役割は、環境と経済を両立させるような形で、お金を循環させる仕組みを作ることで、社会の持続可能性を高め、お客さまの期待に応えることだ。
-取り組みのポイントは。
青木常務執行役員 「『山を動かす』パッシブ運用、『流れを呼び込む』アクティブ運用」を掲げて、お金の流れを作っていく。具体的には、パッシブ運用については、エンゲージメントと議決権行使により、市場全体をネットゼロ社会へと移行させる。アクティブ運用は、持続可能な社会に向けて、価値を発揮する企業に投資していく。
当社の運用資産の6割程度はパッシブ運用だ。2030年の中間目標は、パッシブ運用部分の資産をネットゼロにしないと達成できない。すなわち、東証株価指数(TOPIX)を丸ごとネットゼロするという野心を持っている。当然、投資家と投資先企業の皆さまの理解なしには進まない。運用会社は、投資家と企業の真ん中にいるので、その橋渡し役として、対話を推進していく。
企業には、まずネットゼロを目指すことを宣言していただき、計画を立案し、進捗(しんちょく)状況を開示してもらう。また、TCFDコンソーシアム等で情報開示のスタンダードを作り、市場全体に広げていく。さらに、運用会社が連携して、上場基準に環境関連の項目を盛り込むことなどを提言していくことで、市場全体を改革することも可能になるだろう。