資産形成のサポート強化=手数料下げ、つみたてNISA対応-キャピタル小泉社長
2021年10月08日 09時00分
米系大手運用会社キャピタル・インターナショナル(本社東京、小泉徹也社長)は、老後に向けた資産形成のサポートを強化する。確定拠出年金(DC)で使われている主力ファンドの信託報酬を引き下げたほか、「つみたてNISA(少額投資非課税制度)」でも利用できるように、10月1日付で金融庁から対象ファンドの認定を受けた。小泉社長に話を聞いた。
◆アクティブで1%切る信託報酬
-老後資産形成のサポートに向けた対応は。
当社は9月1日付で、世界の株式に投資するアクティブ型の投資信託「キャピタル世界株式ファンド(DC年金専用)」の名称を「同(DC年金つみたて専用)」に変更し、信託報酬率を年1.42%(税抜き)から同0.98%(同)へ引き下げた。また、金融庁の認定を受けて「つみたてNISA」のお客さまにも購入してもらえるようになった。今後もさらに、長期間の積み立て投資で資産形成を目指す個人投資家をサポートしていきたい。
-変更の狙いは。
キャピタル・グループのミッションは、投資の成功で、人々の人生をより豊かにすることだ。日本においては「投資」を、身近な存在にすることを推進したい。キャピタル・グループの投資に対する考え方を、日本の現役世代や老後世代に伝えて、老後に向けた資産形成や夢の実現をサポートするサービスを提供していきたい。
-米国の動向は。
過去30年間では、日本の個人金融資産は約2倍の増加に対し、同期間の米国は約5倍の増加となった。
ただ、米国が特別なことをやったというわけではない。ポイントは2点ある。一つ目は、米国政府がDCや個人退職勘定(IRA)など、投資によって税制優遇を受けられる制度を整備し、「少額」を「長期間」に渡って「自動的」に「積み立て投資」することが、国民の間に定着していたことだ。
二つ目は、個人投資家が安心して長期投資を実現できるように、金融機関の担当者やファイナンシャル・アドバイザー(FA)がサポートするサービスを提供していることだ。彼らは、お客さまごとにライフプラン(お金に関する生涯設計)を立て、それに沿った運用計画や運用商品を提案している。さらに、運用期間中も「ファイナンシャル・コーチング」を行い、さまざまなアドバイスを提供することで、個人投資家をサポートしている。
◆自動化、コーチングが重要
-日本の課題は。
一つは、資産形成・資産運用における投資の自動継続の推進だ。米国では、毎月自動継続的に掛け金を積み立てる確定拠出年金等が広く利用されていて、投資信託を通じて、資金が運用されている。日本においても、企業型DCやiDeCo(個人型DC)、つみたてNISAが整備され、長期の積み立て投資ができるようになっているが、さらに、何も考えることなく、自動継続的に、毎月毎月、長期に投資する仕組みを、進めるべきだろう。例えば、昇給したら、自動的に積立額も上がるような仕組みなど、改善の余地はいろいろある。
二つ目は、ファイナンシャル・コーチングを普及させることだ。米国ではFAやコールセンターの担当者へ、個人投資家一人ひとりの人生を豊かにできるよう導くためのアドバイスを提供している。日本においても、30年~40年に及ぶ長期の資産形成をサポートするようなファイナンシャル・コーチングが重要だと考えている。例えば、マーケットが下落する局面では、お客さまに寄り添って、投資を継続できるようにアドバイスすることは重要だ。
-ファンドの運用実績は。
「キャピタル世界株式ファンド(DC年金つみたて専用)」と同じ手法で運用している米国のファンドについて、過去の運用実績を紹介する。このファンドが運用を開始した1973年に100万円投資したとして試算すると、2020年末の資産額は、運用益を含めて7269万円に拡大になる。同じ期間を、世界株式で運用する、代表的なインデックス型のファンドに投資したとすると、資産額は2083万円にとどまっており、アクティブ型運用の強みを発揮している。
また、このファンドに、1980年から40年間、毎月1万円投資したケースをシミュレーションすると、資産額は4459万円になった。夫婦でそれぞれ1万円を投資すれば、世帯で1億円弱の老後資金を得られる試算になった。長期に積み立て投資することは、とても大切だ。
◆ファンドは、継続性・再現性をチェック
-ファンドを選ぶポイントは。
3点ある。一つ目は、長期的視点に立って安定した経営を行っている運用会社を選ぶことだ。キャピタル・グループは1931年の設立で、90周年を迎える。長期にわたって、投資家の資産形成をサポートしてきた。約260兆円の運用資産をお客さまからお預かりしている。
二つ目は、長期にわたる運用実績(トラック・レコード)を持つファンドに投資することだ。キャピタル・グループの最も古いファンドは、1934年に運用を開始したもので、現在も運用を継続している。キャピタル・グループは、運用戦略の本数を40本弱に絞り込んでおり、ファンドを継続して提供することを重視している。
1993年と2020年について、米国のアクティブ型の資産残高トップ20のファンドを見ると、93年にランキング入りしたキャピタル・グループのファンドは3本だった。しかし、20年には11本を占めるまでに増加した。
三つ目は再現性の確保だ。過去の実績が優れていても、それが未来においても再現されなくては意味がない。キャピタル・グループは、ファンドを長期にわたって運用するシステムを構築している。具体的には、ファンドマネジャーを評価する期間が5~8年と他社に比べて長い。また、複数のマネジャーで運用するチーム体制を組むことで、一人のファンドマネジャーでは扱えないような大きな資金を、再現性・継続性を重視しながら運用している。
◆地方大学で授業
-これから日本での展開は。
「キャピタル世界株式ファンド(DC年金つみたて専用)」について、信託報酬を引き下げ、つみたてNISAでの利用を可能にしたので、今後は、DCの運営管理機関や、「つみたてNISA」を提供する銀行や証券会社に働きかけて、このファンドを採用するDC規約や、取り扱い金融機関を増やしていく。
また、ファイナンシャル・コーチングに関しては、FAや金融機関の窓口担当者など、個人投資家にアドバイスを提供する皆さんをサポートしていきたい。「投資の成功で人々の人生をより豊かにする」というキャピタル・グループの企業理念を理解していただき、長期的にお客さまの資産形成を支援するアドバイスを提供するように、働きかけていく。
10月下旬に福島大学で「年金と長期投資」をテーマに授業を実施する。厚労省の社会保障審議会企業年金個人年金部会の部会長代理の森戸英幸慶応義塾法科大学院教授と私が、学生向けに話をする予定だ。来年以降も毎年4~5校の地方大学で授業を実施したいと考えている。授業では、地方学生の皆さんが考えていることをうかがいながら、長期投資の考え方やファイナンシャル・コーチングについて紹介してみたい。
-学生に伝えたいことは
長期投資に臨むに当たって、まず知っていただきたいのは、ポートフォリオの資産配分など、技術的な話ではない。自分の人生、将来をトータルに考えて、その中で「自分のゴールをどこに設定して、それに向けてお金をどのように活用していくか」を考えることだ。車の運転が自動化されていくように、資産運用の世界もさまざまな部分で自動化が進んでいくだろう。だが、自動化が進んだとしても、「自分がどこに行くのか」は、自分自身で考えなければいけない。さらに、皆さんの投資によって、企業が成長し、社会が良くなっていくという、投資と成長の好循環についても話してみたい。(了)